群青の鮫

□30
2ページ/4ページ

「ヤッホー♪元気?」
「たった今、元気じゃなくなった」
「ダメだねスクアーロクン……。元気がないと仕事だって上手くいかないんだよ?知らないの?」
「おい、猿轡して連れてこうぜぇ」
「酷いなスクアーロクンはー♪」

翌日のことである。
飛行機に乗せられ、ヴァリアーの精鋭達に囲まれて連れてこられた白蘭は、手錠を嵌めたままの手で、ニコニコと笑いながら挨拶をしてきた。
なんかこう……イラッとくる笑顔である。

「お前らの任務はここまでだぁ。コイツはオレらが預かる」
「はっ!!ではこれにて失礼いたします、隊長!!」
「スクアーロクン慕われてる〜ムググ!!」
「しし、黙ってろっつーの」
「車に乗せろぉ。行くぞ」
「ム、そうだね」

ベルによって口に布を突っ込まれて、もごもごしている白蘭を、後部座席に乗せて車を発車させる。
騒がしくなくなったことは嬉しいので、この際白蘭の口を塞ぐ布がオレのハンカチであることには目をつぶってやろう。

「ムググー、ムゥーウ!!」
「あ、ほらレインボーブリッジだぜ」
「お仕事が落ち着いたら日本観光したいわねぇ」
「王子寿司食いに行きてー」
「僕は和菓子が食べたいな」
「……オレは雷おこしを」
「オレは新鮮な海鮮料理が食いてぇなぁ」
「むぎゅー!」

むぎゅむぎゅとハンカチ越しに何か叫んでいるが、車内の雰囲気は和やかである。
平穏な空気のまま、オレたちは並盛に向かう。
眠気覚ましのガムが舌にビリビリと刺激を与え、平穏な空気に飲み込まれつつあったオレの意識を現実に引き戻していく。
安全運転、大事だよな。
まあ、そんなことはともかくとして、数十分も車を飛ばせば並盛についた。
キッとブレーキ音を立てて病院の駐車場に車を止める。
車から白蘭を降ろして、病室へと連れていく。

「ぷはっ!!やっと自由に話せるよー。もう、乱暴だなヴァリアーは……」
「ぶつくさ言ってねーでさっさと進め」
「暴れたら電気ショックだからなー」

ぷんっと頬を膨らませた白蘭に、オレらの苛立ちは急上昇していく。
男がほっぺた膨らませても何も可愛くねーんだよ。

「で、山本クンはここ?」
「そうだ。頼むぞ白蘭」
「ふふん♪頼まれちゃった」

色んな所に血管が浮き出ている気がする。
オレの寿命が恐ろしい速度で縮んでいる気がするんだが気のせいか?

「……みんなは、見ちゃダメだよ?」
「……ちっ!!」
「あ、もしかして覗き見て技術盗んだりする気だった?ダメだよ。こればっかりはね♪」

図星である。
あわよくば、なんて考えていた。
仕方ねぇ。
どうせ奴のことだから、見たりしたらその瞬間オレと山本殺してどっか逃げるんじゃねーか……?
仕方なく白蘭の手錠を外してカーテンを締め切り、二人きりにした。

「なー、アイツら二人きりにして平気なのか?つか手錠外すのは流石にまずいんじゃね?」
「足枷付けてんだろ、ビリビリの」
「ふーん」

白蘭が治療を終えるまで、オレ達にできることはない。
と、いうか、ここから先オレ達には何もできることはないのだ。
精々が戦力を蓄え、沢田達が負けた場合に備えることくらいだろう。

「しし、暇だな。ナイフ投げしねえ?」
「あら?ならアタシと一緒にショッピング行きましょうよぉ!!」
「お前らなぁ……。これでも仕事中だぞぉ」

はあ、とため息をつくも、オレも酷く眠たかった。
カリリと眠気覚ましのガムを噛んで、眠気を振り払った。
疲れているのだろう。
こんな時に呑気に居眠りなんて、考えらんねえ……。
でも、眠い……。
シャマルのいう通り、少し働きすぎていた、のだろうか。
ルッスじゃねぇが、仕事が落ち着いた頃にでも、一度長めの休みを取った方が良いかもしれない。

「ヤッホー!!終わったよ、スクアーロクン♪」
「……っ!!」

カーテンが開いた音に、気づけなかった。
気が付くと白蘭がオレの隣にいて、突然かけられた声にびくりと肩を震わせた。

「山本クンはちゃーんと治ったよ。まだ暫く安静にしてなきゃダメだけどね」
「そう、か……」
「?どうかしたかい?」
「なんでもねぇ。お゙ら、手錠つけっから大人しくしてろ」
「またこれかぁ……。やんなっちゃうなもう」
「ルッスーリア、コイツを車まで連れていけ。ベル、マーモン、レヴィも、頼んだぞ」

怠そうな返事をもらって、白蘭を連れて仲間達が去っていく。
それを見送り、オレはベッドを囲うカーテンを開ける。

「あ、あれ?スクアーロ!?」
「……起きたかぁ」

ホッと一息ついて、ざっとその様子を眺める。
……元気そうに見えるな。

「医者呼んでくる。ちょっと待ってろぉ」
「あ、ありがとう?」

なんで疑問形なんだ。
そして医者を呼んで、病室を出たところで、何故か雲雀恭弥とばったり出会した。

「……今日は群れていないんだね」
「あ゙あ?」
「あなたはスゴく、面白そうだけど、今は負傷してるようだし、咬み殺すのはもう少し待ってあげる」
「なんでオレが『咬み殺』されなきゃならねぇんだぁ!?」
「今はシモンを咬み殺さなきゃいけないし、あなたとはまた今度だ」
「話が一方通行過ぎるだろテメー……!!」
「山本武は僕が連れていくよ」
「!……どうせ止めても行こうとするだろうからなぁ。勝手に連れていけぇ」

雲雀は言いたいことだけ言うとすたすたと病室に入っていく。
本当にマイペースな奴だな……。
しかし、雲雀が山本を連れていくのなら、本当にオレ達ができる仕事はここまでになる。
……白蘭連れて、さっさと本国に帰るか。
再び病室に立ち寄ることはなく、オレは病院を出ていった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ