群青の鮫

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「雨部隊、第1班はここで待機。2班、お前らはC地点に」
「はっ!!」
『スクちゃーん、あなたちゃんと寝てるの?』
「寝てる寝てる」
『寝てないのね。んもう、仕方ないわねぇ!!日本についたら、ルッス姉さんが添い寝して、あ・げ・る♡』
「全力で遠慮するぜぇ!!」
『スクちゃんのいけずぅ〜♡』

ハートマークをこれでもかと飛ばしてくるルッスーリアと電話しながら、ヴァリアーの部下達に指示を出して、会場内に配置していく。
結局、9代目達と警備の話し合いをしたが、決まらず、不機嫌なままに翌朝を迎えることになった。
敵の狙いが罪と判明し、その実力が未知数だという以上、半端な警備で罪をみすみす敵に渡すわけにはいかない。
だというのに、9代目と守護者達ときたら、首尾は完璧だなどと抜かしやがって。
イライラと舌打ちをしたスクアーロに、近くにいた部下が一歩後退る。

『ダメよ〜スクちゃん。あんまり殺気ばらまいたりしたら部下の子達が恐がっちゃうじゃない』
「わかってる」
『いくら昨日から警戒しっぱなしで、そのうえ仕事が思うようにいかないからって、周りに当たっちゃダメじゃな〜い!』
「……ああ、そうだなぁ」
『無理しちゃダメよ?スクちゃん、いつも一人で頑張りすぎちゃうんだから』
「そうかぁ?……まあ、とにかく、そっちは大丈夫なのか?」
『そうねぇ……。ボスがちょっと荒れてたけど、みんな良い子にしてるわよん。頼まれてたこともバッチリ!』
「そうか。日本に来ても、寄り道せずに会場まで真っ直ぐこいよぉ」
『心配しなくてもちゃんといくわ!じゃあまた後でねん♡』
「ああ、じゃあなぁ」

電話を切る。
ルッスーリアの言う通り、少しピリピリし過ぎていた。
ザンザスならこんなときは、酒でも飲んで気を落ち着けるんだろうが、オレは残念ながら下戸だしなぁ……。

「隊長!!隊員の配置、完了しました!!」
「わかった。お前は受付についてろ。……シモンがきたら名札としてこれを渡せぇ」
「はっ」

部下に渡したのは、シモンと刻まれたプレート。
他の客に渡すプレートに似せてあるが、この名札にはスイッチを押せば、電気ショックが流れる仕掛けが施してある。
いざというときは、これで動きを封じる。
さて、部下は全員位置についた。
オレは最終確認を済ませると、会場……城の奥にある部屋に向かった。
そこには頑強な金庫がある。
その前に、7人の男が並んで立っていた。

「……7つの炎のシールドか」
「スクアーロ君……。会場の方はどうかね?」
「配置は完了したぁ。この部屋にも、すぐに人を置く」
「必要ねーさ。このシールドを短時間に壊せる奴など、存在しねぇ」
「……」

見下すような視線を投げ掛けながら言った奴に向けて、オレは苛立ちを隠さずに睨み付ける。
ガナッシュ……一番嫌いな奴だ。
サスペンスだと、こういう奴が一番最初に殺されるんだよな。

「それでは我々は戻るよ。よろしく頼むね」
「……了解した」

去っていく奴らを見送ったあと、べーと思いっきり舌を出す。
ムカつく奴だ。
こんな『ここに隠してありますっ!!』と主張してるような隠し方して、もし万が一、あっという間に破られたらどうすんだよ。
こんなもん、さっさと本国に送り返しちまえば良いじゃねーか。

「ったく、クズが……!」

悪態をついてちょっとスッキリしてから、金庫を調べ始める。
……確かに頑強なシールドではあるが、沢田や白蘭くらいの奴なら、簡単に破れそうだ。
相手はギーグファミリーを倒すほどの使い手。
ギーグだってリングをそれなりに使いこなしてはいたようだし、それを殺すんだから相手も相当の強者だろう。
間に合うか?このシールドで。
最悪、罪は奪われたとしてもそのあとできっちりと倒せばいい、か……?
……そもそも、あんな血の瓶なんて何のために求めているんだろう。

「あ゙ー、わっかんねぇ……」

とにかく、敵は殺す。
最終的にはそれだけだ。

「……、やるか」

ベチベチと頬を叩いて、気持ちを切り替える。
敵を逃がさないための様々な仕掛けを取りだし、仕掛け始めた。
手始めに部屋の外にカメラ、中にモニタ。
まだまだ、色んな仕掛けをする。
……そろそろ、1番目の客が来る頃だろうか。
手早く仕掛けを終わらせたオレは、部下を二人部屋の中に入れ、会場に戻っていった。


 * * *


「ゔお゙ぉい!!湿気た面してやがんなぁ、カス共ぉ!!」

会場につき、ヴァリアーの奴らと合流したオレは、沢田たち10代目ファミリーを見付けて声を掛けた。
……って、跳ね馬の野郎もいんのか。
ちっ、タイミングわりぃな。

「……相変わらずだなスクアーロ。XANXUSは……、」
「はっ、来るわきゃねえだろ、ドカスがぁ!!」

ぎこちなく声を掛けてくる跳ね馬にギンと睨みをきかせる。

「あはは……本当に相変わらずだな。つか女の子がドカスとか言っちゃダメだ……うおっ!?」

誤魔化すように笑った跳ね馬の発言が終わらない内に、その口を塞ぐために蹴りを放った。
ついでにベルからはナイフが飛んできていた。

「……何か、言ったかぁ?」
「あ、すみません。言ってないデス」

ホールドアップして冷や汗を垂らす跳ね馬を一瞥し、ため息をついてから脚を引っ込めた。

「それは極秘事項よん♡」
「しし、折角だしポロッとバラされる前に殺っとかねぇ?」
「おいおい……」

ヴァリアーの奴らに絡まれ跳ね馬と沢田達との距離が開く。

「……沢田ぁ、アルコバレーノから何か聞いたか?」
「え?」

沢田は心当たりがなさそうだった。
リボーンは、結局シモンについて何も言ってなかったようだ。
なら、オレも黙っていた方がいい、のか。

「……心当たりがねえならいいが。罪や9代目の警護は9代目の守護者達が何とかする。オレも、犯人を取っ捕まえるのに準備はしてあるが……、万が一の時は、リングの扱いに長けたお前らに戦ってもらうことになるだろう。……覚悟を決めておけよ」
「は、はい!」
「それと、山本のことは心配するなぁ。こっちで手を打つ」
「え?それって……、」

どういう意味ですか、とでも聞こうとしたのだろうか。
その言葉はオレが手を上げたことで遮られる。
跳ね馬が近付いてきていた。

「じゃあツナ、オレ達は会場で待ってるぜ」
「あ、はいっ!!」
「……あとな、お前が何も言ってこねーならつっこまねーが」

チラリと幻術で作られた山本の姿を窺い、跳ね馬がニカッと笑って言った。

「何でも相談してこいよ。力になる」
「い゙っ!?」
「んじゃーまた後でな!!」

跳ね馬と、オレ以外のヴァリアー達が会場の方向に消えていった。

「ば、バレてる……!!」
「安心しろぉ、余程の達人じゃねーとわからねえ」

オレも行くかと、足を踏み出したその時、喧騒の中から怒鳴り声が聞こえ、その方向に目を向けた。

「おいゴラ!!なめてんのか?クソガキ!!シモンファミリーなんざ聞いたことがねえ!!ここは青っ白いガキの来る場所じゃねーぞ!!」
「我々もちゃんと招待状をもらっている!」
「だとぉ!?」

……目線で巡回警備をしている部下に合図する。
オレは気配を消して、怒鳴るオッサンの背後に近寄った。

「テメーらみてーな弱小が招待されるわけが……」
「そいつらは間違いなく、ボンゴレが招待した客だぁ」
「うぎゃ!?な、誰だてめ、ぐっ!!」

突然背後に現れたようにでも、見えたのだろうか。
驚き、すっ飛ぶように振り向いた男……確か、オッソファミリーだったか、の構成員が叫ぶのと、オレの靴底が男の顔面を捉えるのとは、ほぼ同時だった。

「ここは由緒あるボンゴレファミリー継承式の会場だぁ。その招待客に拳を上げるたぁ何様だテメーはゔお゙ぉい!!」
「ふがっ!ぐぶっ!!」
「ボンゴレの顔に泥を塗るってんなら、今すぐ出てってもらうぞぉ」
「がぶぁ!?」

手を上げ、部下を呼ぶと、男とその取り巻きたちを直ぐ様捕縛し、全員放り出すように指示した。
喚く気力もないのか、項垂れた男達が連れてかれる。
ったく、めんどくせえグズがぁ。
だが、奴らのお陰で一つ助かったことがあるぜぇ。
オレはさっきの男に殴られ、倒れている少年に手を差し出した。

「ゔお゙ぉい、怪我はねえかぁ?」
「あ、はい……」

って、怪我してんじゃねーか。
その前に顔中絆創膏だらけだが。
鼻血出てるし、口の中も切れてるんじゃねえのか?
オレは差し出した手をそのまま伸ばして、両手でむにっと頬っぺたを潰した。

「って……!!」
「怪我してんだろうが。おい、水とタオルと絆創膏持ってこい」
「はっ」

ぼうっと成されるがままになっている古里炎真の、垂れた血をハンカチで拭いてやる。
だが部下が救急箱を持ってくる前に、ハッと我に返った鈴木アーデルハイトがオレの手を掴んだ。

「我々は大丈夫だ。……親切にありがとう」
「あ゙あ?手当てしないで良いのか?」
「平気、です……」
「すぐに来るのによぉ」
「でも、平気なんです」

そう言って立ち上がった古里炎真に、オレは肩をすくめた。
折角接触できても、こう連れないんじゃなあ、敵意を確認することも出来ないな。

「……本当に、平気か?」
「炎真が言ってんだからヘーキヘーキ!!おにーさんは気にしないでイーから!!」

オレの質問に答えたのは古里炎真ではなかった。
加藤ジュリー……丁度いい。

「さっきのことはこちらの落ち度だ。手当てくらい、幾らだってするぜぇ?」
「ホントにいいって!炎真はこんくらい慣れっこだしなー」
「……こちらに深く関わりたくない理由でも?」

都合よく、救急箱を持ってきた部下が他のシモン達と話していて、奴らはこっちに注意を向けていない。
声を潜めて、そう聞いた。
加藤ジュリーの口角が歪に上がる。

「そーんなわけないじゃーん?……おねーさんみたいなキレーな人なら尚更ねん♪」
「!?」

『おねーさん』……って、何でコイツが!?
一体なんで、知っていやがる!!
跳ね馬のバカとの話を聞いてやがったのか?
ニヤニヤと笑う加藤ジュリーを見て、ゾクリと背筋が粟立つ。
やっぱりあの気配はコイツ……?
一歩下がり、手のひらに爪を食い込ませて、武器を取り出したくなる衝動を抑える。
ここで暴れたりしたら多くの客を巻き込む。
相手だって、ここで動く気は、ないはず……!!

「あ、ジュリー……。そろそろ行こう」
「ぬふ、そんじゃね、おにーさん♪」
「……っ!!」

古里炎真に呼ばれ、ヘラっと笑って加藤ジュリーは去っていった。
それに着いていこうとする沢田の肩を反射的に捕まえて引き寄せる。

「うわっ!!え、スクアーロ!?どうしたの?」
「言うか言わないか迷っていたが……言っておくぞぉ。シモンに気を付けろ。特にあの、加藤って奴にな」
「え……?」
「オレは行く。じゃあなぁ」

呆然と立ち尽くす沢田を置いて、仲間達のところへ急ぐ。
見付けた4人に話しかけ、会場の人気のない場所に引き込んだ。

「ちょっとちょっと〜!どうしたのよスクちゃん?」
「……この継承式の最中、一波乱あるぜぇ」
「しし!オレたちの出番ってわけ?」
「あ゙あ。ベル、マーモンの二人はオレと罪のある部屋で待機だぁ。ルッスーリアとレヴィは会場内で何かあったときに客を守れ。このスイッチを押せば、待機させてる隊員達に合図が送られる」
「オレらは式、でねーの?かったりーし別に良いけどさ」
「マーモン」
「僕に幻術で誤魔化せって言うんだろ?いいよ、会場にいる格下マフィアくらいなら、騙せるだろうしね」
「でもスクちゃんがそれだけ警戒するなんて、どんな相手なのかしら?」
「……得体が知れねぇ。しかも厄介なのはソイツだけじゃなさそうだしなぁ」
「いーじゃん。ちょっと楽しみになってきたぜ♪」
「いざとなったらオレのパラボラで殺す!なんの問題もないぞ!!」
「騒ぐなバカレヴィ!!」
「スクちゃんも声、大きいわよん?」
「ムム、静かにしなよ、二人とも」

やれやれとマーモンがため息をつく。
騒がしくなり、少し周囲の視線を集めてしまったが、オレは少し安心していた。
加藤ジュリーとの会話で強張っていた体が解れていく。
その様子を見ていたマーモンが、話し掛けてくる。

「大丈夫かい?スクアーロ」
「ああ……。だが、相手はオレの正体を知っていやがった……。ギーグを殺すほどのファミリーだ。お前らも、十分注意しろ」

ピリリとした緊張が走る。
マーモンの幻術で作ったオレ、ベルと
、ルッスーリア、レヴィが会場に向かう。
そろそろ継承式も始まる。
幻術で姿を隠し、オレ達は急いで罪を置いてある部屋に向かった。
……古里炎真と会話を交わしたとき、もしかしたらまだ、決行を迷っているのではと思った。
だが、加藤ジュリーを見てわかった。
奴らは絶対に動く。
部屋から部下は追い出した。
アイツらがいても、殺されるだけだ。

「マーモン、感知を怠るな」
「了解。……この報酬はどうなるんだい?」
「9代目につけとけ」
「いい仕事になりそうだよ」

少しだけ、ジジイの財布を心配してしまった。
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