群青の鮫

□25
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さわりと、冷たい夜の風が、机の上の書類を浮かせる。
老人は、浮いた書類を押さえてから、ゆっくりと背後を振り返った。

「……来てくれたんだね」
「……」

老人が話し掛けた人物は、窓の傍に立ち尽くし、何の反応も返さない。
フルフェイスのヘルメットが表情を覆い隠し、更に踝まで届く裾の長いコートが、その人物の体型を隠しているため、男女の区別はつけられない。
全身を黒で固めた装いの中で、唯一マフラーだけが暗い赤色を主張していた。

「今回の継承式では、ボンゴレと関わりのあるファミリーを、全て呼ぼうと思っている。君には、招待するファミリーを詳しく調べてもらいたいのじゃ。小さなファミリーまで、ひとつ残らずね」
「……雑草駆除をしろと?」

初めて、ヘルメットの人物が声を出す。
変声機でも使っているのだろうか。
声は機械的で、感情が全くと言って良いほど感じられなかった。

「……そうなるかのぅ。そして継承式当日には、会場の警備もお願いしたい」
「……了承した」
「苦労をかけるね……。私は……」
「そう思うなら、もうオレには関わるな」
「……そうか。すまなかったね」
「任務は、確実にこなす」
「アクーラ、私は……」
「これで最後だ、IX世」
「待っ……!」

アクーラと呼ばれたその人は、窓から吹き込んだ突風に老人――ボンゴレIX世が目を閉じた隙に姿を消した。

「ボス?声がしましたが、どうかなさいましたか?」
「……いや、なんでもないよ」

ドアの外で待機していた男が尋ねたが、IX世は首を振ってそう答え、椅子に深く腰掛けた。
アクーラのボンゴレ内での評判はあまりよくない。
それをよく知っているIX世は、アクーラに関することはいつだって秘密裏に行ってきた。
アクーラと、再びその名を呼ぶことを許してほしい。
そう願う自分は、愚かだろうか、傲慢だろうか、欲深いのだろうか。
だがこの仕事は、他の誰でもない、アクーラに行ってもらいたかった。
そして机の上を見たIX世の目に、見覚えのない紙片が映り込む。

″お前の罪を、忘れない。″

IX世がそれを読み終わるのを待っていたかのように、紙が真っ赤な炎をあげて、灰に変わった。
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