群青の鮫

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「ぶっ……くっ!」
「な、なぁ、スクアーロ……?」
「ぶはっ!ぷ、くく……!!」
「大丈夫か?」
「だ、だいじょ、うぶ、だぁ!……くっ!」

後にそれは、スクアーロ爆笑事件と呼ばれた……、なんてことはないが。
そう言われてもおかしくないくらい、珍しくスクアーロが爆笑していた。
挑戦的に笑うことはある。
慣れてくれば、嬉しそうに笑うこともある。
だが基本的にスクアーロの笑いの沸点は高く、爆笑することなんて滅多になかった。
なのに、スクアーロは今、大笑いを堪えて涙目になっている。
その理由はチョイスを行うために向かった、並盛神社に現れたモノだった。
それは、白蘭の首。
正確に言うなら、白蘭の首をアドバルーンで象った、超炎リング転送システム、という装置だ。
空から垂れる真っ白な人の顔。
シュールではあるが、大抵の人にとってそれは恐怖の対象である。
ただしスクアーロは、それを見た途端から、腹を抱えてバカ笑いし始めた。
曰く、「センス無さすぎ」とのこと。

「いつまで笑ってるのかな?」

スクアーロの止まらない笑いを見て、白蘭の表情は変わらなかったが、その瞳の奥は絶対零度まで冷え込んできている。

「ほらスクアーロ!笑い止めろって!!なんか恐いから!白蘭も恐いけど、いつも仏頂面のスクアーロが爆笑とか恐いから!!」

そんなスクアーロを止めるべく、先程から山本と、ディーノ……つまりオレの二人で、四苦八苦してるのだが……。
今になってようやくおさまってきたようだ。

「……そろそろ良いかな?ってわけで、ようこそ雷のフィールドへ。何度も会っているような気がするけど、僕と会うのは初めてかい?綱吉君」
「びゃ、白蘭と真6弔花!!」

ペースを乱されたせいか、ツナの声にいつものような張りがない。
わかる、わかるぜツナ。
なんでツボっちゃったんだよスクアーロ……。
息も荒く、未だ肩を震わせているスクアーロの背を擦って落ち着かせる。
触んじゃねー、みたいな顔で睨まれて、ようやくスクアーロが元に戻ったと思い、安心する。
……ん?
睨まれて安心ってなんか、……あれ?
納得がいかない……!

「次のチョイスをはじめなきゃ」

って、オレ達がそんなことやってる間に、白蘭が謎の物体を取り出していた。

「なんだあれ……、つか横目で窺ってたが、真6弔花ってのもまた化け物級の奴らが勢揃いしてるみてーだな」
「そんなこと知った上でここに来てんだろうが。……次のチョイスが始まったな」

やっと立ち上がったスクアーロが、いつもの倍、不機嫌な声で言う。
ツナと白蘭のいる方へ視線を戻すと、二人の持つルーレットのようなものが回り始めたところだった。
ガラガラと、子どものオモチャのような音を鳴らして回ったルーレットが止まる。

「これで決まったからね。バトル参加者♪」

見易いように映し出されたルーレットの結果は、ボンゴレとミルフィオーレの紋章の下にそれぞれ各属性のマーク。
そして、マークの横には数字が。

「あれは……?」
「オレに聞くなぁ……と言いてえところだが、恐らくこのチョイスへの各属性の参加人数だろうな」
「なるほど……!」

スクアーロが言ったのと、丸っきり同じことを入江が言う。
それに答えた白蘭は、さっきより少し、絶対零度の雰囲気が薄れてきていた。

「そ♪ジャイロルーレットでチョイスされたのは、実際にフィールド内で戦う各属性の戦士の数だよ」

互いのチームの合計が違うってのも、チョイスの醍醐味だとか。
隣でスクアーロがボソッと、くだらねーと呟いたのは、幸いなことに誰にも聞かれなかったらしい。

「おい待て!!だったら一番下の□はなんだ!?あんな属性見たことねぇ!」

そう言った獄寺に、内心オレも同意する。

「あぁ、あれは無属性。つまりリングを持たぬ者を示しているんだ。君たちは2、だから、2名を選出しなくちゃならない」

つまり非戦闘員も数に含まれるってわけか。
だから白蘭は全員連れて来いなんて……。

「……リングを外せば、」
「真6弔花にリングなしで対抗する気かお前は……」

隣でまたもや物騒な呟きを溢したスクアーロに冷や汗を流す。
こいつの戦いへのモチベーションは呆れを通り越し尊敬する……。

「キャッ!」

女の子たちの悲鳴に振り替えると、いつのまにかボンゴレチームのど真ん中に、ミルフィオーレの……ぬいぐるみを抱えた男の子が立っていた。

「何なのあなた!」
「僕チン……デイジー……。これ……、あげる」

怖がる京子に、ボロボロに枯れた一輪の花を差し出すデイジー。
ふざけてんのか!?
てか、早く彼女らから引き離さねーと。

「……枯れたもんを人にプレゼントたぁ、随分礼儀がなってねーようだなぁ、ゔお゙ぉい!」
「「す、スクアーロさん!!」」

オレも内心スクアーロと叫びたかった。
お前いつの間にそんなとこに!
っつか、人の顔見て笑ってたお前がそれ言うか!?

「じゃあ……あなたにあげる」
「ちっ!次は綺麗な花持ってこい」
「うん……!」

え?受けとるの?
てか次あるの!?
そもそもオレからの花なんて受け取ろうともしなかったくせに!!
デイジーって奴も、ちょっと嬉しそうにするなよな!!

「ハハンッ。スイマセンね、ちょっと目を離したスキに。デイジーはあなた達のように美しく……、滅びゆくものに、目がないんです」

桔梗とかいう奴の眼光に晒され、怯えきった二人の前に、視線を遮るようにしてスクアーロが立つ。

「あなたもまた、気に入られたようだ」
「……ふん」

スクアーロを見る桔梗。
それにスクアーロは不機嫌そうに鼻を鳴らして返すだけだったが、何だかオレは違和感を感じる。
ミルフィオーレの奴らが、何だか、怪しげ……いや、元々胡散臭い連中ではあるんだけど、何か、知った風というか。

「さーて、それじゃあお互いの参加メンバーを発表しよっか」

お、メンバーは相談で決められるみてーだな。
どうやら無属性ってのにリングのない入江やスパナは適用されるみたいだから、非戦闘員は戦わないで済みそうだ。

「ボンゴレの参加メンバーは、大空に綱吉君、嵐は獄寺君、雨は山本君。
無属性は、僕と、スパナが適任だ。」

入江のその提案がリボーンにも支持される。
オレも戦闘経験者でメカニックもいるこのメンバーで賛成だ。
だが血気盛んな奴らの中にはそれに不満を抱く者も。

「待たんか!
オレが出れんのは極限におかしいではないか!!
極限に我流と修業をしたんだぞ!!」
「ここは我慢してくれ。
条件は向こうも同じ。
これがチョイスなんだ。
それにジャイロルーレットの結果は決して悪くない!!
向こうは一人少ない上に白蘭サンも出られないんだ!!」

我流ってのは了平の相棒晴カンガルーのこと……だったよな?
変わったネーミングだよな。
とりあえず了平はそれで納得したみたいだけど……、オレは知ってるぜ。
そんな理由で引き下がらない奴がいることを……。

「そんな理由で納得すると思ってるの?
僕は出るよ。」

……ほらな、恭弥は引き下がらねーんだよ。
ってことで、ここは満を持してオレの出番ってわけだな。

「待てって恭弥。
ったく、しょーがねー奴だなぁ。
考えてみろよ。
ツナたちがミルフィオーレに勝てばその後はどいつとでも好きなだけ戦えるぜ。
少しの辛抱じゃねーか。なっ。」

オレの説得に妥協してくれたのか、恭弥は急いでよ、とだけ言って武器を納めた。
こっそりスクアーロにブイサインを送ったら無視された。
……泣いてなんか、ねーからな!

「ツナ、お前が決定しろ。
そのメンバーでいいのか?」
「え?は……はい!」

ツナの返事でこちらのチームの参加者は決まる。
恭弥は出られねーが、ツナに獄寺、山本の3人が出られる。
チームワークも力量も問題はなし!
問題は向こうのチームの参加者だが……?

「それじゃあ今度は僕ら、ミルフィオーレの参加戦士を紹介するよ。
雲は最も頼りになる真6弔花の優しいリーダー、桔梗。
晴は殺したいほど生ける屍、デイジー。
霧は真実を語る幻影の巨人、トリカブト♪」

一通り紹介して白蘭の口が閉じる……って、一人足りてねーじゃねーか。

「……!
それじゃ足りてない!
お前達の霧の数は2だぞ!!」
「まあ!」
「困った!」

バジルの言葉に驚いて返す仕草は酷く白々しい。
憎たらしいぜ……。

「なーんて言わないよ。
前に言ったように真6弔花にはAランクの部下が一人につき百人ついてるんだ。
もう一人の霧のプレイヤーはここにすでにいるよ。
トリカブトの部下、猿ね♪」

白蘭の言葉に合わせて現れた翁面の男は、まさに猿のようなふざけた格好をしているが、一つ一つの仕草に隙がない。
霧の幻術師……しかもオレたちにその存在を悟らせないほどの。
クロームも気付いていなかったようだ。
厄介な奴が増えたぜ……。

「奴ら、人員には困らないってわけか……。」
「卑怯な……。」

…………卑怯、とは、ちょっと違うと思うぜ?
言わねーけどさ。

「さーて、いよいよ一番大事な勝敗のルールなんだけど、数あるチョイスの中から、最もシンプルかつ手っとり早い――ターゲットルールでいくよ。」

ターゲットルールについては入江が説明してくれた。
各陣営で敵の標的になる人物を一人決め、その標的がやられた方が負け。
つまりはチェスなんかと似たようなルールってことだな。
確かに単純明快で手っとり早いぜ。

「ちなみに標的はさっきのルーレットですでにチョイスされているんだよ。
ルーレットボードの属性のマークに炎が灯っているだろう?」

炎が灯っているのは、ボンゴレは無属性、ミルフィオーレは晴だ。
で、二人以上いるボンゴレの標的はランダムに選ばれるらしく、ジャイロルーレットからの光は真っ直ぐに入江を指した。
なるほどな、ボンゴレはデイジーを狙い、ミルフィオーレは入江を狙って来るのか。

「けっ、ルールの幅が広い分、お互い好き勝手やれそうだな……。
しかも相手のターゲットは戦えるときた……。
面倒くせぇ……。」

スクアーロが眉をしかめて言った通り、人数についてはこちらは有利だけど、全体的にはかなり不利に見えるぜ……。
しかも……

「ぎゃあっ!」

入江の胸のターゲットマークから炎が吹き出した。
それはどう見たって死ぬ気の炎。
下手すりゃ普通に立ってるたけで死んじまう。
あの炎が消えるまでが制限時間にもなるってわけか。
エグいこと考えるぜ……。

「なっ、なんてことを……。」
「いいんだ、はじめよう……。」
「で……でも入江君!
ムリしないで!!」
「ヘタすりゃ炎出してるだけで死んじまうぞ。」
「……それは、敵も同じこと。
それに、僕は犠牲心でやるんじゃない!
白蘭サンをこんなにしちゃったのは僕なんだ!!
僕が逃げるわけにはいかない!!」

……?
今のは一体どういう意味だ?
入江正一は大学時代から白蘭と親しい仲だったとは聞いていたが……。

「へぇ〜、正チャンそんな風に考えてたんだぁ。
まぁいいや。
前に言ったけど、この盛大なチョイスの勝者の報酬は、全てのマーレリングに……、全てのボンゴレリング……、そして全てのアルコバレーノのおしゃぶり……。
すなわち新世界を創造する礎となる、僕が今一番欲しいもの、7з(トゥリニセッテ)だよ♪」

トリカブトって奴の幻術か、天を突くビル群が囲む狭い空に、7зを象った3つの花火が浮かび上がった。
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