群青の鮫

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――イタリア戦線
ボンゴレの奇襲作戦を早期に察知したミルフィオーレは、圧倒的戦力でボンゴレの連合ファミリーを追いつめ、勝負はついたかに見えた。
だがXANXUS率いるボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーの急襲により、わずか10分でミルフィオーレの指揮官のいる古城は占拠された。
しかしこれにより、32名しか隊員を持たないヴァリアーは、四方を圧倒的兵力のミルフィオーレ勢に囲まれ、窮地に立たされることとなる。

「んもうっ!嫌になっちゃうわ!!籠城戦なんて退屈よ!!ディフェンスなんて性に合わないわ!!」

四方をミルフィオーレに囲まれた窮地での台詞がこれである。
全く呑気なものだ。
人知れずため息を落とし、スクアーロは生温い視線を同僚たちに送る。
この古城は元々はボンゴレの持ち物。
地の利は此方にあるが、少人数での籠城戦となると、やはり分が悪い。
だが、彼らはヴァリアー。
どんな敵だろうと圧倒的な力を以て制圧する。
今のようなピンチの時だろうと、それが変わることはない。

「で、みんなの配置はどうするの?スクアーロ作戦隊長」
「ゔむ……。レヴィとルッスーリアは城で待機して何かあればサポート。オレは東の抜け道を守る。南はベルとフランだ。ザコは好きに連れていけ」

大雑把極まりない指示ではあるが、血気盛んな戦闘狂どもには、これくらい分かりやすい指示がちょうど良い。
文句を言うベルと、新人幹部のフランを叱りつけて、ウインクをして何かを伝えようとするレヴィを殴って黙らせる。
この忙しいときにふざけてるんじゃねぇ。

「んふっ♡私たちって本当、身も心も醜い集団よねぇ♪」
「オラァ、わかったら行けぇ!!」

無線を通じて全体への指示を出す。
新人については、それぞれにつけた教育係についていくように言ってある。
他の奴らにはそれぞれ細かく指示を出し、ベルとフランに続いて、スクアーロも自分の持ち場へと向かった。

「チッ!ザコがわらわらとぉ!!」

途中ザンザスのわがままにより、瀕死になっている部下を助け、指示を与えながら、向かってくる敵を自身の匣兵器と共に捌いていく。
ザコばかりの癖に、数だけは矢鱈と多い敵に、何度も舌打ちを繰り返していた。
頭のなかに出てきたディーノが「女の子が舌打ちばっかしてちゃダメだぞ!」と言ってきたが、目の前の敵と共に切り裂く。
何であいつの顔が出てきたのだ。
イラつきと共に膨れ上がった殺気に、味方の顔がひきつった。
『恐い』
これが敵味方両方に共通する気持ちである。

『――ガッ、ザザ……スクアーロ隊長ー。6弔花南に来ましたー』
「ちっ!こっちはハズレか」
『それが驚いちゃいましたよ。馬鹿なセンパイの死んだはずの兄貴でしたー』
「!?何言ってやがる!!」
『どーも生きてたらしいんですよー。ゴッツい執事付きで』

戦闘中に来た無線で、東はハズレだと知る。
しかも何やら、向こうはややこしいことになっているらしい。
フォローしにいきたいが、此方も交戦中。
城にいるルッスーリア達にも連絡をとったが、そちらも手一杯のようだった。

「つーわけだ。ベル、フラン、6弔花はてめーらで何とかしろぉ!!」
『残念ですー。隊長のフォロー期待してたのにー』
「あ゙あ?なにおべっか使ってんだぁ」
『だって駄王子一人だと不安じゃないですかー。ミーまで巻き添え食って殺されるなんて嫌ですー』
『てめー今殺してやっても良いんだぜフラン?』
「ゔお゙ぉい、喧嘩してねぇでさっさと片付けろぉ!!こっちが終わり次第オレも向かう」
『待ってますー』

ぷつっと無線を切り、スクアーロも目の前の群れを殲滅するためにより殺気を高める。
暢気すぎる後輩にはああ言ったものの、この数相手では彼らの援護には間に合いそうもない。

「……まあ、できることはやってやるぜぇ」

自分は行けないが、この道を守るだけならむしろこの人数では多いくらいだ。
新人を残し二人を、ベルとフランの援護に向かわせる。

「ゔお゙ぉい新人!油断すんなよぉ!!」
「はいっ!」

次々と敵を殺していくオレ達のもとに、ベル、フランの敗北を知らせる報告が入ったのは、それからすぐのことだった。

「まさか……ベルとフランは死んだのかぁ?」
『うしし、生きてるぜー。何とかな』
『ミーがいなかったら死んでましたよセンパイー』
『お二人は無事ですが、城の方に6弔花が向かっております!』
「んだとぉ!!」
『――こちらC地点。巨大匣兵器と思われる三機の象が城に向かっている模様!!自分は特攻を仕掛けます!!』
「特攻まて!!」
『ギャ!!――ザー……』
「ちっ、無駄死にをぉ!」

新兵が一人死んだようだ。
ルッスーリアに連絡をとろうとしたが、爆発音と共に無線が切れる。
間に合わなかったようだ。

「ルッスーリア生きてんのか!?城はどうなったぁ!?」

呼び掛けに応じる声はなく、ただノイズが続くばかりである。
くそ、無線が壊れたか。
あのオカマがそう簡単に死ぬとは思えないが、無傷だとは思えねぇし、一刻も早く救援に向かうべきだろう。

「ゔお゙ぉい、ベル、フラン!城に向かえぇ!」
『わかりましたー。ちょうどミーたちもボスがどんな戦い方するか見に行こうって話してたところですしー』
「見物じゃなくて助太刀に行けぇ!!」
『でもオレらがいく頃には終わってるかもしんねーよな』
『敵さん、虫みたいにわらわらと沸いてきましたもんねー』
「……ベルの言葉にゃ同感だがとにかく城に向かえ。兄貴だかなんだか知らねぇが、生きてたら後ろから首かっ捌くなり何なりすりゃあ死ぬだろぉ」
『しし、確かにっ』
『うえー、ここにエグい会話してる人たちがいますー』

会話の通り、城が潰されたなら流石のザンザスも戦いに出てくるだろうからなぁ。
思ったよりも早く終わるかもしれねぇ。
遠くの方で爆発音も聞こえる。
決着まで、時間はそう掛からないとなれば、オレ達はザンザスが6弔花を倒すまで敵の足止めをしていれば良いわけだ。
……つってもまぁ、戦力は出来る限り削らせてもらうがなぁ。

「ゔお゙ぉい!!ミルフィオーレってのはこの程度なのかぁ!?」
「くっ!なめやがって……っぎゃあああ!!」
「弱ぇぞぉ!」

手当たり次第に敵を討っていく。
勿論剣だけでなく、ワイヤー、ナイフ、拳銃、ダイナマイト。
使えるもんは全て使って。

――カッ!ドォ!!

一際大きい爆発音が聞こえ、ザンザスが敵を倒したことを確信する。

「ザンザス……、久しぶりに本気になったか」
「え?」
「ゔお゙ぉい、新人!城に戻るぞぉ」
「し、しかしまだ敵が!!」
「よく見ろぉ、撤退しはじめてんだろぉがぁ。武器を捨てたカスどもに用はねぇぞぉ」
「あ……」

一心不乱に戦っていたせいか、まだオレたちの勝利を理解できていない新人を引きずりながら帰路につく。
無線で他の仲間達にも城に戻るよう指示を出し、敵の死体を通りすぎたときだった。

『いいや、ただの小休止だよ。イタリアの主力戦も、日本のメローネ基地も、すんごい楽しかった』
「こいつは……白蘭っ!?」
「なっ!この男が、ですか!?」

突然聞こえたふざけた声に振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
いや、映し出されていたの方が正しいか。
どうやらその立体映像(ホログラム)は、死んだ敵の端末から現れたもののようだった。

『ボンゴレが誇る最強部隊の本気が見れちゃったりして、前哨戦としては相当、有意義だったよね♪』
「前哨戦……」

やはりまだ、オレ達の刃は、奴の心臓には届かなかったようだ。
それにあのふざけた態度。
こちらを手玉にとって弄んでるような、厭らしい笑顔。
まだまだ全然、余裕ってことか。

『メローネ基地で僕を欺こうと必死に演技する正チャンも面白かったなぁ。……、うん、バレバレだよ』

どうやら他の誰かと会話しているらしい。
メローネ基地の、『正チャン』。
入江正一とだろうか。
ふざけたニックネームだ。
そして白蘭はそのふざけた調子のまま、隠されていた真実を吐露していく。
入江正一がボンゴレのスパイだったこと。
ボンゴレと正式な力比べを行うつもりであること。
そして、今まで6弔花と呼ばれていた者たちは偽者で、他に真のマーレリング守護者――真6弔花(リアルロクチョウカ)がいるということ。
更に彼らには、Aランク兵士を一人につき100名、それ以下の兵士を5000名与えているということを。
最後に、10日後までは手を出さないと宣言した白蘭は、メローネ基地の者たちと数言会話を交わし、姿を消した。

「そ、そんな……、Aランクが100人!?じゃあ、オレたちが今まで必死に戦ってきた奴らは、何だったんだよ!!」
「うるせぇぞ新人!Aランクだろうがザコだろうが、オレたちに敵対した奴は殺す。それだけだぁ。それに、10日後に奴らを一網打尽にするチャンスができたんだぜぇ。むしろ喜べぇ!!」
「えぇ!?」

驚愕の表情を浮かべて、無理だとほざく新人をずりずり引きずり、漸くオレたちは城に戻った。
ザンザスの無事を確かめて、先ずは一息。
ボロボロではあったが、至って元気そうである。
そして集まってきた幹部達も、大して重症の者はいないようだ。

「まずは日本のヤツらと連絡をとるかぁ。ゔお゙ぉい、ザコどもぉ!てめーらは怪我人の手当てしてろぉ!!」
「はっ!」

無線は……、うむ、使えそうだ。
日本のアジトに繋ぎ、沢田達の無線と繋ぐように脅……、もとい、頼む。

「ゔお゙ぉい!!」
『ヴァリアーから通信を繋げとの要請です……。ミルフィオーレに盗聴される恐れがありますが……』
「いいから繋げぇ!!」

ジャンニーニとか言ったか。
ボンゴレ専属のメカニックとか聞いたが、トロくてムカつく奴だ。
こっちの言うこと素直に聞きゃあ良いものを。

「てめーらぁ、生きてんだろーなぁ!!!」
『スクアーロ!!』
『っるせーぞ!!』

向こうからいくつか反応があったが面倒臭いため無視する。

「いいかぁ!!こうなっちまった以上ボンゴレは一蓮托生だ。てめーらがガキだろーと……っが!」

向こうにいるガキたちと、ミルフィオーレとの戦いに全面協力する、と言おうとしていたのだが、突然後頭部を襲った衝撃に、思わず呻き声が出る。
犯人は当たり前だが、ザンザスである。

「てめっ!」
「沢田綱吉。乳臭さは抜けたか。10日後にボンゴレが最強だと、証明してみせろ」

オレから奪った無線の向こうに一方的にそう言うと、ザンザスは憤怒の炎で無線機を破壊した。

「ザンザスてめー……!」
「ふん」
「……無線機壊したペナルティで酒の量減らすぞコラァ!」
「っ!?」

その後醜い喧嘩が起こったことは言うまでもねぇ。
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