群青の鮫

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「フ、ハッ!!悪くねぇ!運動神経、反射、動体視力、判断力……そして何よりそのセンス。どれをとっても一級品だぁ」
「?ハハ、あんま誉めるなよ!」
「誉めてんじゃねぇ、分析してんだぁ。てめぇのセンス、ハッキリ言わせてもらえば、オレよりもあると思うぜぇ。だが、てめぇは負ける。戦闘経験も、覚悟も、まるで足りねぇ」
「……経験はそうかもしんねぇけど。覚悟ならちゃんとしてるつもりだぜ?」
「端から見てて、出来てねぇと、言ってん、だぁ!」

オレの連続攻撃を防いだ山本武。
その戦闘センスには、目を見張るものがある。
まさに、生まれもっての才能。
オレの剣は、いつかコイツに抜かされるだろうと、そう思わせられるほどの。
だがそれは今じゃねえ。
再びオレは斬りかかり、山本武はそれを、水の壁を作ることで姿をくらまし、防御する。
時雨蒼燕流、守式弐の型・逆巻く雨である。
全て、全て、見たことのある型、斬ったことのある型。
時雨蒼燕流、昔潰したその流派を、受け継ぐ者がここにいたとは。
自然と上がっていく口角を、片手で口を押さえる事で隠す。
何て、楽しいのだろう。
才ある者と、正面切って戦うことなんて、最近は殆どなかったからな。
……しかし、まだ甘さが抜けきらねぇ。
どうせならば、本気の殺し合いがしたい。
どうすればコイツの本気を出せるだろう。
どうすれば、殺気に満ち満ちた本気のこいつと戦えるのだろう。

「ゔお゙ぉい、山本武……。てめぇ、その時雨蒼燕流を使ってオレに勝てると、本気で思ってるのかぁ?」
「勝つぜ!時雨蒼燕流は完全無欠最強無敵だからな!!」
「無理だなぁ!!時雨蒼燕流がどうかは置いておいても、防御の後、直ぐに攻撃に移ることも出来ねぇ甘ちゃんに、オレを倒せはしねぇ」
「ハハ、言ってくれるな」

あからさまな挑発の言葉。
山本武は攻撃のモーションには移ったものの、纏う雰囲気が変わることはない。
結局は一般人か。
結局は、期待するだけ無駄って事なのか。

「こぉい!」

迫り来る山本武の瞳が、真っ直ぐオレに向かっている。
だが一瞬揺れたそれを、オレは見逃しはしない。
目の前を刀を持たない左手が通り過ぎていく。
刀は下、奴の右手が握っている。
つまり左手はフェイク。
下らない攻撃だ。
オレが背後に飛ぶと同時に、刀の切っ先が隊服の腹を掠めた。
ざばんと派手に音を立てて着地する。
今のは何という技だったか……。
8年以上は昔のことだ。
細かい技の名前は、もう既に記憶の彼方にある。

「ゔお゙ぉい!!効かねぇぞ!」
「あり……?」

水が落ちるところに着地したせいで、身体中がびしょびしょだ。
だが、そんなことはどうでも良い。
今気になっているのは、

「てめぇ、何で今、峰で攻撃した?」

オレの問いへの答えを聞き、元からあった眉間のシワが更に増える。
勝つ為にやってて、殺す為にやってるわけじゃねえだと?
あまっちょろい考えだ。
虫酸が走る。
だが、同時に羨ましくも思う。
そんな考えは、遠い昔に捨ててきてしまったものだから。

「そのあまっちょろい考えごと、てめぇを三枚に卸してやるぜぇ!」

再び突進するオレに、山本武はもう一度水の壁を作る。
それに対してオレは、同じように、水の壁を作った。
お互いの視界が急激に悪化する。
これでイーブン……ということはなく。
ただの中学生と違ってオレは暗殺者だ。
人より夜目も効くし、耳や鼻も良い。
必然に、オレが先んじて攻撃に移り、防御の遅れた山本武に一閃を食らわせる。

「痛ぇだろぉ?肩を剣で斬られたんだからなぁ!!そんな可哀想なてめぇに1つ教えてやるぜぇ。てめぇの技はオレには通じねぇ。その時雨蒼燕流は、昔ひねりつぶした流派だからなぁ!!」

それはザンザスに出会うよりも前の話。
強さというアイデンティティーを求め日本にたどり着いたオレは、雨の降る日、1つの流派と出会った。
そいつらは弱かったが、その技は強かった。
だからだろうか、その日のことは昨日のことのように覚えている。

「出会ったのは継承者と弟子の3人。
完全無欠最強無敵とは程遠い弱さだったが、その技はよく覚えているぜぇ。
守と攻に別れた8つの型。全て見切り、完璧に攻略してやったがなぁ」
「聞いてねーな、そんな話」
「あ゙あ?」
「オレの聞いた時雨蒼燕流は、完全無欠最強無敵なんでね」
「……は!てめぇも強情な奴だなぁ!!そんなに言うのなら、証明してみろぉ!!」

全速で、全力で、その完全無欠とやらを潰してやるぜ。
水に沈む地面を蹴る。
初めと同じような動きだが、少し違う。

「後ろか!?」
「ちげぇぞ!」

奴の真上、崩壊をギリギリ免れていた天井に着地し、重力に従い落ちる寸前に、また蹴る。
加速したまま、オレは剣を叩き込む。

「クッ!」

何とか避けたのを追って、近くの柱を削って石礫を飛ばす。
その破片が奴の顔面に直撃し、目を潰す。
それだけでは止まらない、一瞬怯んだその隙を狙い、少しクセのあるフォームで剣を打ち込んだ。
ガキィィイン……と普通の打ち合いでは聞くことのない、体の芯にまで響くよな金属音。
叩き込んだ技は、オレ独特のモノ。
呼び名は特にないから、とりあえず鮫衝撃と呼んでいる。
打ち込まれた者は、その衝撃に腕が麻痺し、暫く動くことが出来なくなる。
山本武もまた、同じ。
だが咄嗟に麻痺した腕を殴って、無理矢理動かしたところは、誉めてやっても良いかもしれない。

「ゔお゙ぉい、さっきまでの威勢はどうしたぁ!?」

まだ痺れが残っているのだろう左腕をだらりと下げ、オレから逃げるように上階へと上がる。
逃がすわきゃねぇだろぉドカスがぁ!!
山本武がいる地面、オレからすれば天井を削るように、剣を突き刺す。
コンクリートごと、山本武の肉を削る。
壊れた床と共に階下へ落ちていく山本武と入れ代わりに、オレが上階へと上がる。
奴を斬ることで付いた血液が、上から降ってくる水に流されていく。
顔に纏わりつく髪の毛を払い、叫んだ。

「山本武ぃ!てめぇの心の臓を切り刻んでやるぜぇ!」
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