群青の鮫

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「……まさか本当に嵐が来るとはなぁ」

チラッとザンザスを見る。
ギロッと睨み返される。

「どうかしたのかい、スクアーロ」
「なんでもねぇ」
「そうかい?随分と機嫌が良いように見えたけど」
「気のせいだろぉ」

マーモンが首を傾げながら食事を再開する。
お行儀良いな、赤ん坊の癖に。
それに比べて他のやつらは……。
ザンザスは肉にフォークを突き刺して噛みつくように食べている。
何と言うか……豪快なな食べ方だと思う。
レヴィは丁寧に食べようとしているようなのに、何故か食べ方が汚い。
何故だ、謎だ。
ベルは器用に食ってはいるが、時折オレたちにナイフを投げつけてくる。
非常に迷惑なことである。
ルッスーリアは病室で病人食を食べているはずだ。
程々にしたはずが、どうも脚を痛め付け過ぎてしまったらしく、まだ暫くは歩けないと言われてしまった。
暫くは安静と診断を受け、一人病室で書類と戦っている(正しくは戦わせている、か。オレがまた一山片すように言い付けた訳だから)。

「今日は雷のリング戦だなぁ。レヴィ、余計なことはしねぇで勝つことだけを考えろよぉ」
「貴様に言われずともそのつもりだ!大体何故貴様がオレに命令している!!オレに命令出来るのはただ一人、XANXUS様だけだ!」
「うるせえ」
「フグゥッ!!?」

レヴィが吹っ飛んできたグラスによって落とされる。
今ので脳細胞何個死滅したのかな……。

「とてつもなく不安だぁ……」
「わかるよ、その気持ち」

マーモンとそんな会話を交わした。


 * * *


「やっぱり、不安だ……」

そして深夜、試合開始の二時間も前から待ち続けていたレヴィを見て、思わずそう溢していた。
アイツは何でもっと柔軟に動けねぇんだろうな。

「それでは、雷のリング。レヴィ・ア・タンvsランボ、勝負開始!!!」

今回の戦闘フィールドは7つの避雷針が聳え立ち、それぞれの間に導体が張り巡らされ、雷が落ちる度にフィールド全体を電流が覆う地獄のフィールド。
雷ならば、アイツにとっちゃあ最強の味方になる。
しかも相手は5歳のアホガキ。
これで負けたらマジで洒落にならねぇ。
というか、それ以前に。

「ぐぴゃあぁ!!」

戦う前にルールも何も理解してなかったガキが電流に襲われた。
勝負にならねーだろこれ。

「うわあああ!!いだいぃ〜!!」

残念なことに、死んではいないようだけれども。

「ふん、情報通り、電流に耐性を持っているようだな。ますます、ムカつく」

事前に情報を与えておけば押さえられるかと思い、オレはアイツにランボというガキの分かり得る限りの情報全てを渡していたが、……結局意味はなかったようだ。
レヴィに、嫉妬の焔が点いた。
涙を流すガキに、ヴァリアー幹部の本気の殺気が飛ぶ。
憎悪の炎が燃える瞳でガキを睨み付けたレヴィは、素早くガキに近寄り、蹴りを入れる。

「ぴゃっ」
「消えろ……」

レヴィが武器を構えた時だった。
ガキが自分に向けてバズーカを構える。
どこから出した……つか、まさかアレは……!

――ドガンッ

バズーカの爆発と共にガキが吹っ飛ばされる。
そしてもうもうと立ち込める煙の中から現れたのは、若い男だった。

「やれやれ、ギョウザが最後の晩餐になるとは……」
「大人ランボ!!!」

牛柄のシャツに小粋なアクセサリー。
今風の若者に対して、沢田綱吉は『大人ランボ』と言った。

「ゔお゙ぉい、気を付けろレヴィ!!噂が確かなら、そいつは10年バズーカだぁ!」
「じゃあまさかあれって10年後のあのガキ?へー面白いじゃん」
「初めて見たよ」

10年バズーカ、被弾したものは10年後の自分と5分間だけ入れ替わるという嘘のような代物である。
あくまで噂程度の話だと思っていたが、こんなところでお目にかかれるとは。

「サンダー、セット」

奴が構えた途端、空が光り、避雷針を無視して、雷がその角に落ちる。
……バズーカにしろ角にしろ、一体どこから出しているんだ。

「くらいな!電撃角-エレットゥリコ・コルナータ-!!!」
「貴様、目立ちすぎだぞ。雷の守護者として申し分ない働きをし、ボスから絶大な信頼を勝ち得るのは、オレだ!!!」

ちなみにそのボスは今頃ホテルだ。
レヴィのパラボラが空に舞い上がり、開く。
それは更なる雷を呼び、牛柄の男に襲いかかる。

「ぐあぁあ!!」

崩れ落ち、泣き出す男に、レヴィの追撃が決まる。
そして追い詰められたそいつは再び、バズーカを手に取った。

――ドガンッ

煙の中から現れたのは、長身のガタイの良い男。

「10年後のガキの更に10年後……、20年後の牛ガキかぁ?」
「ししっ、すんげぇ威圧感!」

20年で、随分と成長したようだった。
こいつは、強い。

「……昔のオレはそうとうてこずったようだが……、オレはそうはいかないぜ」
「ほざけ」

レヴィもかなり警戒しているように見える。
消えろ、と高らかに叫び、相手が動くより先にパラボラを展開する。
先手を打つつもりか!
雷が、ランボに向けて真っ直ぐに落ちてくる。

「死ね」

パラボラに当たった電流が男を襲う。
更に、避雷針に落ちた雷までもが男の体を襲った。

「やべえ!!電気の逃げ場がない!」
「ランボ!!」
「奴は焦げ死んだ。この電光、ボスに見せたかった」

男を呼ぶ悲痛な声、終わったとばかりに背を向けるレヴィ。
だがその気配はまだ消えていない。
レヴィの後ろに、巨大な殺気の塊がまだある!

「まだだ、レヴィ!
奴の殺気がまだ消えてねえ!!!」
「……やれやれ、どこへ行く?」
「なにぃ!!」

凄まじい電流が流れているはずなのに、男は平然とそこに立っていた。
あれだけの電流を使いこなしてるだと!?
そうなると、レヴィにはかなりキツい戦いになってくる。
レヴィのあの攻撃は正に一撃必殺の大技で、ヴァリアーの中でも随一を誇る攻撃力。
レヴィ自信も攻撃力に優れているが、何分体がでかいため、アイツは素早さに欠ける。
あの攻撃、レヴィ・ボルタを攻略されたとなると、奴を倒すことはかなり困難になるはず。
実際、パラボラで攻撃を仕掛けるものの、難なく防がれてしまった。

「サンダーセット!
電撃角-エレットゥリコ・コルナータ-!!!」

相手側が仕掛けてくる。
唯一の弱点と言えたリーチの短さも、電撃を伸ばすことで上手くカバーされてしまっている。

「ぬあっ!ぐあ゙あ゙あ゙!!!」
「年季が違う、出直してこい」

パラボラで防ぐものの、意味はなく。
電撃にレヴィの身が引き裂かれる。

「そんな……バカな!こ……こんなところで……!!もう一度オレを誉めてくれ……!ボス!!」
「剣をひけ……。これ以上やるとお前の命が……、」

男の言葉が途切れる。
代わりに、ボフンッというなんとも間抜けな音がして、煙が広がった。

「ぐぴゃあぁあ!!!」

響いたのは甲高い、子供の悲鳴。
時間切れ、元の姿に戻ったのか!!

「ランボが!動かない!!」

大人のランボがありったけ注ぎ込んだ電流がそのまま子供のランボに受け渡されたのだ。
そしてあのガキはバズーカを打つ前にも雷を食らっている。

「やはり雷の守護者にふさわしいのは、おまえではなくオレだ。電撃皮膚-エレットゥリコ・クオイオ-がどうした。消えろ!」

振り上げた足を小さな体に向かって容赦なく降り下ろす。
最後には、とどめを刺すべく天に掲げたパラボラに、電流を集める。
そして、

「死ね……なに!?」

唐突に、レヴィの目の前に避雷針が倒れてきた。
避雷針の細い部分が熱で溶け、そこから折れ曲がってしまっていた。
レヴィが避雷針を避けることで自然と牛ガキと距離が空く。

「エレットゥリコ・サーキット全体が熱を帯びている。熱伝導……?」
「!サーキットの外に」

チェルベッロの言葉に、全員の視線が一ヶ所に集中する。

「目の前で大事な仲間を失ったら……、死んでも死にきれねえ」

死ぬ気の炎を額に宿すその姿は、前に見た死ぬ気モードとは違い、酷く静かな闘志を感じるモノだった。
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