群青の鮫

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「ゔお゙ぉい、帰ったぞぉ」
「ししし、おっひさースクアーロぉ!で、なんか収穫あったの?」
「……まあなぁ」

ヴァリアーに帰ったオレを一番に出迎えたのはベルだった。
いつも通りの小馬鹿にしたような笑い声を立てながら、オレの後をついてくる。

「なんか意味深な感じじゃね?」
「色々あったからなぁ」

日本でのあの遊びもそうだが、一番の収穫は帰りの飛行機の中だった。

「オレはボスさんに報告しに行く。おめぇらは外で待ってろ」
「やーだね。つーかみんな、会議室でお待ちかねだぜ?しし、つまりオレはお迎えなわけ」
「……だったらもっと早くそう言え!」

パカンッとベルの後頭部を引っ叩き、会議室に向けて歩く方向を変える。
叩かれたベルは不満げに口を尖らせていた。

「王子叩くとかいい度胸じゃん」
「お使いもまともにできねー奴が偉そうな口聞いてんじゃねぇぞぉ」
「……カッチーン」
「ゔお゙ぉい、ナイフ遊びは外でやれぇ!いつも言ってんだろうがぁ!」

放たれたナイフをはたきおとして注意する。
さらに不機嫌を顕にしたベルに、やれやれとばかりにため息をつく。
オレが16の頃なんかもうバリバリボンゴレで働いてたぜ。
文句とか言わないでスゲー真面目だった。
それを言うと、ベルが更に不機嫌になることは目に見えているから、口に出しはしないけれど。

「ボースッ!!スクアーロ帰ってきたぜ」
「遅いぞスクアーロ!!貴様どれだけボスを待たせる気だアボガッ!?」
「うるせぇ」

レヴィがザンザスに殴られて顔面崩壊を起こしている。
今日はどうも機嫌が悪いらしい。
後で美味い酒でも出してやるか。
このままだとレヴィが死ぬかもしれねぇし。

「で、何を持ち帰ってきた」
「さすが、察しが良いなぁ!日本に行った門外顧問のガキを追って行った先で、お前以外の10代目候補とあったぜぇ」
「あらん?今回は門外顧問機関の動向調査だけじゃなかったかしら?」
「そのつもりだったが、声かけて問い質そうとしたら攻撃されてなぁ。そのまま戦闘になった」
「ム、結局君も、血の気が多いよね」
「オレの血の気は置いとけぇ……。で、交戦後にガキからこれを奪い取った」

懐から、ボンゴレの紋章入りの箱を取り出す。
蓋を開き、中を見せると、幹部たちの間にざわめきが走った。

「ハーフボンゴレリング……の、偽物だぁ」
「偽物!?」
「マジ?本物にしか見えねーけど」
「……確かに、贋作(フェイク)だ」
「……ボスがそう言うのなら、確かだろうね」

ザンザスの言葉を聞き、オレは偽リングを中空に放り投げた。
即座に響く、一発の銃声。
ザンザスの拳銃が、偽リングを砕いていた。

「本物は跳ね馬の手で日本へ持ち込まれ、門外顧問の手で各々の守護者の元へ届けられた」
「しし、わかってんならさっさと奪ってきちゃえばいいんじゃね?スクアーロが出来ねーなら王子が代わりにやったげよーか?」

得意気な顔で言うベルを、純度100%の殺気を込めて睨んだ。

「話聞いてなかったのかぁ!?」
「ししっ!こっえーの!!」
「いいかぁ!!正々堂々何て言葉がオレたちほど似合わねえ集団もねぇだろぉが、今回に限っては闇討ち暗殺は行わねぇ。真っ正面から、もう一人の10代目候補どもを叩き潰して、ザンザス、そしてオレたちヴァリアーがボンゴレのトップであることを、思い知らせる!!」

一呼吸置いて、席につく面々を見る。
それぞれに、真剣な顔で話を聞いているようだった。

「ザンザスこそが、ボンゴレ10代目だぁ」

目を細めて、ザンザスを見つめる。
奴は、オレたちの様子など気にすることなく、優雅に脚を組み、王者然とした風格を携えて、ただ、一言だけ言った。

「今更、何言ってやがる」

オレたちは、ニヤリと笑った。

「準備が整い次第、イタリアを発つぞぉ!!」

それぞれが、準備を整えに部屋を出ていく。
最後には、ザンザスとオレだけが残った。

「まだ、あるのか」
「あ゙あ。帰りの飛行機で、チェルベッロと名乗る女に会った」
「チェルベッロ……、脳、か」
「何者だかはわからねえ。部下に調べさせてはいるが、恐らく手ぶらで帰ってくるだろうなぁ」
「そいつらが、どうした」
「今回オレたちの企んでいる日本の10代目候補の公開処刑……じゃねぇや、リングの争奪戦のことを、アイツらは何故か知っていた」
「……そうか」
「その争奪戦の、審判を請け負うと言ってきやがった」
「好きにさせろ」

ザンザスが席を立つ。
恐らく、執務室のお気に入りの椅子に座ってウィスキーでも飲むつもりだろう。
近くにいた下っ端に、ザンザスの執務室に幾つか酒と肴を持っていくように言いつける。
オレも、やることがあるため、部屋を出た。
武器を揃え、諸々の手続きをとって、すぐにでも日本へ向かわなければ。
そんな最中に、ふとチェルベッロと名乗った女性達との会話を思い出した
『我々は9代目直属のチェルベッロ機関』
『今回あなた方が行おうとしているリング争奪戦、我々に審判をつとめさせて頂きたい』
彼女らの言葉が、何度も何度も、耳の奥で反芻される。
『我々はただ、正しき者の元へボンゴレリングが行くことを願うだけの存在です』
『故に、何よりも公正に、』
『誰よりも公平に、審判を行う』
『その事を、頭においておかれますよう』
奴らは、知っているのだろうか。
ザンザスに、ボンゴレを継ぐ資格が無いことを。
知っていて、利用しようとしているのか。

「ならオレは、てめぇらさえも利用し、食らいつくしてやるまでだぁ……」

ザンザスは、10代目になるべくして生きてきた。
ポッと出のガキに、その座を奪われてたまるものか。

――ガシャッ
「……チッ」

手に持ったグラスに皹が入った。
力を入れすぎたのか。
もともと寿命が近かったのか。
どちらにしろ不吉なことだった。
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