群青の鮫

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「……そろそろ、来ると思っていたよ」

ザンザスとオレがボンゴレの執務室に訪れた時、9代目は革張りの椅子に深く腰掛け、憔悴しきった目でオレ達を、いや、ザンザスだけを見詰めていた。

「守護者どもは、どうした」
「今はおらん。みんな私の指示で外国にいる」

こうなることを予測していたのか。
ならばもう、リング片割れは……。

「ザンザス、何故……」
「……何度言わせれば気が済む?テメーにはもう、これ以上語ることはない」
「ザンザス……、うっ!!」

何処から現れたのか、太い植物の蔦が9代目を椅子にきつく縛り付ける。
首を締め付け、即座に意識を奪ったそれは、まばたきをした一瞬の内に消えてしまった。

「ボス、捕まえたよ」
「……」
「ボス?」
「……そのままマインドコントロールにかけろぉ、マーモン」
「了解」

淡々と、オレが現実の縄で9代目を縛り上げ、マーモンは弱った精神を操っていく。
ザンザスはその様を何も言わずに、ただ見ているだけだった。

「ザンザス」
「……やれ」
「お゙う」

短く放った一言に、オレも簡潔に返す。
オッタビオが作った旧型モスカを雛形に作られた、新型のゴーラ・モスカは、その内にエネルギー源を必要とする。
エネルギー源……人の生命力から作られる、死ぬ気の炎が。

「……じゃあなぁ、しばらく殺す気はねぇから、安心しろよ、9代目」

既に意識を手放してしまった9代目を、横抱きにしてモスカに接続する。
9代目はとても軽かった。
老人というのは、皆こんなものなのだろうか。
今から9代目は、モスカのエネルギーとして監禁され、死ぬ気の炎を搾取され続けることになる。

「リングは、あの書斎机の中のようだね」
「……、あったぞぉ」

ボンゴレのエンブレムの入った、漆塗りの小さな箱を見つける。
だがカパリと開けた箱の中には。

「……チィッ!」
「やはり半分か」
「ムム、これがハーフボンゴレリングかい」

マーモンはリングを見たのは初めてだったらしい。
興味深そうに覗き込んでいる。

「もう半分は恐らく門外顧問のところだぁ。とりあえず今日は帰るぞ」
「ム、そうだね。影武者は立てるけれど、気付く奴は必ずいる。厄介事が来る前に帰ろうか」

全員、言葉少なに帰路についた。
呆気ない、というより、拍子抜けの結果だった。
ザンザスは何も言わない。
ただ前だけを見て、ドス黒い怒りを瞳に映している。
不器用な男だと思う。
前にしか進めないような、酷く不器用な男。
それ以外に生きる方法を知らない男。
8年という、途方もなく貴重な時を盗まれ、怒りに腹の底まで染められた、若く、愚直な人。
もしオレ達が、無事に2つに別れたリングを完成させ、ザンザスがボンゴレを継ぐことが出来たなら。
その時はみんなで息抜きついでにどこかに遊びにいこう。
プライドが高く幼い頃からボスになるための教育ばかりでろくに遊んだことがないはずだ。
きっと、楽しめる。
買い物をして、色んなものを見て、そんで酒を飲んで、馬鹿みたいに騒ごう。
たまには、そんな寄り道だって必要なはずだから。
さて、一先ずの問題は、門外顧問に渡ったであろうハーフリングだ。
指輪を手にいれ、尚且つ全てのマフィアに、ザンザスの10代目襲名を認めざるを得なくなるように。
筋書きはもう出来ている。
後はオレが作った筋書き通りに、事を運ぶだけだ。
何もない虚空に門外顧問……沢田家光の、憎い顔を思い浮かべて睨み付ける。
必ず、アイツを引きずり下ろし、ザンザスを認めさせる。

「待ってろ、門外顧問……」

誰にも聞こえないように、そっと呟いた。
ボンゴレの若獅子、あの歳で門外顧問となった奴の実力を思えば、油断は出来ない。
だが、オレはヴァリアーだ。
オレは、ザンザスの右腕だ。
必ずや、奴らを出し抜いてやる。

「カスザメ」
「ん"?何だよ、ザンザス」
「その鬱陶しい髪、さっさと切れよ」
「……ふはっ、そうだなぁ。お前の10代目継承式までには、ちゃんと切るさぁ」
「チッ、ドカスが」

オレ達の後ろで、モスカがゴウンとないていた。
 

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