群青の鮫

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「入るぞ、ザンザス」

広々とした空間に、どデカいベッドと落ち着いた色調の家具が、控え目に、だが部屋の高級感を絶妙に引き立てるように置かれている部屋。
封印から解かれて数日、ザンザスは驚くべきスピードで回復していた。

「もう随分と回復したみてえだなぁ」
「飯……」
「おらよぉ」
「……肉じゃねえ」
「当たり前だぁ!病み上がりの人間が、朝っぱらからヘビーなもん食うなぁ!お前は大人しく粥でも食ってろぉ。オレのお手製だからなぁ、味は保障するぜぇ!!」

ふん、と鼻を鳴らしたものの、ザンザスは大人しく粥を食べ始めた。
オレは満足げにそれを見やり、ザンザスが横たわるベッドの隣のイスに座った。

「ゔお゙ぉい、ザンザス。病人生活にももう飽きてきたんじゃねえか?」
「飽き飽きしてる。そろそろ思いきり暴れてえ」
「そんなてめえに朗報だぁ。近々ボンゴレ保有のとある島を元イタリア軍の連中が襲う計画を立ててるらしい」
「……ほう?」

ダルそうに粥をつついていたザンザスが漸くその目を煌めかせてこちらに向く。
上手く食いついてくれたようだ。

「しかもその島を管理しているのは、お前も知ってる男だぁ」
「……オッタビオ、か」
「気付いてたのか」
「あのクセぇ三文芝居に気付かねえ方がどうかしてるだろう」
「はっ!確かになぁ!!」

オッタビオ、かつてヴァリアーの副隊長だった男だ。
ザンザスの、ヴァリアーに来る前からの側近の一人だった。
だがゆりかごの際、アイツは、あの男は一人だけザンザスに従うことなく、ゆりかごの後も出世を続けている。
アイツの生き方を否定する気はない。
でも、オレはアイツが嫌いだった。
何よりアイツは……。

「クーデターを告発した、オレを売った男だろう」
「あ"ぁ、お前の動きを9代目に告げたぁ。そして何より……、アイツはお前の秘密を掴んだ恐れがある」
「……そうか」

ザンザスは、全てわかっているようだった。
目を伏せ、密やかに怒りを溜める。

「殺す、のか?」
「動けるのか、ボンゴレに反旗を翻したオレ達ヴァリアーが」
「ボンゴレっつー大義のために動きゃあ、問題はねえ」

ニヤリと笑って、オレは今回の作戦を話す。
始めは無表情に聞いていたザンザスも、次第に悪党も震え上がるような笑みを浮かべて、その瞳にギラギラと灼け付くような光を浮かべる。

「一石二鳥……いや、一石三鳥の作戦だぁ。どうする」
「悪くねえ」
「お前は今回、万全じゃねえ。がぁ、お前は最強だ、ザンザス。島の人質奪還はオレ達に任せろぉ!お前は思う存分、裏切り者を片付けろぉ」
「命令すんな、カスザメが」
「わぎゃっ!?」

お粥の器が顔面に飛んでくるのを、辛うじて避ける。
残っていた粥が高価な絨毯を敷き詰めた床にぶちまけられたが、そんなことは些事だ。
外に控えさせていた部下を呼んで、粥の残骸を片させ、ザンザスの機嫌を損ねないうちに部屋を後にする。

「幹部どもを作戦室に召集しろぉ!」
「はっ!」

オッタビオが裏切ったことは、わかっていた。
そもそも、全員が全員ザンザスについてくるとも思っちゃいなかった。
オッタビオ以外にも、当時幹部だった何人かは、ボンゴレに寝返り、裏切り者の汚名から免れている。
ただ、オッタビオが一番上手に裏切ったってだけだ。
オレ達は全て了解した上で動いていた。
それだけならば、許せたんだ。
だが、オッタビオは裏切るだけでは飽き足らず、9代目とザンザスの対峙したあの場所に忍び込み、あろうことか、ザンザスの秘密を――9代目と血の繋がりがないという真実を、聞いてしまったのだ。
オッタビオの口は封じなければならない……。
そして、今回はそれだけが目的じゃねえ。
オレは独自の情報網で奴がイタリア軍と繋がり、武器の横流しをしていたことを突き止めた。
そして、奴が、軍の作った殺戮兵器の開発に着手していることも、更にその兵器が完全ではなく、島を襲おうとしている元イタリア軍兵達がそれの完璧な設計図を持っているということも。

「裏切り者を始末する。ボンゴレだって文句は言えねぇさぁ」

今回、兵器のことについてはマーモン以外には秘密にしてある。
考える前に本能のままに動くような連中だ。
最高の仕事の為に、アイツらには余計なことを考えさせる必要はない。

「指揮はオレがとる。お前ら、頼んだぞぉ!!」
「しし、ボスのためだしな。まぁ、頼まれてやっても良いぜ?」
「ベルちゃんったらツ・ン・デ・レ♡でもボスの頼みなんだものね〜♪本気出しちゃおうかしら?」
「何故……、オレが指揮する立場ではないのだ?」
「お前にゃ戦いに集中してもらいてえからなぁ」
「ふ、ふん!確かにオレは大きな戦力となり得るからな!!」
「なー、スクアーロ。このおっさん達チョーキモいんだけど、作戦から外せねーの?」
「ゔお゙ぉい、流石にそれは無理だろぉ。お前、城の外と中同時に守れんのかぁ?」
「ししっ、無理」
「なら文句言うなぁ!」

ワイワイと騒ぐ個性的すぎるこの面々を纏めきれる自信は正直ねぇが……、全力以上でやってやる。


――全ては、敬愛するザンザスのために。


そして、その日が来る。
オレ達はマーモンの幻術に隠されたボートの上で、牙を研いで待っていた。
久々のヴァリアーの任務が、幕を開けた。
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