群青の鮫

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思い出せる一番古い記憶は、3歳のある日のこと。
パシンと乾いた音が響く。
オレは親父に手を振り払われた。
親父はこう言った。

「オレの息子は親に頼るような弱い子じゃあないはずだ」

その時は、どうしてそんなことを言われたのか、訳がわからなかった。
ただ、もう親父に手を伸ばしてはいけないと言うことだけはわかった。





そして今、オレは9代目に破れ、氷漬けにされていくザンザスに手を伸ばしていた。

「ザンザス、ザンザス…!!行くなぁ、ザンザス!!」

ザンザスの瞳がこちらに向く。
その手がこちらに、伸ばされて。

「あ、……ぅああああ!!」

凍っていく、頑強な脚も、伸ばされた手も、真っ赤な瞳も、全部、全部……!
ザンザスは、オレが命を懸けて守ると決めたあの男は、目の前で氷漬けにされた。
視界が霞む。
ザンザス、オレが忠誠を誓った唯一絶対の男。
たった一人だけの、代わりなど存在しない男。
死んでは、いないのだろう。
あの甘い9代目のジジイのことだ。
仮にも息子と呼んだ男を、殺せはしまい。
だが、それでも、オレが受けた衝撃は大きかった。
世界が崩れていくような感覚。
視界の端から、暗く、暗く染まっていって、色が消えていって……。
意識が遠のく。
オレの魂は、遥か過去へと、誘われる。



―――――



「元気な女の子ですよ。奥方様は大変頑張られましたが……、残念ながら」

それを聞いて親父は叫びながら泣き崩れたのだそうだ。
その日から、親父は狂ってしまった。
女として生まれたオレは、狂った親父に男として育てられることになった。
オレが産まれる前に死んだ兄の代わりに。
スペルビ・スクアーロという人の代わりに。
それがオレの、偽者のスペルビ・スクアーロの、生まれた経緯である。

そう、このオレ、スペルビ・スクアーロは、女として生まれ、男として育てられた。




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