企画

□緑茶様(海を越え×血界)
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この街を一言で表すのならば、それは『混沌』。


ーーーーー


「なあ」
「なんだね、スクアーロ殿」
「何か困り事でも?」
「住み処に飽きたから、しばらくここいても良いかぁ?」

そんなこんなで、オレは最近ライブラという組織に世話になっている。
この街の名はHL(ヘルサレムズロット)。
たったの一夜にして、崩壊、再構築されて、現世と異界の入り交じってしまった、元はNY(ニューヨーク)だった場所。
その場所で、ライブラは日々、世界の均衡を保つために、戦いを続けている。

「で、キミね。まだそこに住み着いてるのかい?」
「うん?まあそうだなぁ。あそこ結構居心地良いし。真実が集まる場所だから」
「私から見ればつまらなそうだがね!」
「堕落王であるお前とオレじゃあ求めるものが違うだろぉが。一緒にするなクソニート」
「ニートで何が悪いというのかね!?」
「こいつ開き直りやがった」

じゅうじゅうという音、食欲を誘う匂い。
手早く料理を作りながら、オレの本宅で勝手に寛いでいる堕落王・フェムトを振り返る。

「ふむ、良い香りだな。フレンチかい?」
「正解」
「キミの料理はモルツォグァッツァの料理の次に好きだよ」
「口が上手い。そんな大層なものじゃあねぇだろうに」
「いやいや、真実を食らい腹を満たす虚無王の料理だ。それを口に出来る私は幸福者だよ」

虚無王。
薄っぺらい呼称に、オレは肩を竦める。
過去、様々な世界を死と再生を繰返し渡り続ける転生者だったオレは、いつしか仲間ともはぐれ、一人この街を生きていた。
ここがHLと呼ばれるようになるよりも前、オレは探偵のようなことをしていた。
永く、永くの時を生きてきた。
記憶の大半が、失われてしまった。
心の虚無ゆえ、真実を追い求める、真実を見つけ、そしてそれを暴いたとき、えもいわれぬ快感を感じる。
性癖というか、体質というか、そんな変わった思いをもて余し続けた結果、オレはHLに居座る13王と言われる怪人の一人に数えられていた。

「で、『血色』の彼は最近どうだね?」
「プロスフェアーに付き合わされたよ。なるほどあれは面白い」
「ああ、ドン・アルルエル老がハマっているというあれかい?あんなモノの何が面白いんだか」
「ん"ん?ゲーム好きのお前ならこれも好きなんじゃないのかと思っていたが。違ったのか」
「あんな複雑でわかる奴にしかわからないものなんてつまらないよ!この間神性存在を二つに分けて召喚したのを見ただろう?ああいうのが私の好みなの!キミには到底わからんだろうがね!」
「んー、モンキーと門・鍵(キー)って掛けは嫌いじゃなかったけどなぁ」

皿に料理を並べてフェムトの前に置く。
着けていたエプロンを外して椅子にかけ、彼の前に腰を下ろした。

「街が壊れるのは困るぜ?あそこはオレの狩り場なんだからよぉ」
「知らないね!」
「まあ地味ーなガキんちょに潰される程度の詰まらん遊びだったから別に良いけど」
「あー!」

堕落王が椅子に仰け反り発狂している。
はっはっは、愉快愉快。
フェムトの企みを潰した少年、レオナルド・ウォッチは神々の義眼保有者だ。
神に変わって世の動乱を観察する眼。
全てを見通すとんでもなく貴重な道具だ。
見た目は地味な少年だが、その真実は堅く美しい芯のある少年。
オレは結構嫌いじゃない。

「人の傷口に塩を塗るんじゃあない!」
「知るか」
「もういい!こんな家は出ていかせてもらうよ!タッパーを貸せ!」
「料理持ち帰るんかい」

食器棚からタッパーを出して渡してやると、フェムトは嬉々として料理を詰め込み始めた。
堕落王なんて呼ばれている癖に、変なところで庶民臭いところがある。
まさかモルツォグァッツァでもこんなことしてんじゃねぇだろうな?

「じゃあオレもそろそろ時間だから」
「また今の住み処かい?ほんっと飽きないねぇ」
「良いだろ、オレの勝手だぁ」
「別に非難する気はないよ。ただ今すぐその住み処が爆発しないかなーくらいにしか思ってないからね」
「非難された方がずっとましだ」

堕落王はオレがライブラに居座るのが嫌いらしい。
ライブラということ、構成員の詳細は話していないから、『住み処』なんて呼んでいるけれど、なにがそんなに気に食わないのだか。

「じゃあね虚無王。次に会うときには家なしになってることを願うよ」
「じゃあな堕落王。次の企みも呆気なく潰されることを祈るぜぇ」

そう言って家の前で別れた。
さて、今からあの半魚人の彼との約束がある。
ふらふらと彼の待つ公園へと歩き出した。


 * * *


「客の入りが増えたなツェッド」
「そうなんですか?」
「お前がショーを行う度に来て記録している。間違いはねぇ」
「ちょっと気持ち悪いんですけど」
「それもまた真実」
「はぐらかさないでくださいよ」

半透明の筋肉質な体、エラ、触覚、濡れたような表皮。
ツェッド・オブライエンは半魚人だ。
彼はどうも人為的に……いや、ヒトではなく吸血鬼だったか?とにかく自然に生まれた存在ではなく、造られた存在だという。
彼のような半魚人の造り方に興味をもって、最近はよく付きまとっている。
斗流血法シナトベの繰り手である彼は、その技を応用して路上でショーを行いながら日銭を稼いでいる。

「なかなかに良いショーだった」
「気になる場所はありましたか?」
「ふん、見せる順にもう少し工夫が必要だろうなぁ。始めにインパクトのあるものを持ってくるのも良いが、最後に息切れした感がある」
「なるほど、そうでしたか」

ツェッドは律儀にアドバイスをメモしている。
兄弟子とは対称的に真面目な奴だ。
故に成長も早い。
彼のショーが始まると、いつも公園には人だかりが出来る。
風を使った彼のショーは、まるでお伽噺の中に入り込んでしまったかのような、不思議な魅力があった。

「そういえば、僕へのリスニングはもう良いんですか?」
「ん?」

リスニングとは、彼の造り方を知るための聞き取りのことだろう。

「もういい。だいたいわかったからなぁ」
「え」
「後はその造り手が何を思って造ったのかが分かれば重畳、ってとこだなぁ」
「……本当に、変態的な探偵能力ですね。というか科学者としての方が優れているんじゃないですか?」
「科学者だろうと探偵だろうと、真実を追い求める者という意味では同一だろう」
「そういうものですかねぇ」
「そういうもんだろぉ」

納得いかないように首を傾げた彼は、しかしそれ以上話題を広げるつもりもないらしく、メモ帳を片付けて鞄を手に持った。
もう帰るつもりらしい。

「ツェッド、もう帰るのかぁ?」
「はい。お昼ご飯がまだなんです」
「そうか。ならオレが奢る。良い店があるんだ」
「良いんですか?」
「良くないなら言わねぇさ」
「でも依頼があるんじゃ」
「あんなものはオレじゃなくても出来る」
「そうなんですか」
「そうなのさぁ」

二人連れだってレストランへ向かった。
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