群青の鮫_

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「スクアーロさん!体は大丈夫ですか!?」
「スクアーロちゃーん、無事で良かったよ♪僕もう心配でマシマロ3袋しか食べれなかったんだからね〜!」
「……マーモン」
「なんだい?」
「金は払う、コイツらの記憶を抹消しろ」
「ム!?」

敵を倒した直後、白々しい顔で現れたユニ達に対し、スクアーロはにべもなくそう言い放った。
例えバリア破壊に尽力し、マーモンやロマーリオらを呼び寄せてくれたとしても、スクアーロにとってその罪を許すことは、決してあってはならないのである。

「そんなことより、ボス。コイツら一体何者なんだ?というかこれ、何があったんだ?」
「いや、コイツらはよくわかんねぇが……カクカクシカジカで?」
「その説明でわかるのは、ジャパニメーションの世界だけだぜボス」

ルッスーリアに支えられて立つスクアーロは、自ら術士だと言った男を見る。
そしてもう一人、毒使いの男を見た。
毒使いは、術士が倒された直後、糸が切れたように崩れ落ち、今に至るまで、そのままの状態で動かない。

「……この術士、確か……」
「知り合いなのかい?」
「だいぶ前に、ボンゴレと契約を結んでいた術士だぁ。だが、勝手なことばかりするから契約を切った……、ということをオレが伝えた」
「まさかその事で逆恨みして襲ってきたってことか!?」
「かもなぁ。それと、そこの毒使いは、この術士に操られていたみてぇだな。ギーグだ、と名乗った奴らも、こいつが化かして騙し、良いように使ってたんだろうな……」

だからこそ気持ちがあってもたいして強くない奴、契約だけ結んでる奴、1つのこと以外の能力が低い奴、なんていうちょっと残念な奴らしか集まらなかった。
そして彼らを前座に置くことで油断させ、安心したところで本丸の術士、毒使いコンビが倒す……。

「はあ……、上手く乗せられたらしいな」
「君にしては、珍しいねスクアーロ」

毒ガスのせいで、まだ痺れている体を忌々しげに見詰めて、スクアーロは脱力する。
全く、散々な目に遭った。
ギーグにしても、術士にしても、逆恨みでしかないし、恨まれたって殺されたって、どうにもならないし、正直言って、困るわけで。

「コイツら、どうすっかな……」
「とりあえず、ボンゴレに押し付けちゃいましょっか」

ルッスーリアの助言に従い、遅れてきた部下達に指示する。
部下達は久々の上司の指示に涙を流し喜んだと言うが、それはまた別の話。
粗方始末をつけ、ようやく座ることの出来たスクアーロに、矢鱈と神妙な顔をしたディーノが近付いてきた。

「スクアーロ……」
「……あ、跳ね馬」

つられて、スクアーロも真剣な顔になる。
先程、怒鳴られたことを思い出す。
そんなに、自分は一人でなんでもかんでもしようとしていただろうか。
……していた記憶しかない。
また怒られるだろうか。
それは少し嫌だな、と、スクアーロはホンの少し、しょげたような顔をした。
だがスクアーロの予想とは違い、ディーノは深く頭を下げた。

「すまん……!」
「……は、な、なんでだ!?」
「いやだって!スクアーロが何でも一人でやろうとするのって、やっぱりオレ達が頼りないからだろ!?」
「ム、ナチュラルに僕達も巻き込んだね」
「さっきだって、油断したオレを助けたせいでガス浴びちゃったんだし、ガス浴びてなければスクアーロならあんな苦戦しなかっただろ!?なのにあんなに偉そうに『たまには素直に頼れ』〜なんて言ってさ……」

頭を下げたディーノの姿は、しょげこんだ犬のように見える。
驚いたように目を見張って、スクアーロはしばらくその姿を見ていたが、やがてゆっくりと口を開き、話始める。

「そりゃ偉そうだって思ったけどな」
「偉そうとは思ったのねスクちゃん」
「ガスのことは、今さら何言ったってどうにもなんねぇだろ。それに、確かに、オレも人を頼らなすぎるところが、あると思う……。頼らねぇってのは、信用してねぇってのと、同じなのにな……」

理解は、しているつもりであった。
だが、どうしても気持ちが先走り、自分が、自分がやらなければならないのだと、思ってしまうのだ。

「信用してねぇ訳じゃねぇ……。でも、どうしても体が動いちまう、一人で、突っ走ってっちまう。……これからもたぶん、変わんねぇだろうな、こういうところは」
「だろうな」
「だね」
「そうね」
「変わってほしいんですけどね……」
「変わらないでしょうねえ……」
「歪みないね♪」
「お前らな……」

全員揃って頷かれて、スクアーロは額に青筋を浮かべる。

「……まあ、今は、許す。オレは、変われねぇよ。昔っから一人で、何でもかんでもやろうとしてきたんだから、今さら変われねぇ。でも、さっきみたいに、怒って、怒鳴って、助けてくれれば、オレも……もしかしたら、少しずつ変われるかも、知れねぇ、し……」
「……えぇっと……つまり?」

言いづらそうに、目を背けてそっぽを向いたスクアーロに、ディーノは首を傾げて聞く。
聞こえてきたのは、消え入るような小さな声だった。

「……謝んなよ。助けてくれて、嬉しかった、し……」

ボソボソと言われた言葉に、少し赤くなった頬っぺた、不機嫌そうな目。
次の瞬間には、ディーノはその体を抱きすくめていた。
細い腰に手を回し、肩を掴んで抱き寄せる。
スクアーロが驚いて固まるのもお構いなしに、その頭に擦り寄った。

「スクアーロー!可愛い!!今のスゲー良かった!!結婚してくれ……!」
「は、はあ!?」
「はー!?許さねーし!スクアーロはヴァリアーのモノだしー!!王子の師匠なんだから簡単に渡すわけねーだろバーカ!バーカバーカ!!」
「はーい、良いツンデレ頂きましたー♪ユニちゃんもγクンにしてみたら?」
「なるほど、勉強になります」

カオス、だな。
なんて、某赤ん坊ヒットマンの、かつての口癖を使いたくなるようなカオスである。
混乱し、暴れだしたベルを周りが宥めようと奔走する様子を眺めながら、スクアーロは自分に抱き付いたままのディーノに話しかける。

「結局、なんかゴタゴタだな……」
「でも、楽しいだろ?こんな風にワイワイ騒ぐのもさ」
「……そうだな」

自分を抱き締める腕の暖かさを感じながら、スクアーロは自然と微笑みを溢す。
自分が、自分なんかが、こんな風に暖かな幸せを感じることができるなんて、その中で、笑っていられるなんて、思わなかった。
そして、誰かを愛することになるなんて、夢にも思わなかった。
騒ぐ仲間達を見て、楽しそうに笑っているディーノの横顔に、コッソリと唇を近付けた。

「跳ね馬」
「ん?なんだ……ん!?」
「……ありがとな」

触れるだけの口付けをして、スクアーロは優しく微笑んだのだった……。
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