群青の鮫_

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跳ね馬ディーノは朝食の準備をしながら、上機嫌で鼻唄を歌っていた。
早朝、まだ人気の少ない時間に呼び出されて、今日一日、スクアーロの手伝いをすることになったのだ。
片手では料理も着替えも、その他諸々ままならないだろうから。
ユニ達を送り出したディーノはとりあえずキッチンへと入り、朝食の支度を始めていた。
ユニ達に『スクアーロさんはまだ寝ていらっしゃると思うので、朝食を作ってから起こしてあげてください』と言われていた。
朝食を作ってれば、ちょうど良い時間になるらしい。
朝食のメニューは取れ立てトマトの冷製リゾットである。
スッキリさっぱり食べられるモノを目指したらしい。

「よし、完成!」

出来た朝食を持ってスクアーロのいる部屋に行く。
まるで新婚さんのような気分になって、思わず緩む頬を抑えながら歩き出した。
そしてその頃、ユニ達は屋敷の近くに止めた車の中でその様子を見ていた。

「……ディーノクンの割りにミスは少なかったね♪」
「三回は包丁を足元に落とし、鍋を焦がしてかつまな板を足に落としておりましたが……それでも?」
「それでも♪」

ジュースやお菓子を食べながら、くつろいだ様子でそれを見ていた白蘭いわく、あの程度のドジはまだまだ序ノ口である。

「それにしてもディーノさんってお料理出来たんですね?」
「確かに、少し意外ですね。」

あの場に部下さえいれば、大したミスもなく終わっていたことだろう。

「まあ、今は跳ね馬ディーノの料理の事は置いておきましょう」
「にゅにゅう!今からが良いところだもんね!!」

全員、モニターに視線を戻す。
何度か転びそうになりながらも、部屋に辿り着いたディーノは、危なっかしい動作でドアをノックして開けていた。

「よっ……と、入るぜー」
「……跳ね馬?なんでお前がここにいるんだぁ?」
「え?ユニ達に頼まれて……。何にも聞いてねーのか?」

スクアーロは既に起きていたらしい。
と、言うより、スクアーロは常に早起きだ。
むしろ不眠症気味でさえある。
先に朝食を作るよう指示したのは、たぶんその方が面白いことになりそうだったから、である。

「ユニ、やっぱりスクアーロちゃんに何も言ってなかったんだ♪」
「言ってしまったら面白くありませんからね♪」

上機嫌の二人は止まらない。
更に様々なトラップを仕掛けていた事を思い出し、桔梗は心の中で二人に向けて合掌した。
恋は良い、恋をすれば人はより美しくなる。
だがこうして罠にはめるような真似をするのは美しくないし何より、……今回の作戦で傷を負うのは間違いなくスクアーロであろう。
モニターに視線をもどすと、丁度スクアーロが事態を把握したところらしかった。

「……ユニ達には何も聞かされてなかったけどな」
「じゃあ勘違いでもしてたのか?」
「……だと、良いけどな」

もしかしたらわざと彼らを二人っきりにした事に気付いているのかもしれない。
こちらの大空二人と違い、だいぶ不機嫌そうな顔をしたスクアーロは、疲れたように溜め息を吐いた。

「とりあえず、その皿置いたらどうだ?」
「あ、うん……ってぅお!?」

ディーノが皿を置こうとした時である。
カーペットの端に、ディーノが足を引っかけて転んだ。
当然、持っていた皿は放り投げられ、その中身は宙に投げ出される。

「どわわわわっ!?」

そしてディーノもすっ飛ぶようにして転ぶ。
一瞬驚いた様子を見せたスクアーロだったが、次の瞬間、飛んできた器を掴み、落ちてきた料理を受け止める。
流石のヴァリアークオリティー、米粒1つスープ1滴も落とさないそこに痺れる憧れる。
だがいくらヴァリアークオリティーがあると言えど、倒れてくる大の男を片腕が塞がった状態で支えられるわけがない。
しかももう片手は先がない。
咄嗟に手を高く上げて、なんとか料理は被害を免れたが、二人はそのまま床に倒れ込んでしまった。

「わぶっ!!」
「い゙っ……!?」

ごいんっと頭をぶつけた痛そうな音と、二人分の呻き声。
1つだけ無事な料理が虚しい。
スクアーロが料理を下に降ろし、自分の上に伸し掛かるディーノの肩を揺さぶる。

「てめっ!このバカ……!」
「う……いってて……。わり、すぐ退くな……!!」
「んっ……は、早く、……どけっ!!」
「え、あゴメン!!」

ディーノを押し戻そうとする手が何故か少し震えている。
その手と、赤くなったスクアーロの顔、そして自分が手をついた先を見て、ディーノは慌てて手を退けた。

「ほ、本当にすまん!その……触るつもりはなくって!!」
「わ、わかった、から……本当、どけ!」
「ごめんなさい!!」

どうやら転んだ時に胸に手をついてしまったらしい。
どこのドタバタラブコメだ。
まさかここまで都合よく行くとは、けしかけた本人達も思わなかっただろう。
今度こそやっとスクアーロの上から退いたディーノが、素早く土下座する。
その動きはとてつもなく滑らかであり、普段からやり慣れているのではないかとさえ思えた訳だが、それはこの際置いておく。
こっそり部屋に仕掛けられていたカメラの向こうでは、お祭り騒ぎが巻き起こっていた。

「流石ディーノクン!ヤるときはヤるって信じてた!!」
「風おじさまの計画通りですね!!」
「ふっ……、あそこのカーペットを少し浮かせておくだけの簡単なお仕事です」
「ぼばっ!こ、これ、本当に、大丈夫?」
「いーのよ!むしろもっとやっちゃえー!」
「ざまあ見ろだぜバーロー!!」
「(……可哀想に)」

桔梗と、一応デイジーだけが画面を心配そうに見ている。
長い一日は始まったばかりであった。
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