ブラックバカラを貴方に。

□三人寄れば文殊もため息
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「はあ……。」
「ふぅ……。」
「ふぁあ〜あ。」
「伊達は黙れ。」
「空気読んでくださいよ。」
「欠伸くらい自由にさせろよ……。」

その日、文芸部室に集まったのは生徒一人と教師二人。
生徒一人は勿論私、多々良蛍。
他の二人は、KY伊達先生と我らが文芸部顧問毛利先生である。
生活指導の先生だ。

「オレも色々な生徒を見てきたが……、今までのオレは恵まれていたんだな。」
「もうどうしてあの人達はあの女を信じるんでしょうね。
今日ずっと睨まれてたんですけど。
バスケ部の人達爆散しろください。」
「お前ら大変なんだなぁー。」

毛利先生は蘇芳のことで悩んでいる。
そして私はクラスメイトとバスケ部の奴らにイラついている。
おこなの、おこ。
奴らの脳ミソには綿しか詰まっていないのかしら。
やっと午前中の授業が終わったところなのだけど、私はもう愚痴を溢さずにはいられなかった。
バスケ部以外の人間は半信半疑な様子だったけど、バスケ部の人間は酷かった。
ずっと睨まれ続けているのはまず前提として、わざと机を蹴られたり、足を引っ掛けられそうになったり、陰口叩かれたり。
まあ、私がやられるだけで黙っているわけもなく……、と言いたかったけれど、やり返したりしたら敵の思う壺だって言うことはわかっているから、とにかく被害者であり続けるように徹した。
故の現在である。

「なんでたいした証拠もねぇのにあんなに断言出来るんだ……いや、それくらいならまだ構わねぇが、何なの?なんで『私の事信じないとどうなるか、わかりますよね?』とか平気な顔で言えるの?
それはあれか?オレをクビにするぞって脅しなのか?」
「親の権力笠に着て威張ることしか出来ないのかしらあの女は……。
あんな女がいるから日本は腐っていくのよ。
もはや害虫よ削除したいわね!」
「二人がとんでもなくストレス溜めてるのはよぉ〜くわかった。
でもその愚痴聞かれたら余計に立場悪くなると思うぜ。」

愚痴は止まらないが、伊達先生の一言でようやく一段落着けて、私達はまた大きなため息を吐く。
全く、先が思いやられるわね……。

「あ゙ー!くそかったりー。
おい多々良、なんか飲み物ねーか?」
「紅茶でも淹れましょうか?」
「お、じゃあ頼むな。」
「なぁおい多々良、お前毛利先生とオレとでだいぶ態度違わない?」
「日頃の行いの差ですよ先生。」
「ざまぁねぇな伊達。」
「テメー毛利殴るぞ。」

伊達先生には毛利先生にボコされておいてもらうとして、私はさっさとお湯を沸かして紅茶を淹れる。
柔道で全国大会出場経験のあるマッチョにもやし伊達先生が叶うわけないわね。

「ダージリンです。
ストレートで大丈夫でしたよね。」
「おぉ、ありがとうな多々良。
うん、良い匂いだ。」
「伊達先生にもダージリンを恵んであげますよ。」
「扱いの差。ねぇ、扱いの差。」
「普段の行いの差だな。」
「オレもうヤだぁああ!!」

え?別にたまったストレスを伊達先生で発散なんてしてないわよ?
まあでも、いつまでも先生をいじってばっかりいたら話が進まないし、そろそろ本題に入らないとね。

「で、文化祭の件なんですけど。」
「ああ、何やるんだったっけ?」
「確か……図書喫茶だったか?」
「はい、漫喫の本バージョン、という感じでしょうか?
勿論、カフェスペースは本格的なモノにしますし、図書スペースにはオススメ図書の展示などをしてみたいと思います。」
「良い子ちゃんらしい展示だな〜。」
「何言ってんだ、多々良のカフェならきっと大盛況だろうよ。
人数少ないし、先生達も手伝うからな多々良、頑張れよ。」
「ありがとうございます先生。
……これが既婚者と未婚者の違いなんですね……。」
「おい多々良!
何最後ボソッと言ったんだよ!?」

やっぱこう、包容力とかそう言うのが違うんだと思う。
それと別に私はただ良い子ちゃんらしい出し物なんてする気はない。

「カフェには紅茶数種とコーヒー数種、マフィンやスコーンなどの生菓子数種、食べ歩きも出来るよう、クッキー数種も用意します。
図書スペースには本のディスプレイと共に私的オススメポイントなどを書いたミニポスターみたいなのを作ってより多くの人に見ていただけるように努力したいと思います。」
「思ってたより本格的だな!?」
「うん、流石多々良と言わざるを得ない。」
「やるからには完璧にがモットーですので。
それに文化祭は、私達にとって重要な転換点になりかねません。」
「は?転換点?」

あの女と、その崇拝者達と、今日、直接渡り合い、私は感じたことがある。
単純に言えば、『皆おかしい』。
これは簡略化し過ぎてるけど、つまりは明らかに正気に思えなかった。
それは一部のバスケ部員に限らず、部長の赤司征十郎や、マネージャーの女子達も。
まるで彼女を信じるように暗示でも掛けられたんじゃないのかと、思うほどに。
そして一番気になったのはそれ以外の人間が居たこと。
黒子くんや桃井さんみたいに、彼女を崇拝しない者の存在だ。
実は黒子君に頼んで蘇芳瑠璃子の教室まで偵察に行ってもらったんだけど、彼女のクラスメイト達もバスケ部員達と同じ様子だった。
彼女に近い人ほど、その美しさに魅了されていく。
だが、その教室で一人だけ、彼女に恐怖している人がいた。
担任教師である。
そして、他クラス、他部活の人間は、彼女とその周囲の言葉には半信半疑で、私の事は疑いの目で見てきているだけ……。
彼女が信者を作り出すには、何か条件が必要なのだ。

「桃井さんは彼女に敵視されていた。
黒子君は……今のところ不明だけれど、彼女に存在を認知されてなかったんじゃないかしら……。
そして先生方は誰一人として彼女の言葉を信じていない、彼女に魅了されていない。
それはつまり、彼女が魅了出来ないという事……。
そこには、何かきっと条件がある。
それも1つではなく複数。
恐らくその1つが……年齢。」
「なるほど、一定の年齢層だけが魅了される、って訳か。」
「……いやいや、それじゃまるで蘇芳が超能力者みてーじゃねーか。
いくらなんでも……。」
「有り得ない、ですか?
確かに私も、信じられません。
ですがあの様子は明らかに異常!
これくらいブッ飛んだ理由でもない限り、あの様子には納得がいきません。」
「そりゃそうかもしれねーが……。」
「というか、それと文化祭がどう関係してくるんだ?」
「ああ、それはですね。
まあ、実験、って言えば、良いですかね?」

文化祭には、多種多様な人間が訪れる。
父兄、他校の生徒、またはこの中学への進学希望者。
どの年齢から年齢までが有効なのか、他にどんな条件があるのか。
実験するにはもってこいの場だ。
そしてその上で……。

「学校外の人間を味方に引き入れられたら心強くありませんか?」
「あー、確かに。
他校なら裏切られても、あんまり怖くないかもな。」
「そう簡単に行くかぁ?」
「判官贔屓……日本人は弱者に弱い。
被害者ぶって、うまくやって見せますよ。」

その為にも、策を練り、奴らを操り、場を整える。

「まあ、何かあったらその時は宜しくお願いしますね、先生。」
「あ゙〜、厄介な学年持っちまったな毛利。」
「ま、何とかなるさ。
無理だけはすんなよ多々良。」

私はその言葉に頷き、二人のカップに紅茶を注ぎ足す。
蘇芳瑠璃子、私の前に立ちはだかったからには、容赦はしないわ。
必ず貴女を、私の前に屈伏させてあげる。
思わず浮かんだ笑みに伊達先生が後退ったのを見て、イラついた私はその目の前のカップに砂糖を大量にぶちこんで無理矢理飲ませた。
スゴくスッキリしたわ。
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