ブラックバカラを貴方に。

□人の夢で儚い。人が言えば信じられる。
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黒子君が一軍に昇格したそうだ。
その事は彼本人から聞いた。
だけど、その日以降、彼とは余り話が出来ていない。
出来ないままに、数ヵ月が過ぎ、そのまま私たちは中学2年生になっていた。

「そうか、私はもう、用済みってことね……。」
『あの、教授……?』
「いいの、いいのよ。
彼の役に立てただけで、十分よ。」
『うわぁぁあ!助けて!!
教授がおかしくなっちゃったー!?
お母さーん!!』
『五月蝿いわよあんたー!
電話くらい静かにしなさい!!
教授ちゃんに迷惑でしょー!』
『ごめんね教授っ!!』
「おい待て、なんでお母さんが知ってるんだ。」
『話したから?』
「変なこと話してないでしょうね。」
『大丈夫だよ。
うちのママンの教授への信頼度は娘の私を上回るよ。』
「あー、話だけ聞いてやたら無条件に信頼しちゃうお母さんってあるある〜……じゃないわよ。
何話したらそんなに信頼されるの。」
『教授が乗りツッコミとかまじでどうしたのっ!?』

それだけ凹んでるのよ。
だから珍しくこっちから電話を掛けたというのに。
なんだか脱力してしまうわ。

『でー、何々?
黒子君とあんなに順調そうな感じだったのに突然音沙汰無くなっちゃったの?』
「挨拶くらいはするわ……。」
『話さないの?』
「……。」
『ダメだよ教授ー。
自分からグイグイいかなくちゃ〜!』
「私がグイグイいくところ、あなた想像できるの?」
『………………、夢に出てきそう!』
「なんて失礼なの。
本当に夢に出てやろうかしら。」
『呪い殺す気デスカっ!?』

物騒なことを言うのね。
でももっと積極的にっていうのは、確かに正しいことよね。
でもでも、それが簡単にできるんならとっくにやってるわ。

「こういうとき、あなたみたいに底抜けなバカ……じゃなくて、明るい性格だったらって思うわ。」
『バカって言った?
今、バカって言ったよね!?』
「聞き間違いよ。」
『嘘だ!!
酷いよ教授ー!
傷付いた!!斎は酷く傷付いたよ!?』
「はいはい、ゴメンナサイネ。」
『教授あんた、心をどこに落としてきたんだい?』

心がないって言うことかしらね。
だから、人とも上手に、関われないのかしら、ね。

『教授さー、いつもみたいに、スパッスパッと決めちゃう教授に戻ってよー。
私も調子狂っちゃう。』
「……。」
『教授確かに口悪いし人付き合いへったくそだけどさ。』
「あなた私を貶してるの?」
『そーじゃないって!
教授の良いとこ、見てくれる人はちゃんといる。
例の黒子君だって、教授の良いとこ、わかってくれる。
だから教授は教授らしく……、いつも通りにしててほしいよ。』
「斎、あなた……」
『うん?』
「何か拾い食いでもしたの?」
『いやそうじゃないでしょ!?
そこは「たまには良いこと言うじゃない。」でしょ!!』
「あ、良かった。
いつも通りの残念なあなたね。」
『酷いよ!
いつも通りが良いとは言ったけどあんまりだよ!!』
「『教授は教授らしく……いつも通りにしててほしいよ』。」
『ぐあー!繰り返すなよ恥ずかしい!
恥ずか死んだらどおするっ!!』
「あなたがそれくらいで死ぬはずないわ。
人類が滅亡してもあなただけは生き延びるって信じてるのよ、私。」
『私人類越えたっ!?すげぇ!!』
「単純ね……。」

本当は、感謝しているわ……。
この子の明るさも、拙い励ましも、私の周りにはあまり無いもので、だからこそ、元気になれる。
どうにも素直になれなくて冷たいこと言ってしまうけど。

『っと、母さん呼んでるし、そろそろ切るね!』
「長話して悪かったわね。
あなたのお母さんに謝っといて。」
『私はぁっ!?』
「……え?」
『もういいよ教授のバカ!
じゃーね!!』
「はいはい、今日はありがとね。」
『……え、今なんて、』
「切るわよ。」

斎の言葉の途中で電話を切った。
母さんに呼ばれてる、か。
受話器を置いて、一人っきりのリビングを見回す。
父は仕事、母は海外……って、本当は二人ともどうせお互いの愛人のところに行ってるんでしょうけど。

「いつも通りの私、ね……。
いいわ、臨むところよ。」

恋愛は長期戦よ。
私らしく、じっくり挑んでみるわ。
まずは明日、あなたに話し掛けてみる。
きっかけは、何が良いかしら。
やっぱり、本?
それとも、何か他の……。
手元の本を見る。

「……洋菓子、殺人事件。」

残念なタイトルに似合わず、面白い本だった。
そうか、その手もあったな。
思い立ったが吉日、私はキッチンへと向かった。
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