ブラックバカラを貴方に。

□神は死んだ?ならば私が神になる。
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「あの、誰かいますか?」
「……あ、黒子君。
ごめんなさい、今場所を空けるわ。」

部室の掃除中に、黒子君が訪ねてきた。
ちょうど本の山に阻まれて、私が見えなかったのだろう黒子君は、一歩部室に踏み込んで、ようやく私を視界に入れたようだった。

「凄い本の山ですね……掃除中ですか?」
「そうなの。
ごめんなさいね、汚くて。」
「いいえ。
むしろ忙しい時にお邪魔してしまってすみません。
借りていた本を返しに来たのですが。」
「そうだったの。」

私は持っていた本を手近な机に置いて、黒子君の元へと近寄った。
貸していた本を受け取り、本を退かしてパイプ椅子を引っ張り出す。
そこに腰掛けるように促した。

「お手伝いしましょうか?」
「あら、ありがとう。
でも平気よ。
後は本棚に詰めるだけだし、大した作業じゃないわ。」
「そうですか。」

納得したように頷く黒子に、何か食べるかと訊ねる。

「食べ物があるんですか?」
「ええ、クッキーとか、お煎餅とか、飲み物も少し。
部員は私一人だけだから本当に自由に使えるのよ。
ただし、本を読むときにモノを食べるのは禁止よ。」
「そうなんですか……。
では、お茶を少し。」
「わかったわ。」

机の上から本を退かし、ガラス棚からカップを出す。
小型の冷蔵庫からペットボトルのお茶を取りだし、カップに注いだ。

「どうぞ。」
「ありがとうございます。」

本の山がなければ、暖かい紅茶を出すことも出来たんだけど……、私の腕が披露できなかったのは残念ね。
私はそのまま本の片付けに戻る。
黒子君は、お茶を飲み終わる。

「カップ、どうすればいいですか?」
「そこのシンクに置いておいてもらえるかしら。
後で洗うわ。」
「わかりました……。」

コトリと、カップを置く音が聞こえて、沈黙が降りる。
………………会話が、続かないわっ!
ああ、斎、今だけはあなたの明るさが羨ましいわ。
これ以上引き留めるのも申し訳ないわよね……。
でも、帰るんなら黒子君は、自分から言い出しそうなものよね。
初めて黒子君がこの部室に来てから既に数日が経過していて、その間時折一緒に下校したり、話をしたりはしてたのだけど、彼、言いたいことはハッキリと言うタイプのようだし。

「あの、多々良さん。
ここにある本、読んでも構いませんか?」
「え?……ええ、好きに読んでくれて構わないわ。」

私が心の中で葛藤を繰り返している間に、黒子君は端に重ねてあった本に手を伸ばしていた。
そうか、本が気になっていたのね。
本を読むのなら無理に喋らずに長い時間一緒にいられるじゃない!
ぐっじょぶよ黒子君!!

「何か気になることがあったら遠慮せずに言って。」
「はい、ありがとうございます。」

静かな部室に本を片す音と、ページを捲る音だけが聞こえる。
心地の良い時間が過ぎていった。
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