群青の鮫

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「さて、イェーガーには一対一で戦うという考えがない。ガットネロとて、移動し、場所を誤魔化しながら、イェーガーの攻撃を邪魔し続けることは難しい。ならばこちらも、全員で対処するしかないでしょう。問題は死角となる背後へのショートワープ」

イェーガーがワープするのと同時に、バトラー達の背後に鋼鉄の盾が出現する。

「ヴェルデの装置で作った、鋼鉄のカバーか!」
「やるね骸クン♪」

白蘭を攻撃するべく、イェーガーが付き出した腕は、鋼鉄に阻まれた。
だがイェーガーは再び腕を構え直す。

「くだらぬ小細工を」

スコープの向こうで、イェーガーの腕が夜の炎に覆われたのを見て、スクアーロは咄嗟にその腕に向けて狙撃する。

「チッ、またか」

イェーガーの注意が向けられる前に木々の間を縫うように移動したスクアーロだったが、移動を終え、ライフルを構え直すよりも早く、その耳に何かを突き破るような鈍い音が届いた。

「あれ?どーなってんの?これ……」

白蘭の胸を突き破り、包帯だらけの腕が飛び出していた。
ゴポリと血を吐き出した白蘭が、自分の胸から突き出た腕に触れる。
白蘭の後ろに着地したイェーガーには、左腕の肘から先がなかった。

「白蘭!!」
「手だけワープ出来るのか!!」

隠れて見ていたユニの悲鳴。
γが、予想もしていなかった事態に叫び声をあげる。

「ぐふっ……、こりゃ……ダメそうだ……。握手だイェーガークン……。ほら、XANXUSクン、今だよ……」
「でかしたドカス!!」

イェーガーの腕を掴み、固定した白蘭がXANXUSを促す。
白蘭の背後に立つイェーガーに、憤怒の炎を放ったが、白蘭の最後の抵抗は意味を為さず、怪我一つない姿でXANXUSの目の前に出現したイェーガーはその手刀を横に一閃する。

―― チュンッ
「!!」

すかさず撃ち込まれた銃弾が、XANXUSとイェーガーの間を裂く。
やはりイェーガーには当たらず、XANXUSがその場から退くより早く、再びイェーガーは腕を付き出した。

―― チュインッ
「そこか」

スクアーロが移動する間はなかった。
XANXUSへの攻撃を遮るように放たれた弾丸の軌道を辿り、イェーガーが鎖を投げる。
木の幹を引き裂き、木立の奥を突いた鎖が、小規模の爆発を引き起こす。
その煙の中から、1つの人影が飛び出した。

「ぐっ!!クソッ!!」

姿を隠すために身に付けていたマントをかなぐり捨て、XANXUSの脇に着地したスクアーロは、恨めしげにイェーガーを見上げた。

「ギブアップが早すぎますよガットネロ!!」
「うるせぇ!この程度の小細工じゃあ、すぐに破られるとは思っていたがぁ……。想像以上に早いぞ、この野郎!!」

スクアーロは苛立たしげに叫び、また、距離を取ったイェーガーを横目にしながら、倒れた白蘭を回収する。
腕時計を破壊して、その体をγの方へ投げた。

「マーモン、頼んだぞぉ!!」
「わかってるよ」

腕時計を壊したことで戦線を離脱した白蘭の怪我を、マーモンが幻術で補修し命を繋ぐ。

「何て奴だ!!時計なんて眼中にない!!イェーガーの狙いは命だけだ!!」
「だって同じ事だろ?戦闘不能にするのに、殺しちゃいけないルールなんてないんだから」
「くっ!」

始めこそ躓いたものの、すぐに余裕を取り戻したバミューダ達が余裕綽々に語る。

「あと何人、死ぬんだろうね」
「死んじゃいねぇし、死なせもしねぇ!!」

挑発的に言ったバミューダが、イェーガーの肩から降りるよりも早く、スクアーロが動いた。
袖から小さな球体を取り出し、それを素早く投げ付ける。

「っ!?……粉?」

イェーガーの腕に当たり、弾けた玉はキラキラと光る粉をぶちまけた。
間髪入れずに一回り大きな玉を地面に叩き付ける。
叩き付けた玉は破裂し、辺りに煙を撒き散らす。

「煙玉か?古典的な真似を」
「だがその光る身体は、煙の中でよく目立つだろうぜぇ!!」

と、スクアーロは言ったものの、屋外で煙を使ったところで長くは保たない。
煙が風に飛ばされない内に、攻撃を始めるXANXUS達に紛れながら、スクアーロは更に細工を施していく。
自分の人形が軽々と破壊されたことから、まともに当たっても勝てないだろうことはわかっていた。
そして煙が晴れたとき、イェーガーが見たのは、中空に立ち、自分を見下ろすスクアーロだった。

「また小細工かい?思っていたより、つまらないね、君も」
「小細工でも、つまらなくても、勝つためなら何だってしてやらぁ。今まで汚えこと山程してきたんだぁ。今さら卑怯の1つや2つが、何だって言うんだぁ?」
「それもそうかもね。……それより、君、いつから宙を歩けるようになったんだい?」
「さあなぁ?」

はぐらかすスクアーロに肩をすくめて、バミューダはまた、ふよふよと漂いながらイェーガーの肩に乗ろうとする。
だがバミューダの動きは空から降ってきたナイフに阻まれた。

「動くな」
「……仲間に近付くのもダメなのかい?」
「……」
「これ以上口を聞く気はないってことかい?まあいいや。やってしまいなよ、イェーガー君」

バミューダが言うが早いか、イェーガーは脚力だけで空高くまで飛び上がる。
一瞬でスクアーロと同じ高さまで飛び上がったイェーガーは、その手を横に振るい、スクアーロを切りつけようとした。

「なにっ!?」
「残念だったなぁ!!」

イェーガーの腕は空気を切っただけで、当のスクアーロの声は、イェーガーの下方から飛んできた。
逆さ吊りになって攻撃を避けたらしい。

「そうか、ワイヤーが空中に張り巡らされているのか。イェーガー君、ワイヤーを切ってしまえば早いよ」

バミューダの指示通りに、ワイヤーに手刀を向ける。
だが、振り下ろした手がワイヤーを切ったその瞬間。

「ガッ……!!」

切ったワイヤーの左右から幾つものナイフがイェーガーに向かって飛んできて、その体に突き刺さる。
ブービートラップだった。

「イェーガーに、怪我を負わせた!?」
「でかした、カスザメ!」

落ちるイェーガーに、銃口を向け、XANXUSが再び憤怒の炎を噴射する。
轟々と渦を巻いてイェーガーに迫った炎だったが、イェーガーは咄嗟に鎖を近くの木に巻き付けて引き付けることで、その炎を回避した。
回避した先には、骸が待ち受け、派手なマグマの幻術がイェーガーを襲う。
そのマグマの矛先が一部スクアーロに向いていたのは気のせいではないだろう。

「ゔお゙ぉい六道ぉ!!てめえ今オレのこと狙っただろぉ!!」
「おやおや、気のせいではないですか?」
「おいおい、揉めてる場合じゃねーだろ!?イェーガーはどうなったんだ?」
「さあ、どうでしょう。マグマの煙でよく見えません」
「明らかに選択ミスだろぉ。なんでここでマグマ使ったんだ六道」
「クフッ!!バカのように高いところで格好をつけていた、あなたに言われたくはありませんね」
「仲良くしろよお前らっ!!」

意外と相性が悪いらしい二人を諌めていたディーノは、緊張を緩めないようにしながらイェーガーのいた辺りを観察する。
ガチャガチャと捲れ上がった広場のタイルを踏みつける音、煙が晴れたそこには、纏った服を少し焦がしただけのイェーガーが立っていた。

「予想外だよ、君たちがここまでやるとは思わなかった」

いつの間に来たのか、イェーガーの肩に乗ったバミューダは、少し感心した様子で、彼らに話し掛けた。

「でも今の攻撃でイェーガー君を仕留められなかった時点で、君達に勝機はなくなった。次からは、本当に仕留める」

バミューダはフワッと浮き上がり、イェーガーの肩から離れる。
ディーノ達連合チームのバトラーが構えた瞬間に、イェーガーが動いた。
ショートワープでその場から消える。
現れたのは再びXANXUSの背後だった。

「背後ばっか狙いやがって、バカの一つ覚えかぁ!?」
「!!」

イェーガーの腕が振り下ろされるより前に、それを串刺しにせんと剣を突き出す。
スクアーロの剣とイェーガーの腕に巻き付けられた鎖が、耳障りな金属音を立ててぶつかる。
だが、弾き飛ばされたのは、スクアーロの方だった。
あの体格の差だ。
仕方のない結果だろう。
だがイェーガーの腕の軌道もずれて、XANXUSの脇をギリギリで通過する。
振り向いたXANXUSが放った銃撃は、ショートワープで躱された。
今度はXANXUSの反対側に現れる。
スクアーロはXANXUSの背後。
XANXUSは後ろを向いている。
他の二人は少し離れた場所にいた。
イェーガーが今度こそ、腕を振るいきる。

「っ!!」
「―――……!!!!」

少し体勢をずらしたせいで、白蘭の二の舞は避けられた。
だが、イェーガーの腕の一振りで、XANXUSの右腕が切断された。
赤い血が噴き出す。
重傷を負ったにも関わらず、XANXUSは直ぐ様反撃した。
先程までよりも大きな憤怒の炎だったが、イェーガーのショートワープには効果はなかった。
次にショートワープした先は、スクアーロの背後で、XANXUSの負傷に動揺したスクアーロは、振り向くのがほんの少し……コンマ一秒にも満たない、極々僅かな瞬間、遅れた。
武器を出す間も、避ける間もなく、その心臓にイェーガーの腕が迫る。
湿っぽい、嫌な音が広場に響いた。
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