群青の鮫

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「よお、調子はどうだぁザコ共がぁ!!」
「スクアーロ!!」

ザンザス、ベル、ルッスーリア、レヴィの休む病室にスクアーロが顔を出したのは、彼らが手当てを受けてからすぐのことだった。
足音も立てずに、滑るように床を移動するスクアーロだったが、時折ぎこちなく動きを止めて、背中を庇う仕草を見せる。
ヴァリアーは、もうボロボロであった。

「ちょっと大丈夫なのスクちゃん!!さっき復讐者に思いっきりお腹蹴られてたじゃないの!!」
「たいしたことねぇ!」
「さっすがスクアーロ。やっぱりタフだな」
「ム、たいしたことなくなんかないでしょ。本当なら絶対安静の怪我なんだよ!?」

部屋に入ったスクアーロは、まずザンザスの体を上から下までざっと確認し、仲間達の状態を見ると、その端正な眉を顰め、一段と声を低くした。

「テメーら、全員動けそうにねーな」
「ナメるなスクアーロ!!ボスのためなら、この程度の怪我などないも同じなのだ!!」
「無理しちゃダメよレヴィ!」
「ルッスーリアの言う通りだぁ。テメーらが今立ち上がり戦ったところで足手まといにしかならねぇ」
「くっ!!それを言うなら貴様とて同じだろう!!」
「るせぇ、ドカスがぁ!!……唯一希望があるとすりゃあ、ルッスーリアの晴れクジャクだがぁ……」
「無理よぉ。もうエネルギー切れで出せないわ!!」
「だろうなぁ」

復讐者の急襲で受けた被害を、己の目で見て確認したスクアーロは、呻くように言って、額に手を当てた。

「ちっ、ならオレとザンザスの二人で戦うしかねぇってことかぁ」
「スクアーロも復讐者に時計壊されてただろ?戦えねーじゃん!」
「何寝惚けたこと言ってやがる!まだ時計は残ってんだろうがぁ!!」

がなり立てるような大声で言い、仲間達に向けて腕をつき出した。
スクアーロの腕には、新しいバトラーウォッチが装着されている。

「まじなのスク隊長!?」

それを見て青い顔で驚愕の声を上げたのはルッスーリアだった。
スクアーロは強気に笑みを浮かべながら胸を張り、腕時計を見せ付ける。

「ったりめーだぁ!!一度時計を壊された奴が余った時計を着けて戦っちゃいけねーなんてルールはねぇ!!だったら幹部で一番強くて元気なオレが戦線復帰するっきゃねぇだろぉがぁ!!」
「なによ無理しちゃって……。ボロボロのくせに……」

一人ごちたルッスーリアの声は、スクアーロには届くことはない。

「おのれバミューダァ!!」

スクアーロの大声に触発されたように、レヴィが苛立たしげに叫んだ。
ベルもそんな周りの様子に、ソワソワと落ち着かなさげにして、マーモンに訪ねた。

「これもうヴァリアー的に大損害じゃね?なんか手は打ってあんのかマーモン?」
「ムッ」

ずっとハラハラと様子を見守っていたマーモンだったが、ベルの言葉に堪えきれなくなったように口調を荒げて主張した。

「いろいろやってるよ!!僕は最善を尽くしているさ!!今だって……」
「マーモン」

そんなマーモンの言葉を遮ったのは、ザンザスだった。
低く通る声に、ざわついていた場が水を打ったように静まり返る。

「悪かねぇ」
「え……?」
「かっ消すドカスが、増えただけだ」

その力強い言葉に、瞳に、幹部達も落ち着きを取り戻す。
満足げにそれを見て目を細めたスクアーロは、仲間たちに顔を向ける。

「わかったら、とりあえず今は寝ろ。できる限り体を休めることが、今オレ達にできる最善だぁ」
「そうね……」

その言葉に、ザンザスを含めた全員が目を閉じる。
スクアーロだけは、体を休める様子なく動いていた。
タオルケットを手にもって、ザンザスにかけてやろうと近寄る。
静まり返った部屋には、微かな衣擦れの音と、時計の秒針が時を刻む音だけが響いていた。
チラリと見上げた時計が、12時を指す。
その瞬間だった。

―― ティリリッ
『バトル開始1分前です』

代理戦争3日目は、余りにも無情に、その幕を開けたのだった。
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