群青の鮫

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「うわっ!!……ってぇー。ヴァリアーの廊下ってこんなによく滑ったっけか?」

ヴァリアー邸の廊下にて、豪快な転び方をしたディーノが、ぶつけた頭を掻きながら起き上がる。
その姿を、廊下の角から顔を出し、笑った人物がいた。

「ししし!なーにしてんだよ跳ね馬?」
「なっ、ベルフェゴール!?」
「またスクアーロの部屋に夜這いに行くの?」
「そんなことしねーし、したこともねーっつの!!だいたいアレは、お前があの部屋にオレのこと閉じ込めただけだろっ!!」
「しし、王子そんなことしーらね!!」

ケラケラと笑うベルに、ディーノは頭を抱えてため息をつく。
スクアーロの奴、いつもこの困ったちゃん達のことどうやってまとめてんだよ……。
……………………なんで今スクアーロのこと考えたんだよ!
あー!思い出しちまった!!
この間、ヴァリアー邸に来たときに見ちまった、スクアーロの寝顔とか……とかっ!!
スクアーロの髪の毛が太陽の光に当たってキラキラしていて、閉じた目蓋を縁取る長い睫毛が影を落としていて、薄い唇が少し開いていて、そこから零れる吐息が……ってあああ!!
何思い出してんだオレはぁ!?
未来の記憶が降ってきてから、なんだかオレは、ちょっとおかしい。
そうだ、全部あの未来の記憶のせいだ。
スクアーロのこと意識しちまって、頭撫でるとか変な行動して。
スクアーロにも言われたじゃねーか。
『未来の記憶に踊らされんな』だっけ?
そうだよな、オレ、貧乳と巨乳なら断固巨乳派だし!
ないない!ありえねー!!
スクアーロが聞いたら殴られるかもしんねーけど、ない。
絶対ない!!

「何やってんだし、キモッ」
「て、テメー……」

顔を赤くしたり青くしたりと、百面相をするディーノに送られたのはキモいの一言。
それに怒って一歩詰め寄ったディーノに、ベルはなおもニヤニヤ笑いを崩さぬまま告げる。

「スクアーロなら今いねーぜ」
「……あ?」
「継承式前に片さなきゃならねーことがあるとかで、色々と飛び回ってんの。用があんなら出直すんだなー」
「な、別にスクアーロに会いに来たわけじゃねーよ!!オレは最近起こったラゴファミリー壊滅について聞きに来たんだよ!あれ、お前らの仕業か?」

ラゴファミリーはボンゴレと親交のあるファミリーだったはず。
今回の継承式にも呼ばれていた。
それが壊滅した上に、その壊滅の犯人は謎。
だが、ボンゴレに反感を抱いていたという噂を聞いたことのあったディーノは、裏でヴァリアーが動いたのではないかと推測したのだった。
ヴァリアーは独立暗殺部隊。
彼らが犯人でもおかしくはない。

「はあ?オレらじゃねーし」
「本当か?」
「しし、マジに決まってんじゃん。オレらがやったとして、もしそれが他の同盟ファミリーにバレたら色々と問題あるんだろー?オレらじゃできねーよ」
「……まあ、確かに」

あくまでもラゴファミリーは同盟相手。
確たる証拠もなく動けるほど、ヴァリアーは自由ではない、か。

「ラゴファミリー?の奴はアレ。ボンゴレの掃除屋が殺ったらしーぜ」
「……なに?」

ベルは、用が済んだんならさっさと出てけ、とばかりにナイフを投げつけて姿を消した。
ボンゴレの掃除屋。
いるかいないかも判然としていない存在だが、ベルはそれがいることを確信しているようだ。
彼……あるいは彼女は、ボンゴレに関わる、ほの暗い噂を持つファミリーの前に現れる。
性別は謎、容姿も謎、声を聞いたものも、姿を見たものもおらず、ただ結果だけが残る。
裏社会ではその存在は恐怖の象徴とされ、ボンゴレの掃除屋、始末番、他にも、姿の見えないことから「インビジブル」、音のないことから「消音器-サイレンサー-」と呼ばれている。
しばらく噂を聞かなかったが……まさかまた活動を始めたのか?
ボンゴレの掃除屋との噂が本当なら、ラゴファミリーはボンゴレに害なす存在として消された、ということだろうか。
知らず、鳥肌が立った。
身震いを一つして、ディーノはキャバッローネに帰るために歩き出した。
ヴァリアーにいても、これ以上の情報は得られそうにない。

「ん?なに?帰んの?」
「そーだよ。これ以上はお前らも知らねーんだろ?」
「ふーん、まあね。つーかそんなん、電話で聞いてくりゃ良いじゃん」
「……それは、そうだけど」

まあ、その通りなのだが。
気付けば自然と、この館へと脚が向いていた。
あわよくば、また会えないか、なんて思っていたのか……?
……いや、そんなはずはない、よな。
ため息を吐いて、ディーノはベルに背を向けて歩き出す。
……直後また、盛大に転んだのだった。
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