群青の鮫

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風が頬を擽る。
……擽ったい。
なんだ、誰かが頭に触れている?
包むような温もりの中で、オレの意識はゆっくりと、夢の中から浮き上がっていく。
目蓋が重たい。
いつの間に眠っていたんだろう。
確か、10年後の記憶を頼りに調べた、ミルフィオーレファミリーの構成員達の、現在の状況の報告書を読んでいて……?
寝ちまったのかな、最近はろくに睡眠も取れていなかったし。
日溜まりの中で寝転んでいるような、心地の良い暖かさ。
どこか覚えのある、温もり。
この温もりは、確か、確か……。

「……ぅ、ん?」
「……!!」

目を開ける。
柔らかい陽光が窓から射し込み、書類にまみれた机を明るく照らしていた。
眩しくて何度か瞬きを繰り返す。
次第にはっきりとしてきた視界に映った人物に、オレは驚き、目をしばたたいた。

「は……跳ね馬?」
「あ、いや……わりぃ。寝てたから……」

金色の髪を、太陽の光に煌めかせて、何故か慌てる跳ね馬は、いつもよりも少し、距離が、近いような。

「10年後の記憶のこと聞きに来たんだけどよ。執務室にいるっつーから来たら、寝てて、……つい」
「?つい……?」
「頭を、撫でてました……」
「頭……?」

頭……、が、意識してみるとなんだか暖かい。
なんだ、これは……?
そろそろと手を伸ばして、暖かいものに触れる。

「手……?」
「い、いやそのな!?スクアーロが起きるのを待ってようと思ったんだけどよ、なんかスクアーロの髪が陽射しでキラキラしてて、あーキレーだなーって思ったら手が伸びててな!?」

頭の上に乗ってた手が引っ込む。
ああ、つまり跳ね馬がオレの頭を撫でていたってことか……。
……撫でてた!?

「な、何してんだてめぇ!!」
「いや本当悪かったって!!」
「だ、だいたい何で起こさねーんだぁ!?つーかその前に、勝手に人の執務室に入ってんじゃねーぞぉ!!」
「か、返す言葉もねーな……、アハハ」
「笑ってんじゃねーぞドカスがぁ!!」

寝顔見られた上に、頭撫でられてたとか最悪だ……!!
つか、こんだけ近付かれてたのに気付かねーで眠りこけてたとか、オレ、暗殺者失格だ……!!

「ありえねえ……!!」
「そんな気にすんなって!!」

こんな屈辱的なこと、気にするに決まってんだろうが!!
だあー!くそっ!!

「テメー用がねーなら出てけぇ!!」
「いや用があるから来たんだって!!お前らも未来の記憶受け取ったんだろ!?あれマジなのか!?なんか色々と衝撃的っつーか、その……」

尻切れ蜻蛉に言葉を切った跳ね馬が、オレを横目で見てくる。
……何が言いたいんだ。

「オレがスクアーロを……、口説いてたりとか、した、よな?」
「……」

未来では、そうだった。
未来の記憶に、確かにそんな場面はあった。
だがそれはあくまで、未来での出来事だ。

「跳ね馬ぁ。あれは未来での出来事だぁ。今のオレたちには関係ねぇ。未来の記憶に、踊らされてんじゃねぇぞぉ」
「別に踊らされてるわけじゃ……!!」
「踊らされてんだろぉがぁ!!……いいかぁ、テメーが今オレを気になっていたとしても、それは間違いなくただの思い過ごしだぁ!そして、オレがテメーを好きになることもねぇ。わかったら間の抜けた顔してねーで、さっさとキャバッローネのアジトに戻れぇ!!」
「なっ!!そこまで言うことねーだろ!?」

傷付いたような顔をした跳ね馬を部屋から追い出し、乱暴にドアを閉める。
床に書類が散らばっている。
読んでいる途中で寝てしまったせいで落としてしまったのだろう。
拾い集めて机に置き、もう一度ソファーに身を沈める。
ふかふかの感触に、また眠気が襲ってくる。
それを振り払うように首を振り、気合いを入れるために髪を結い上げた。

「……っし」

書類はファイリングして、机を少し整理する。
出てきた封筒をため息と共に引き出しに仕舞った。
封筒には「招待状」と書かれている。
継承式……、沢田綱吉のボンゴレX世を継承するための式典への招待状だった。
ザンザスがこれを見て、憤怒の炎で塵にする前になんとか救出したものだが、9代目のジジイももっとよく考えて送ってほしい。
胃の辺りがキリキリと痛むのは、きっと気のせいではないのだろう。

―― コン コン

「しし!スクアーロー、跳ね馬と何話してたんだよ?」
「……ベルかぁ」
「あいつなんか怒って出てったけど、何?夫婦喧嘩?」
「……」

ニヤニヤ笑ってふざけたことを抜かす似非王子の顔を見て、理解する。
こいつが跳ね馬をこの部屋につれてきたんだな!!
手の中で封筒がクシャリと潰れる。
それを見て、オレの怒りを察したのか、頬に冷や汗を浮かべてベルが話題を切り替えた。

「しし、んなことよりスクアーロ、白蘭の目が覚めたらしいぜ!!」
「!本当かぁ!?」
「マジマジ。まあ、目が覚めてまたすぐ寝たらしいけどなー」
「そうかぁ……。後で様子を見に行く」

ベルが部屋から出ていったあと、残った書類を片付けて、白蘭たちのいる部屋へと向かった。
ーー継承式、目覚めた白蘭、未来の記憶。
まったく、とんだファンタジーだ。
面倒事ばかりが山積みになっている。
全部の問題を片付けることができたら、ゆっくり休暇でもとりたい……。
めくるめく優雅なバカンスを想像し、少し軽くなった足取りで、ヴァリアー邸の廊下を進んだ。
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