群青の鮫

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「昔戦った時雨蒼燕流の奴はてめぇよりも弱かったが、八つの型全てを見せてくれたぜぇ。……最期に、八の型秋雨を放ったと同時に無惨に散ったがなぁ!!」

全身の傷から血を流して横たわる山本武を追い詰めるように言葉を吐いていく。
相手に殺す気がないのに、オレは殺すまで追い詰めることはしたくなかった。
叶うなら、自分からギブアップしてもらいたい。
それが可能なことなのならば。

「……まあ、てめぇの覚悟はその程度だったってことだぁ。お前が受け継いだ、時雨蒼燕流もなぁ」

時雨蒼燕流は強い。
だがこいつの覚悟は、まだまだ足りない。
ここで降参をしてくれ。
この少年の才能は、何者にも変えがたい。
こんなところで散らせるなど、もったいなさ過ぎる。
だがこの願いが通じることはなく、山本武はまた、立ち上がった。
気力は未だに、満ち満ちている。
いやむしろ、その目には突破口を見つけたとでも言うような、希望の光さえ覗ける。
今の会話で、何かを見つけたとでも言うのか?

「ゔお゙ぉい、立つのも一杯いっぱいじゃねえかぁ。そのまま寝てりゃあ見逃してやっても良いんだぜぇ!」
「そーはいかねーよ。時雨蒼燕流は、完全無欠最強無敵だからな」

ボロボロの体で何をしようと言うのか。
警戒を高める。
降参してくれないのなら、諦めるまで戦い続けるより他ない。
それに手負いの獣ほど、何を仕出かすかわからねぇ恐ろしさがある。
こちらに向けて駆け出してきた山本武にどう対応するか、一瞬迷う。
迎え撃つ、か。
下手に動いて、隙を作るよりはましかもしれん。
無言で数歩下がり、場所をあける。
手につけた黒い革手袋をぎゅっと引いて準備を整える。

「時雨蒼燕流……」

八の型、秋雨の構えをして、迫ってくる奴に、オレは動かず、静かに待つ。
その構えはやはり秋雨と同じだが、何かが違うと、本能が警鐘を鳴らす。
目前まで迫った山本武の体が、沈む。
秋雨に、こんなモーションは、無かった!!
そう判断した直後、素早く飛び上がり、背後に逃げる。
体勢を低くしたと言うことは、その攻撃は下から上へと繰り出す攻撃のはず。
そしてその予想通り、激しい攻撃が襲い掛かってくる。
避けるのが遅かったのか、攻撃が速かったのか。
見知らぬ攻撃の一部が、オレの体を掠める。

「ぐっ……!!」

装備していた防弾チョッキのお陰で、傷自体は大したものではない。
だがその衝撃に体が吹き飛ばされ、冷たい水面に叩きつけられた。

「チッ!てめぇ、今のはなんだ!
時雨蒼燕流以外にも流派を使えたのかぁ!?」

途中までは秋雨だった。
途中から、見たこともない攻撃に変わった。
フェイントだったのか?
だが、構えから攻撃に移るその流れは自然で、時雨蒼燕流以外の流派であるようには見えなかった。

「いんや、今のも時雨蒼燕流だぜ。八の型篠突く雨は、オヤジが作った型だ」

オヤジが作った、だぁ?
そういやぁ、オレの戦った時雨蒼燕流は8代目。
8代八つの型。
つまり、一代につき1つの型を作り、それを今代まで受け継いできたのか!?
こいつは年齢的に見ても恐らく9代目、もしくは10代目の可能性もある。
ならばこいつは、オレの知らねえ技をあと1つか2つ持っている可能性がある。
……だが、つい最近この流派を手に入れたようだから、これ以上はもうなにも持っていない可能性もあるが。

「は、完全無欠最強無敵の剣かぁ。なるほどなぁ。だが、いや、だからこそ、その峰打ちが解せねぇ。てめぇ、ナメてんのか?そんなことではいつまでたっても、オレを倒すことは出来ねぇ!!」
「ん?ハハハ、そうかもな。型も、違うのは八の型だけだしな」

八の型、までしかないようだ。
だが、こいつが8代目っつーことはないだろう。
それはつまり、

「時雨蒼燕流、九の型」

この場に合った、新しい型を作り出せると言うことだ!

「その構え、野球でもやる気か?」
「あいにく、野球しかとりえがないんでね」
「……らしいなぁ」

山本武の野球の腕は、相当なものだそうだ。
その事は、戦いの前から知っていた。
ただの一般人の野球少年が、ここまで化けるとはなぁ。

「……誉めてやるぜ山本武。ここまでオレに本気を出させたのは、他に剣帝くらいしかいねぇ」
「え……?」
「いくぜぇ!!」

放つ技は、あの剣帝テュールにも使った大技。
鮫特攻-スコントロ・ディ・スクアーロ-。
周りを巻き込み削り尽くす、速さと、強さを併せ持つ者だけが使える技。

「時雨蒼燕流、攻式、九の型」

一度めの特攻は避けられる。
だが直ぐに切り返し、スピードを更に増して、オレの剣が山本武に襲いかかった。
鋭い金属音がなる。
やや後方に飛んだ山本武を追いかけ、更に斬りかかる。
……が、

――逆!!?

山本武の姿が、己の背後に現れる。
いつの間に!
今から振り返っていては、防御も攻撃も間に合わない。
しかし、問題はない。

「あめぇ!」

オレは、自分の剣を背後に向かって放り投げた。
風を切って飛んでいく剣が山本武の腹を貫く。
しかしその山本武の姿は水にとけて、崩れ落ちる。
――まさか!!
再び視線を目の前に戻す。
そこには刀を大上段に振り上げた山本武がいて。
その刀が、オレの眼前へと、迫ってきていた。
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