群青の鮫、海を越え

□×ぬら孫
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まだ、今のオレには少し大きな、そのリング。
月明かりに照らして眺め、どうしたもんかとまた考え込む。

「ヴァリアーリング、だよなぁ……」

このリングをもらったあと、オレは全ての思考をリングに持っていかれ、ずっと上の空の状態だった。
乙女に様子がおかしいと言われるほどなのだから、オレの動揺も相当なものだったとわかるだろう。
食事を済ませ、風呂に入り、部屋に戻ってからも、ずっと考えを巡らせている。

「何故、これがここに……」

前世、死ぬ時、この指輪はオレと共に死したはずなのに、なぜ今、ここに同じリングが?

「いや、そうじゃねぇな」

この指輪、昔持っていたオレのリングにかなり似ているのだが、全く同一、というわけではなかった。

「紋章の中に、ヴァリアーの文字がねぇ……」

本来刻まれているはずの文字がない。
ならば、これは前世のモノとは違う?

「炎は、灯せるのかぁ?」

灯してみようか。
そうすれば、何か分かることがあるかもしれない。
だが、今のオレに、炎は、灯せるのか?
前世では、XANXUSを守る為の覚悟があった。
大切な人を守るという、覚悟があった。
今のオレは、どうだ?
大切と思う人が、いないわけではない。
乙女や、祖父や、この館の使用人達。
彼らのことを、守りたいと思う。
しかし、炎を灯そうと思ったとき、とある考えが過るのだ。
もしこれで炎が灯ったとして、もしオレが戦えるようになったとして、そしてもしイタリアにまだ仲間達がいるとして。
オレは一体このリングをどう使うんだろう。

「乙女達と、ディーノ達と……」

あいつらがいたとして、オレは既に故人で、名前も、国籍も、何もかもが違う。

「オレは死んだ。あいつらを残して、死んだんだ……」

そう、今さら戻ったって信じちゃもらえないし、また逢いたいとは思うけど、……逢えたとして否定されたら、生きてけねーよ。
言ってみたその言葉が、胸のどこかにつっかえて、酷く心がモヤモヤとした。
オレはあの時、死んだのだ。
……でもそれならば、ここにいる自分は、何……?
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