企画

□きみたまご様(朱とまじわれば+10×探偵)
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「もう一度事件を整理するぞ。まず、被害者はサラリーマン。店には一人で来ていて、あの奥の席で食事をしていた。死因は毒殺。死亡場所はトイレの中。首筋に鋭い針のようなもので刺された痕があった。問題は……」
「いつ刺されたか、または凶器の所在」
「……スクアーロさん」
「ガキんちょどもが随分と物騒な話してんじゃあねぇかぁ。刑事ごっこかぁ?」
「違います!」
「オレ達は少年探偵団なんだぞ!」
「今までも色んな事件を解いてきたんだから‼」
「……へえ、そうか」

こんなチビ達が現場を自由に行き来している現状と言い、あの若い刑事のへたれ具合と言い、日本の警察、大丈夫なのか?
眉をしかめたオレに、アユミとか言う女の子はニコッと可愛らしく笑って話し掛ける。

「お兄さんのことも少年探偵団が守ってあげるからね!」
「……そりゃ、どうも?」

チビ達は精一杯の怖い顔をしてザンザスを睨んだ。
だが気付いたザンザスに睨み返され、その恐ろしさにさっと、オレの後ろへ隠れる。

「ザンザスお前……子供を怖がらせるなよ……」
「ガキが勝手に怖がってるだけだ」
「どう見ても今睨んでただ……」
「やぁー、ザンザス様ぁ。そんな小者は放っておいてぇ、あたしともっと飲みましょ〜?」
「……あ"あ?」

小者、だと?
今のは、カチンと来た。
ギロと女を睨み付け、一歩踏み出したところで、ひゅっと風を切る音を聴いた。
とっさに左手で顔を庇い、飛んできた物を掴み取る。

「てめっ……ザンザス!」
「ちょ、ちょっと何やってるのよ!ジョッキなんて投げたら……」
「店の物投げるなぁ!誰が弁償すると思ってやがる‼」
「え、そこ?」
「カードあるだろ」
「オ レ の な ‼」

頭に上ってた熱が一気に冷めた。
なんだよ、あんな女の事を庇いやがって……。

「……あれれー?お姉さん、髪の毛が崩れちゃってるよー?」
「え?」
「あ!髪の中でなんか光ってる!」
「なっ!そんなはずは……はっ‼」

突然、眼鏡のガキがわざとらしい声で、あの女の髪を指差して言った。
はっとして自分の髪を押さえた女の顔が、さあっと青ざめていく。
くそ女め、そんなところに毒針を隠してやがったのかぁ。
女は刑事から再び身体検査のお願いをされている。
顔が真っ青で目は泳ぎまくってる。
これはもう駄目だろうなぁ。
だが仮にも、ザンザスと関係を結んでいた女。
ただで終わるはずはない。

「ち、近付くなぁ!くそっ!こうなったらあんたの事を道連れにして死んでやる!」
「な、何するの!落ち着きなさ……きゃ!」
「佐藤さん!」

女刑事が突き飛ばされる。
軟弱そうな見た目に惑わされたか?
刑事と距離をとったその隙に、女は髪の中から極細の針を抜き取り、それをザンザスに向かって振り上げた。
ザンザスは顔色ひとつ変えず、グラスを傾けている。

「ああああー‼……え?」

勢いよく振り下ろされた針。
それはザンザスに届くことなく、空中で動きを止めた。

「……誰を、道連れにする、だぁ?」
「あ、ああ、あんた何で……いつの間に!」
「覚悟決めろよぉ……。オレのボスを狙ったんだぁ。……ヴァリアーは牢獄まで追い掛けて、てめぇを苦しめる」
「ひっ!」

最後の脅し文句は、イタリア語で囁いた。
効果はてきめんだったらしい。
というか効きすぎた。
女はオレに手近にあったグラスを投げつけると、手を思い切り振り払った。
グラスはどうにか避け、逃げ出そうとした女を追う。
彼女の前には……くそ、すぐ近くにあの茶髪の子がいる。
女の襟を掴むのと、女が針を振り下ろすのとは同時だった。
少女は脚がすくんで動けないようだ。
オレは空いていた右手を、針の前に突き出した。
ぶすっ、と冗談みたいな音が鳴る。
くそ、針は手のひらを貫通している。
女をそのまま引き倒して押さえ付け、刑事を怒鳴って呼ぶ。

「う"ぉい刑事ぃ!このアホを捕まえろぉ!」
「わ、わかってますって!」
「おい、茶髪の……あー、お嬢ちゃん。怪我ねぇかぁ?」
「な、ない……。それより、貴方の怪我は……?あの針、毒が塗ってあったんじゃ……」
「毒なんて効かねぇよ」
「そんなわけないでしょう!蘭ちゃん、悪いけどすぐに救急車呼んでちょうだい!誰か、腕を縛る紐みたいなの持ってない!?」
「は、はい!プレゼント用のリボンならあります!」
「ありがと園子ちゃん!ほら、じっとして‼」
「……お"う」

バタバタと刑事達が動き始める。
あっという間に救急車に乗せられ、ザンザスと一緒に病院に行って、日付が変わる直前になってようやく解放された。
とは言っても、明日の昼までは検査入院だそうだ。
本当に何ともないのに。

「お兄さん、サイボーグか何か?」
「……人間だぞぉ、これでも」

眼鏡にジト目で言われて、目を逸らす。
全部テュールのせいだ。

「その……ありが、とう」
「ん"?」

小さな声が、眼鏡の後ろから聞こえた。
あの時の茶髪の子だ。
恥ずかしそうに顔を伏せて、礼を言っている。

「犯人から助けてくれたから……」
「バーカ、大したことしてねぇよ。ガキはそんなこと気にしねぇで、さっさと帰ってしっかり寝ろ。将来美人さんになれねぇぞぉ」

ぽんっと頭に手を乗せて、さっさと帰れと送り出す。
他の子達は刑事と一緒にいるらしい。
きっと親も心配していることだろう。
二人が出ていくのを見送り、ほうっとため息を吐く。
目の前に座ってたザンザスに、ようやく声をかけた。

「オレのことなんか放っておいて、ホテルに帰って良かったんだぞぉ」
「ふん、今日はオレもここに泊まる」
「……なんでだぁ?」
「看病だ」
「笑えない冗談だなぁ」
「言ってろ」

オレが救急車で運ばれる間も、医者に見てもらってる間も、ザンザスはずっと大人しく、それこそ石像のガーゴイルみたいに側でじっとしていた。
何がしたいんだ?
黙ってじっと見詰めていると、ザンザスは徐に立ち上がって、オレのベッドへ近付いてきた。
腰の横に手を下ろす。
ぎしりとベッドのスプリングが軋んだ。

「オレを守った褒美を、まだやってなかったからな」
「褒美……?っん!」

ちゅっと、啄むようにキスをされる。
褒美ってこれ、ただザンザスがしたいことしてるだけだろ。
……でもまあ、有り難くもらっておく。
一回、二回……。
三回目は、少し深く。
昔より少し伸びた髪を指ですいて、ザンザスの好きなようにやらせた。
唇を離して、目を開ければ、昔から変わらない、深紅の瞳がオレを映している。

「ん……はっ、本当、自分勝手な奴だな……」
「悪いか」
「別に、もう慣れてるしなぁ」
「……嫌だったか?」
「嫌だなんて思ったことない」

狭いってのに、ギシギシとベッドに潜り込んできたザンザスは、機嫌よさげにそのままオレのことを抱き締め、目を閉じた。

「……なあ、何で今日、あの女に好きにさせてたんだよ」
「…………奴が近いと、」
「……?」
「お前が妬いてる顔が見れる」
「……そんな理由かよ」

それだけ言うと、あっという間に眠りに落ちていく。
あー、くそ。
これで許してしまう辺り、オレも本当に甘い。
そしてまさか、外に人がいるなんて思いもせずに、オレもまた眠りについた。




「佐藤さん……その、彼らって男同士じゃ……」
「やあね、あの銀髪の人は女性よ」
「え!?」
「しかも32歳」
「えぇ!?」
「高木刑事、聞こえちゃうわよ」
「オレ達が出てすぐにこんな事になってるなんて……」
「なんだか、格の違いを見せ付けられた気分だわ……」
「お礼、また今度にした方が良いよね……」
「コナンくん達はともかく、あの三人は先に帰してて良かった……かも……」

後日、お礼に来た刑事達の目はひどく生暖かかった。
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