記念企画部屋2
□硝子玉の宝石箱
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ジローが、色のついた硝子玉をコレクションし始めたことがあった。
どうやって手に入れるのかは興味も無かったのでだれも訊かなかった。
多分何かのオマケとか、そんなところだと思うけれど。
「今回は色の無い奴が当たっちゃった。」
ジローのそんな言葉を跡部はもちろん、幼馴染の宍戸も岳人も聞き流した。
鳳だけは律儀に、残念でしたね、と声をかけていたような気もするけれど。
「むぅ〜〜。もういいや。はい滝、あげる!」
たまたま近くに居た俺にそれを渡して、ジローは拗ねて眠った。
「要らなかったけど、反射的に受け取ってしまった以上、捨てるのはなんか悪くて、見せてって後から言うとしてもジローしか居ないから、ロッカーに適当にしまったんだったかな。」
その後もジローの趣味はしばらく続いたけれど、宍戸が正レギュラーから落ちたのを機に、そんなことはどうでもよくなったようだった。
存在自体を忘れていた硝子玉は、気づかぬうちに手荒な衝撃もあったのか、罅は入っていないが、表面にはパッと見でも解る大きな傷がいくつもある。
まあ、これをくれたジロー自身がそんなこと忘れていそうだから、傷ついていたって問題は無いのだけれど。
「綺麗ですね、とも言ってたな。」
鳳は、明らかにいらないモノを押し付けられた俺を気遣ってか本音かは解らないが、これをもらった時に、綺麗ですねと、言った。
今この場所に、宍戸はいない。
綺麗ですねと言ったそれが、本音であろうと優しさであろうと同じことだ。
綺麗ですねと言った、その陽だまりの場所に、立てるのは結局1人。
1人分の陽だまりに、2人は入れない。
それは誰のせいでもないし、俺は宍戸に、その場所をとられた。
それは、事実だ。
けれどあの時、鳳が綺麗ですねと言ったことを、宍戸は多分、聞いていなかった。
綺麗ですねと俺のために言った、その言葉までが奪われたわけじゃない。
今の自分は、中途半端な位置に居る。
正レギュラーではなく、けれど、やりたい、やりたくないに関わらず、準レギュラーとしてやり直すだけの時間は無い。
全国の結果がどうなろうとも、もうじき引退だし、もはや引退までに、準レギュラーが正レギュラーに上がるための対抗試合もなく、『元・正レギュラー』の“仕事”も無い。