記念企画部屋2
□天使ではない僕たちの
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白石には、罪がある。
他の誰も、罪と呼ぶことは無いだろうけれど。
もしも何か1つだけ、人生をやり直せると言われたら、千歳は右目の事故を無かったことにしたいだろう。
同じことを俺が言われて、何かをやり直すチャンスを与えられたなら、俺は、千歳が転校してきた当初の自分をやり直したい。
あの時、健二郎を思って、千歳を受け入れなかった。
あの時、千歳に対して良くない感情を持っていたことに気づかずに居られるほど、千歳は鈍感じゃない。
あの時、部長の俺が、口にしなくても拒絶した。
そのことが、今になって大きな影を落とす。
「千歳、今日、一緒に帰ろう。」
言うと、困ったように微笑う。
嫌というほど見てきた表情。
「大丈夫、慣れとうよ、心配は無か。」
だから独りでいい、と、言外に聞こえた。
冬と呼ぶにはまだ早いけれど、肌寒い季節の空は、色を変えるのが早い。
空にほんのわずかに、夕日の色が混じる。
千歳には、もう見えてないだろうけれど。
今は本来体育の時間だが、天気予報では今日は雨は降らない予定であったために体育教師の予定が狂い、冬も近いこの時期、受験も近い3年生、ならばと自習になった。
1組と2組がまとめて自習なのはそういうわけだ。
確かに時期が時期だけに、自習と言われて雑談をしている者は少なかった。
「「「あーー、踏んだーー!!」」」
不意に聴こえてきたのは、いくつも重なった子供の声。
小学校はもう下校の時間らしい。
姿がここから見えるわけではない。
ただ、遠慮の無い子供達の声がいくつも重なると、意外なほどよく通るものだ。
「水たまり踏んでへんもん。マンホールはセーフやろぉ?」
「えーー、だめやろーー?」
ふふ、千歳が笑う。
愉しげに笑ったと思ったら、瞳だけが一瞬、泣きそうに揺れた。
1拍分だけ目を閉じて、ゆっくりと目を開けて。
「まだ雨降っとうのに、元気でよかね。」
愛しげな声は、諦めと同じ響きで――。