記念企画部屋2

□メビウスの輪をあげる 第2話 3日目
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―――― 今朝のメディカルチェックでも、やはり昨日よりほんの僅かだが、大人の状態に近づきつつあるということだったから、どれくらいかかるのかは解っていないが、兎も角、時間が経てば戻るということは間違いなさそうだ。



広間へ行くと、昨夜頑張って何人かが大まかなスケジュールをたてておいてくれたようだ。

とりあえず今日の午前中は昨日の調理師の希望もあり、何人かは調理師の人と一緒にお菓子作りだ。


風味付けの調味料や酒の、子供逹への適量チェックのため。

実際これを、どうしても『必要』としたのは榊くらいだった。

小学生になっていれば、風味付けの程度のアルコールや刺激物でどうこうなんて殆ど無いし、早乙女や華村は、出てきたものを食べるスタンスで、こんな短期間の間くらい、それほど気にしなかった。

渡邊はというと……。


「たこ焼き食うとったらええやろ。」

でも実はこれ、『正解』だった。

早い話が、調理師には実に味気無く、仕事がいの無いことではあるが、『たこ焼き』の中身を変えていけばいいだけなのだ。

『お饅頭の中身が餡子ならおやつがわりになるし、大きめのものにお肉をつめれば肉まんになって“食事”になる』のとおなじで。


だから、あんまりお菓子作りに興味は無かった。


だけど……。


半ば榊のためだけに行われた菓子作りではあったが、実際に出来上がったものが並び始めると様相がかわった。


「まぁ!美味しそうなケーキ!」

不意にキラキラと瞳を輝かせ出した華村を、監督たちは誰も不思議と思わなかった。


「あー、子供んときってほんま甘いもん好きやってんなぁ。」


本来の渡邊は、砂糖の甘みの強い菓子はそれほど好きではないのに、目の前にあると、とにかく食べたくて仕方なくなる。

「タバコ……。」

もうあまり欲しいとは思わないのが、『自分ではない』としか思えなくて、また違和感が生まれた――。
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