記念企画部屋2

□硝子玉の宝石箱
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氷帝の準レギュラーは、他校生には決して解らない空気がある。

もう少しで200人の頂に手の届くところまで昇りつめた者と、頂点のその場所から落とされ、もう2度と夢見る事の許されない者が同居する。


玉石混交という言葉があるけれど、氷帝の準レギュラーは宝石と硝子玉が混ざっている。


榊監督は、平等に優しいとも言えるが、この場合においては残酷だと言わざるを得ない。


もう正レギュラーになる望みの無い烙印を捺された者を、それでも正レギュラー間近の者と同じ階層に置くのには、ちゃんとした合理的な理由がある。


1度正レギュラーになり、敗けて落とされた者は、いうなれば、宝石の詰め合わせだと思っていた中に硝子玉があったことが発覚して、『もういらない』と上から返品をくらったようなものだ。


いっそ硝子玉など見向きもせずに置いてくれてもいいのだが、榊監督は思う以上に優しく残酷で。



たとえ硝子玉であったことが発覚しても、1度は榊監督をして宝石と判じるほどの上質の硝子玉。


だからそれを、次の宝石の選定に使う。

『この硝子玉よりも上質ならば、本物の宝石だろう』と。



準レギュラーの中で対抗試合の勝率が同じ場合、もちろん正レギュラーがどんな選手の補強を必要としているかで多少流動的にはなるものの、基本的には、正レギュラー経験者に勝っている選手の方を高く評価する。


だから残酷だというのだ。

試合には出してくれない癖に、『氷帝の強さを維持するため』には、正レギュラー落ちをしても、重要な役割を担わされる。

それがあまりにも辛くて、正レギュラーから落ちると3年生であっても引退を待たずに退部することが多いのは、氷帝テニス部なら誰でも知っていることだ。





*******

手の中で、飴玉サイズの透明な硝子玉を転がして、滝は思わず、苦く微笑った。



正レギュラールームから準レギュラーの方に移るためにロッカー整理をしたとき出てきたのだけれど、これが何だったが、どうしてロッカーの中に眠っていたのか、思い出せずにいる。




「……ああ、ジローが集めたんだっけ。」

子供のように気まぐれなジローは、はたから見ると『それ何の意味があるの?』という事に凝りだすことがある。

気まぐれだから、飽きるのも割と早いのだけれど。


「この時は、飽きたわけじゃなかったか。」
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