記念企画部屋2

□子供達の見る夢は
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叶わない未来の話を、なんでもないことのように口にできるのは、子供の特権だろうか?


金太郎は大きな声で、将来は何とかという漫画の主人公みたく、“毒手”も
怖がらない強いヒーローになるらしい。


いやいや、テニスはどうするんだ、と全員が心の中で思った、はずだけれど。


白石がらしくなく、にんまりと口角を上げた。

「ほんなら金ちゃんがヒーローになるまでにこの毒手も強化せんとなぁ。」


今日はノリの日らしい。

ビクッ、と肩を跳ね上げてしがみついてきた小さなヒーローの頭を、千歳はポンポンと撫でた。


「いやん!蔵リンは悪者になっちゃうのネェ。」

ヒーローを怖がらせるなら悪者、ということらしく、小春が言うと、今日はトコトン珍しく、普段乗らない財前が話に乗った。


「てか、この面子やったら、ヒーローっちゅうより、何かの裏組織やろ。」

組織、と聞いて金太郎はキラキラと目を輝かせる。

本当に漫画が大好きなのだ。

「あー、小春の頭の良さやったら悪いことも出来そうやなぁ。」

謙也がカラカラと笑うと当然のようにユウジが声をあげる。


「なんっで小春が犯罪者やねん!!ありえへん!!」

「まぁまぁユウくん。」

「秘密組織っても色々あるやろ。公に出来ん問題解決するとかでええやろ。俺も犯罪はする気ないわ」

「それやったら、表で情報集める面子と裏で動くやつ分けといたら安全やろ。顔割れんし。」

「そうやなぁ。そうやとしたら表は儂と小石川はんと謙也はんやろか。」


四天の誇る常識陣の小石川と師範までがノってしまえば最早止める者は居ない。


気分はどこぞの大国の誇る特殊犯罪処理組織。





「――――で、千歳は?」


「え?」

「え?ってお前な、話聞いとれや。自分は組織のどのポジションがええの?」



「え――?」



思考が固まる。


その瞬間に気づいてしまった。





こんな、一ミリも現実と重ならないような戯れ言の中でさえ、もう自分は、都合よく目の見えている自分を想像出来なくなってること。


だから、皆と一緒に居る自分を、想像出来なくなってる――。




「―――――っ!!」




*******


千歳が何かを言おうとして開きかけた口が紡いだかもしれない音を、聞き取ってやれなかった。


「なんやぁ?千歳ワイらと一緒に居りたないんかぁ?」


固まってしまった千歳に、未来のヒーローが寂しそうに声をかけて覗きこんだ。



黙りこんだだけで金太郎以外の全員が、千歳の突然の変化の理由を悟ったのは、全国大会で橘と試合を控えた時のあの空気に似ていたからだ――。


 
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