記念企画部屋2
□天使ではない僕たちの
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弱くなる資格なんか、無い。
四天宝寺では。
桔平の前でなら、俺はいくらでも弱くなる資格がある。
とり乱そうが泣き叫ぼうが、それはすべて俺の、正当な、当たり前に与えられる権利だろう。
ただそれをしようとは思わないだけで、その権利を自分が持っていることは、最初から知っている。
それと同じように、四天宝寺では、俺は、弱くなる資格は無い。
綺麗でいなくてはいけない。
だって―――。
―――― 雨の音が、聞こえる。
最近、学校にちゃんと登校することにしたのは、勉強のためなんかじゃない。
どうせもう、黒板の字どころか、手元の教科書の字さえ曖昧だ。
学校に来るのは、ここにさえ来れば、皆に会えるからだ。
でも。今日来たのは失敗だったかもしれない。
昼前から降り出した雨が、残された視力の邪魔をする。
こうして学校の中に居る間に、仮に止んでくれたとしても、帰り道の足元は悪いだろう。
天気予報では、曇りとは言っていたが、今日1日は持つだろうと言われていたのに、裏切られてしまった。
「うわ、最悪やーー今日傘持ってきてへんのやけど、俺。」
「あーー俺もや、まあこの程度なら降ってても走って帰ればそんなには問題無いんとちゃうか?」
そんな会話があちこちで異口同音にいくつも。
そういえば、怪我をしてから、走ったことなんて無かねぇ。
そんなことに気づく。
もう2度と、何でも無い道を、全速で走ることは無いのだろう。
雨が降る。
涙雨なんてよく言うけれど、そんなモノはいい迷惑だ。
雨は視界を悪くする。
救いになんてなりやしない。
「千歳、」
*******
「千歳、」
声をかけると、ビクッと肩が跳ねた。
今の千歳は、本当に間近の距離しか見えないし、音にも敏感だ。
理由も事情も解っているから、肩が跳ねたことには触れない。
「ん?なんね白石?」
すぐに返ってきた、いつも通りの微笑み――。