記念企画部屋2
□ひとつの道
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別れて離れ離れになった後、個人的には一切連絡はとらなかった。
けれど、金ちゃんの試合 ―― 当たり前のようにプロになった ―― 九州であり、もうじき金ちゃんが海外に行くかも知れないので当分会えないかもしれないから、というのでわざわざ休暇を取って会いに言ったら、そこに千里が居た。
「え、なんで?だって……、」
「うん、全く、見えてなかよ。」
小さく苦笑して、彼女は言う。
白状、少し外側にずれてしまった、焦点の合わない瞳。
黒髪は伸びて、毛先は胸の下くらいまであるロングになっていた。
他の誰とでも、再会しても驚くことはなかっただろうが、彼女だけは居る筈が無いと思っていた。
「金ちゃんと、連絡とってたん?」
「ううん、妹がテニスやっとるけんね。」
なるほど。
千歳ミユキ選手は、まだプロになって数年だが、注目の集まってきた選手だ。
男女に分かれているとはいえ同じ業界に入れば試合の情報は入る。
だけど、
「来ても……、」
「ん、まあ見えんけど、金ちゃんと少し話せたけん、よかよ。」
千里が見えないのも承知の上で呼んだという金ちゃんの性格に呆れればいのか、初めから無駄だと言わずに呼んだことを感心すべきなのか。
「……白石も、ほんなこつ久し振りたい。10年ぶり?」
ゆったりと千里が微笑んだ、それが再会だった。
*******
同じ九州でとはいえ、熊本ではなかったのに、千里は1人で来たと言った。
そんな話をしている間も、適当に入ったカフェで頼んだモノを、千里は粗相なく飲食していたのだから、驚くほうが間違いなのかもしれないが。
くるり、と、ミルクティーの味を調えるためにカップの中で1度だけそっとスプーンを回して、一口飲んで、微笑う。
優しい色のミルクティーの横には、小さなチーズケーキ。
美味しい、と小さく言ってから、千里は、ありがとうと言った――。