記念企画部屋

□僕達の願い
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新年度が始まり5月に入って、新入生もそろそろ部に馴染んできた頃になっても千歳は全然だった。

馴染めないのではない。馴染むつもりがないのだと判る。
だって千歳は自分からは全くと言っていいほど話しかけてこない。
こちらから話しかけても微笑みが返ってくるか、または金ちゃんには曖昧なことは通じないと悟ったのか、よくて二言程度、返事がある程度だ。


その理由を自分と小石川は知っている。
多分右目のことだ。
仲良くなれば一緒に居る時間は増える。
そうしたら右目のことにも気づかれやすくなる。

だから多分千歳は、自分はずっと異邦人のままでいいと、距離をとっているんだと思う。


見ていて悲しくなった。


結局ほどなく、千歳の目のことは皆に知れたけれど、それからも千歳は変わらなかった。


「千歳はちょっと色々あったさかい、まぁのんびり待ってやろうや」

オサムちゃんはそう苦笑ぎみに言っただけだった。


「千歳ー!たこ焼き食いに行こ」

無邪気に抱きついた金ちゃんの頭をぽんぽんと撫でながら、
「んー、俺はよか。皆と行くとよかよ金ちゃん」

頷くことはない。
その上、千歳の意識の中で、千歳自身は『皆』に入っていないのだ。


「アイツ見とるとイライラする」

不機嫌丸出しで最初にそう口にしたのはユウジだった。

「そんなこと言うもんやないわよユウ君、千歳君は色々抱えとるから、アタシ等の考え方じゃ多分理解しきれんモンもあるんよ」


どんなに頭が良かろうが、しっかりしていようが関係ない。
まだ絶望に似た喪失を知らない自分達が、先にそれを知らされてしまった千歳の心を推し量るなど土台無理な話だ。
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