短編1
□それは小さな太陽のよう
1ページ/4ページ
それは小さな太陽のよう
忍足謙也は、千歳の今までの人生の中に居なかった類いの人物だった。
金太郎の、幼さから来るような無邪気さとは違う、けれど素直で真っ直ぐで、
全然聖人君子みたいじゃないけれど、笑うときも楽しむときも、怒るときもいつも全力で。
この世の不条理を知らないわけでは無いだろうに。
ままならぬこともあると、知らないわけでは無いだろうに。
白石よりも、銀さんよりも、彼が一番、自分に正直に真っ直ぐ生きているように思う。
だから千歳は少しだけ謙也のことが苦手だ。
「千歳ぇ、お前テニス好きやんなぁ?」
問われたのは、6月の終わり。
夏が始まる前のこと。
どういう経緯で二人きりだったのかは覚えていないけれど。
「なしてそぎゃんこつ訊くと?」
「んー。俺はまだお前と会うて3ヶ月足らずやし、クラスも別やしお前のこと詳しないのは自分でも解っとるけど、」
一瞬の躊躇いの後に、謙也は結局思ったままを口にした。
「お前のテニス見とって、ちゅーかお前見とって、楽しそうやって思ったこと無いねんけど……」
*******
ずっと、と言えるほど長い時間じゃないけど、見る度に思ってた。
千歳は楽しそうにテニスをしない。
白石とは違う意味で。
白石の『つまらんテニス』は白石自身が選んでしとることやし、それは試合になるとそういうプレイスタイルになるというだけで、白石はそもそも、テニスボールを打つことに関しては楽しんでいる。
試合ではなくなんとなく打ち合う時や、体育の授業がテニスの時なんかはそれがハッキリと感じられる。
だから、白石が試合で『つまらんテニス』をしても、別に心配せんかった。