短編1

□それは小さな太陽のよう
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それは小さな太陽のよう


忍足謙也は、千歳の今までの人生の中に居なかった類いの人物だった。

金太郎の、幼さから来るような無邪気さとは違う、けれど素直で真っ直ぐで、

全然聖人君子みたいじゃないけれど、笑うときも楽しむときも、怒るときもいつも全力で。


この世の不条理を知らないわけでは無いだろうに。

ままならぬこともあると、知らないわけでは無いだろうに。

白石よりも、銀さんよりも、彼が一番、自分に正直に真っ直ぐ生きているように思う。

だから千歳は少しだけ謙也のことが苦手だ。

「千歳ぇ、お前テニス好きやんなぁ?」

問われたのは、6月の終わり。

夏が始まる前のこと。

どういう経緯で二人きりだったのかは覚えていないけれど。
「なしてそぎゃんこつ訊くと?」

「んー。俺はまだお前と会うて3ヶ月足らずやし、クラスも別やしお前のこと詳しないのは自分でも解っとるけど、」

一瞬の躊躇いの後に、謙也は結局思ったままを口にした。

「お前のテニス見とって、ちゅーかお前見とって、楽しそうやって思ったこと無いねんけど……」




*******

ずっと、と言えるほど長い時間じゃないけど、見る度に思ってた。

千歳は楽しそうにテニスをしない。

白石とは違う意味で。

白石の『つまらんテニス』は白石自身が選んでしとることやし、それは試合になるとそういうプレイスタイルになるというだけで、白石はそもそも、テニスボールを打つことに関しては楽しんでいる。

試合ではなくなんとなく打ち合う時や、体育の授業がテニスの時なんかはそれがハッキリと感じられる。


だから、白石が試合で『つまらんテニス』をしても、別に心配せんかった。
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