もののけ姫

□安寧秩序
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それでも落ち着き寝てくれた事に安心して胸をなでおろす。

「アシタカ様に抱かれ安心して眠れたのですね、私ではまだまだ駄目です。」

少しだけくやしそうに苦笑いを漏らす、勿論本当の母親の代わりなどは出来っこないだろうが
安心感と言うものが無い事が赤ん坊にも伝わり眠ってはくれなかった。あやす事は出来ても
何か起きた時に焦ってしまいどっしりと構える事がまだ出来ていなかった。

「いや、ただ泣き疲れただけかもしれない。私もこういった事は不慣れだ。」

眠った赤ん坊を起こさないように環境庁長官が受け取り静かに縁側に腰を下ろす、
座った事でまた泣きだしたら手に付けられないがどうやらそれは無く眠っている。
隣に座るアシタカも安心した様子で見守る、すっかり穏やかな午後にかわり
一定の早さで軽く赤ん坊の背中を叩きながら濡れた頬を袖で優しく拭う。

「赤ん坊は何て愛らしいのでしょうね、他の人の子でもこんなに愛らしいのなら
愛する人との自分の子はさぞかし愛しい宝物でしょう。」

ついつい小さい赤ん坊を見ていると少し先の未来の姿を思い浮かべてしまう、
眠っている姿は起きている時とはまた違い可愛らしさに目を細めて微笑む。
こう言うのを母性本能が刺激させられているのだろうか。

「嫁ぎたいのか?」

未来の赤子をぼんやりと手に抱く赤ん坊に移し見ているとアシタカは少し真面目な顔で
問うてきた。この年の娘なら嫁に行きたいと思っていてもおかしくなく環境庁長官もその中の1人
今の年齢で恋仲すらいないのだからそうそうとは嫁ぐ事もないだろう、もしくはどこぞの殿方に
見初められれば早々と夫婦になれどそんなものは怪しいものである。ただの村娘が懸想されるなど
滅多にあるとも思えずまだ先の話し。

「え?・・・それは、勿論ですよ。しかし生憎そのようなお方はおられませんから
まだ先の話しでしょうね。でもいつかは私も知らない殿方と夫婦になると思うと不思議な感覚です。」

「知らぬ者の元に嫁ぐのか。」

「それは・・・決まってはおりませんけど、もしかしたら顔見知りかも知れませんし
全く知らぬお方かもと言う意味で。」

そうかとアシタカは釈然としない面持ちでまた赤子に目を向けた。随分と可笑しな事を
聞くものだと思った、そんなものは誰も分からず誰もがそう言うものではないだろうか。

「アシタカ様だって、いずれは誰かと家庭を築くのでしょう?」

「今はまだ分からない、まずはこの里の復興させる事が優先だ。」

いつも自分の事になるとどこか軽くかわされる気がする。本人はそんなつもりがあるかは
知らないが他人を優先させるアシタカだからそう言った答えが返って来る事は何となく分かって
いても何処かずるいなと環境庁長官は口に出さないがクスリと小さく笑う。

少し前の森との争いを思い出すと死の呪いの痣を消そうと奮闘していた時には到底味わえない
今こうしたまどろみながら昼の日に照らされ赤ん坊をあやしながら隣にはアシタカが座っていると
まるで3人が夫婦のようで照れ臭くもこうしていられる事に幸せにほほ笑む。
2人がこうして一緒にいられるのはいつまで続くかは分からずもこのままこの時が
何事も無く穏やかに続いてくれたらと少しだけ瞳を伏せる。

「何だかとても幸せです、このままいつまでも・・・何て考えてしまって。」

どことなく照れながら照れ隠しで笑って見せる。

「あぁ、私も思う。変わらないものは無いが変わって行く事は悪い事ではない。
いつまでも、これからも、共に居よう。」

「えぇ、勿論です。」

お互いに少しほほ笑みながら頷いた、時間の許す限り傍にと。不意にアシタカは赤ん坊に謡っていた
子守唄を聞かせてほしいと言われると気恥ずかしく困ったがいつの間にか起きていた赤ん坊は
ぐずらずに黙って顔を見つめていた為にあやすつもりで謡えば恥ずかしくないだろうと断る事も
出来ないので頷いた。風に歌声を乗せながら謡う、通りかかる人達も微笑ましく笑いかける
赤ん坊を迎えに来たサエに若い夫婦のようだとちゃかされると顔を赤らめ猛抗議する娘の姿。
穏やかな日々は優しく時を刻みながら流れて行く。
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