もののけ姫

□酔眼朦朧
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後半は理不尽な事を言っているが言っている本人も周りの者も酔いが回りその事には気付く事無く
飲めとはやし立てる。酔っている人の言葉を真に受ける訳ではないがそう言われてしまえば
何となくそんな気までしてくるから素面での酒の席は厄介で感覚が麻痺してしまう、
そこまで言われ少しばかり口惜しくも思い気が付けば置いてあった枡を勢いよく掴み煽った。

「分かりました、こんなの匂いがきついだけで水と変わりませんよ!」

一気に煽った直後に今まで感じた事のない強烈な喉越しに気が遠くなりそうになったが
喉に引っ掛かる感覚に背中を丸めてその場で激しく咳き込んだ。

「この子ったら馬鹿だねぇ〜少しずつ飲まなきゃ駄目じゃないさっ。」

今まで酒を飲む様な機会がある事もなかったので水のように飲めば全く違う感覚に味もなにも
感じる事が出来なくあげくにトキ達には大笑いされてしまう破目になっていた。ひぃひぃ言いながら
背中を擦ってもらい咳が治まると何となく頭がふらふらするような感覚になり徐々にだったが
ふわふわとした感じに気分が良くなって行くように思えた。

「美味しいとか・・・は、分からない。」

落ち着きまた一口お酒を飲めば強い味がする気がしたが皆が言う味や風味、美味しいと言う
感覚までは分からず枡を同じ場所に戻すとさっきまでは他の者達が騒ぐ騒音が全て耳に
入って来ていたのに今では自分が集中する事しか聞こえずまるで自分の世界に入ったような状況だった。
すくっと立ち上がり何処かに小走りで駆けて行く環境庁長官にどうしたのか声をかけるトキに
振り返る事も無く一直線にアシタカの共まで行ってしまう。

「アシタカもう一献どうだ、そなたの協力でここまで順調に来られた事を感謝している。」

「待って下さいエボシ殿、アシタカ様には私がつぎます。」

アシタカの杯に注ごうとしていたエボシの銚子をひょっこりと突然出て来た環境庁長官に止められ
何処から取って来たのか銚子を差し出した。隣に座っていたゴンザがエボシが注ごうとしていたのに
横槍を入れた事に怒鳴り声を上げる。

「貴様!エボシ様が勧めたのに後から割って入るとは無礼ではないかっ!」

「無礼?ゴンザさんったら今日は無礼講ですよ!ねぇ?あははははっ!」

突然何でも無い事でお腹を抱える程に笑い出した姿にいつもと違う事にアシタカ並びにエボシ
ゴンザが気付いた、普段なら気を配り邪魔をする事もないが今日はどうやら違うとゴンザは
怒鳴る事を止めて面食らったような顔で凝視する。

「もしや酔っているのか?」

「飲ませたのはトキ達だね、まったく。」

遠くから此方を窺っていたトキ達はばれたと言う顔で手を合わせているのが見えエボシは困った
者達だと薄っすらと笑みを浮かべ酒を煽った。楽しそうにけらけらと笑っていたと思えば突然
見るから分かる程に落胆し大きな溜息をついた環境庁長官にエボシはどこか楽しそうにこのまま酒の席に
いさせていいものかと考えていたアシタカに声をかけた。

「どうしたものか、しかしアシタカ今ならこの者の愚痴が聞けるかも知れぬぞ。
文句も言わずに内に溜まったものを吐き出させてやれるのはこんな時ぐらいだろう。」

「ちげぇね、無鉄砲の旦那の不満が聞けるかもしれねぇな!」

そりゃねぇかと頭が甲六の背中をばしばしと叩きながら言った、エボシの言う通り
今ならこうも落ち込んでいる理由を聞く事が出来るかも知れないが酒の力を借りて
言わせてしまうのは少々納得いく事ではなかったのだ、不満や言いたい事が胸の内に溜まって
苦しんでいるのなら酔っている時に吐き出させるのではなく正気の時にしっかりと聞いてやりたいと
悩んでいたが頭の言葉で心を決める。アシタカへの不満なら正気の時に話してはくれないと
確信があった為に改善できるのは今しかないだろうと持っていた杯を置き環境庁長官と向かい合うように座る。

「どうした?何か話したい事があるなら聞かせてはくれないか?」

「・・・、嫌です。」

「やはり、私の事か?ならば尚更聞かせてもらいたい、意に満たない事があれば改めたいのだ。」

アシタカをどこか拗ねているような目で睨み話す事を拒んでいたが話してほしいと真っ直ぐな
眼差しは真剣で拗ねる小さな子供が親に問い質されているようで段々と話さなくてはいけない
心境に変わって行くのは酒とアシタカの問い掛け方がうまいからか。
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