もののけ姫

□一陽来復
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暗かった空はいつの間にか夜が明け日が森の中を照らしている。するともののけ姫は
おいしげる樹が途絶えた場所で足を止めた、ふらふらとする足を走らせると泉の前に出る。
まるでその場所だけが何かは良く分からないが空気が違い恐ろしく澄んでいるように肌で感じる、
ゆっくりと周りを見渡すと青々とした光景の片隅に横たわるあの夜のままの姿のアシタカを見つけた。

「・・・アシタカ・・・様っ!」

悲鳴のような詰まる声で名を呼び駆け寄ると直ぐ横でしゃがみ見るがアシタカは瞳を瞑ったまま
微動だにしない姿があの夜と重なり眉をひそめた、それでももののけ姫の言っていた事は
本当だったらしく良く見れば微かに呼吸をしている事に気付いた。腹部に空いていた風穴も
着物には名残が残っていたが完全に塞がっているようだ、しかし死人のように眠っている
アシタカに胸締め付けられ不安な思いは消えない。

「・・・どうして、貴女は私を連れて来てくれたの・・・?」

やっと話しがまともに出来る場所に出られてずっと気になっていた事を少し振り返り答えるかは
分からなかったが不機嫌そうに立っているもののけ姫に尋ねると無表情でどこかに目線を置くと
ヤックルがもののけ姫に近寄って来た。その時初めてその場にヤックルが居た事に環境庁長官は気付いた
アシタカしか見えていなかった為にずっと傍にいたヤックルに気付く事が出来なかったが
人見知りのあるヤックルがもののけ姫に懐いている事にも驚く。

「・・・ヤックルがお前の事を心配していた、だから仕方なくだ。」

「ヤックルが・・・?」

自然や獣にしか見せない心開く顔を見せながらもののけ姫はヤックルを撫でながら話した。
色んな事が起きて自分の事しか見えていなく1人で塞ぎ込んで泣いてばかりの最後の姿の環境庁長官を
去り際に見ていたヤックルはこのシシ神の森に来てからも気が気ではないと言った様子で
落ち着きがなかった為にもののけ姫が嫌々安心させる為に連れて来たようだ。
そんな友の想いも知らずにただ1人で悲しんでいると思い込んでいたと気付き
悲しんでいるのはヤックルも同じだった、それでも環境庁長官の事を忘れてはいなかった。

「・・・ごめんね、ありがとう。」

ここにヤックルがいなければ連れて来てもらう事もアシタカが生きている事も知らずに
悲観的に生きているかも死んでいるかも分からないまま過ぎでいただろう。

片手をヤックルに優しく差し出すとゆっくり近づいて来る、顔を少し手の平に押し付ける
喉の奥で音を鳴らしている姿が愛おしく優しく感謝の気持ちを込めてヤックルの頭を抱きしめた。

「・・・あれ、あの子は・・・?」

不意に周りを見渡すとそこにはもののけ姫の姿がいつの間にか消えていた、置いて行かれたのか
なにか用事でもあったのかは分からずも少しだけ居なくなってしまった事に淋しさを感じた。

眠っているアシタカに目を向けた、いつ起きるか分からないが生きていると言う事実だけが
喜びを感じさせてくれる。このまま数日目を覚まさないかもしれないが疲れきっている体でも
目を覚まして名前を呼んでくれるまでいつまでも傍にいて待とうと思う。その後どうなるかは
分からない、不意に思い起こすのはエボシが言ったあの言葉。何の根拠もない言い伝えのような
あやふやな話しを思い出してしまう。

森の中には日が差し込み朝露が木々の葉に粒を付けきらきらと宝石のように輝く、
何て美しい森なのだろうと感じるが今は気持は晴々とはならない。隣で膝を抱えて
腕の中に顔を伏せている環境庁長官は疲れ切った体を休ませる、気の葉から水滴がぽつぽつと
落ちて来るが疲れのせいか気に止める事もなく正面に広がる泉を眺めていると
眠ったままのアシタカの上にも水滴が降って来るとひんやりとした冷たさに静かに瞳を開いた。

アシタカはぼんやりとする頭で撃たれた傷口に無意識に手を伸ばし触れた。
だが触れて見ても痛みを感じる事も無く指先手で腹部の風穴を探るが衣には穴が開いている事が
分かったがその下の肌には外傷が無かった。

「・・・はっ、傷が無い。」

傷口がふさがっていた事に驚いたアシタカはばっと体を起こすが仮死状態だった体には辛く
酷いめまいに襲われまた同じ位置に横たわる。

「アシタカ様・・・?アシタカ様ぁ!」

不意に聞こえた懐かしい声に伏せていた顔を上げた、少し覗き込むように見下ろすと
意識が遠のくのを引き止める呼ぶ声にまた一度目を覚ます。差し込む光を背にしぼやける視界に
見えて来たのは目元を赤く腫らしている顔で見つめている表情は今にでも泣いてしまいそうな
最期に見た環境庁長官の姿だった。まるであの日を再現されているような感覚を覚える。
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