もののけ姫

□生者必滅
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大きな御殿がそびえる前は広場で人々はかがり火を灯しどこから来るか分からないもののけ姫の
奇襲に備え女であろうと薙刀を手にし警戒しながら目を配っている。アシタカが屋根の上にのぼり
行ってしまった後に環境庁長官は他の者が御殿の方に集まって行くのを見てその流れに足を向けて行く
すでにそこは大勢の人の壁ができていた、前に出ようと思ってもこの人壁は厚くそう簡単には
割って入る事が出来ないだろう。すると人の隙間から見えたのは何処からか出て来たエボシの
姿だった、その後ろには2人の女が石火矢を手に持ち荒ぶる気持ちを抑えているように険しい顔で
立っている。広場の中心にくると足を止めた。

「もののけ姫!聞こえるか、私はここにいるぞっ」

命を狙われている事を自覚している筈のエボシが室に隠れる事もしないで堂々と姿を現し
存在を知らせる為に声を張り上げどこに潜んでいるか分からないもののけ姫に語りかけた。

「お前が一族の仇を討とうというなら、こちらにも山犬に食い殺された
夫の無念を晴らそうと心に決めた者達がいる。」

「出ておいで、今夜こそけりをつけてやるっ!」

怨んでいるような気持ちがこもる声で女は手に持つ石火矢を握り締めこの時を待っていたと
言うように叫んだ。声をかけた事で敵が何らかの行動を見せるのではないかとその場にいる
者達はあちらこちらに目を向けどこにいるのかを見つけようとしている、御殿からでる
白い煙に交じり何か別のものが揺らめくのを見つけた。屋根の上にスッと立つのはもののけ姫
姿を現した相手にその場はざわめきが波紋のように広がって行く、一気に慌ただしくなり
殺気立つ人々にピリピリと空気は緊迫する。

「前をあけろっ、流れ弾に当たるぞ!」

混雑する中でもののけ姫がいる方向の道をあけろと声が飛び交う、人々は目を離す事はしないで
端に寄って場所を開ける。他の屋根の上には石火矢衆が弾の届く距離に着くと身を低くして構えている
その狙う先はもののけ姫、姿を見せた時から死の螺旋が作られていたが真っ直ぐにエボシだけを
見下ろしているもののけ姫は気付いていない。

「・・・罠だ。やめろー!山犬の姫っ、森へ帰れ!みすみす死ぬな!!退くも勇気だ!森へ帰れ!!」

石火矢衆の影に気付いたアシタカは誘き寄せて石火矢を喰らわすエボシの策略だと気付く。
同じ屋根の上にいるがまだ距離があるアシタカは立ち上がりもののけ姫に声を張り上げ
この場所から身を引くように叫んだが聞こえている筈の相手は何の反応も見せる事は無かった。
始めから聞く耳など持っていないもののけ姫は仮面で顔を隠しているが纏っても隠しきれない
殺意だけが揺るぐ事がないことを示している。アシタカの行動に怪しんでいた者達が一層に
疑いの目を向けた、もののけを敵とするタタラで今の状況で庇うような振る舞いをする事に
共感などは得る事など無い。人の波の隙間から見つめるのはアシタカの姿、小さく名を呟く。

《ワォーーーーーーーン・・・》

漆黒の闇の中どこからか遠吠えが耳に届く。それが合図だったかのようにもののけ姫は短剣を構えて
一直線に屋根を駆け下りて走って行く、止めようとアシタカはもののけ姫の方に走るが
突然もののけ姫が駆けていた場所は破裂する待機していた石火矢衆の鉛が放たれた、砕け散る
屋根の残骸に一瞬足を止め前に構えた腕に木の破片が刺さるが直ぐに抜き取りもののけ姫の姿を探す
体を丸めて屋根の上を転がって行く。その事に歓声が上がり討ち取ろうともののけ姫の方に
駆け出そうとするがエボシがそれを止めた。

「やった、落ちるぞっ!」

「動くな。首だけになっても食らいつくのが山犬だ。」

落ちた所を狙うように石火矢を構える女2人にエボシが言う、意識が定まっていない
もののけ姫は屋根の上から転げ落ち両手両足で地に着地をするがふら付くように立ち上がる。

「放て!」

意識朦朧だったもののけ姫は1つの弾が仮面に当たり後ろに飛び倒れた、だが気を失っただけで
死んではいないが直ぐに起き上らなければこのまま命を落としてしまうだろう。歓声を上げて
武器片手にかけて行くタタラ者が近付く、するとアシタカは屋根の柱の一部を剥ぎ取り
真上に構えて殺そうと近付く者達の前に足を止めさせる為に投げ捨てた。

「動くなぁ!!」

柱は置いてあった篝火に突き刺さり火花と一緒に砕け散る、そのせいで男達は足を取られ止まった。
直ぐに屋根の上から降りて来たアシタカは躊躇うことなく気を失っているもののけ姫の肩を掴み
揺すり起こそうと声をかけた。

「しっかりしろ。」
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