もののけ姫

□不易流行
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「息がある・・・しっかりしろっ」

持っていた弓を首から下げてその男を掴むと陸に引き上げる。

「その者の手当を任せたい、もう一人連れて来る。」

「はいっ」

仰向けに寝かせて他にも見つけた人を助けに川の中央に落ちる岩の間に向かう。
そんな所にも人がいる事に気付けた事に驚いている暇なく環境庁長官はヤックルの腰に下げている
荷物から薬箱と布を取り出す、こんな所ではまともな手当は出来ないが即席で手当をするしかない
最初に引き上げた男は片腕と片足が折れているようだ、その他は切り傷ばかりでたいした事は無い
竹筒に入っている水で傷の汚れを流し薬を付ける。近くに転がっている木を拾い集め腕と足を
補強する為布で巻いていく。

もう1人をアシタカは担ぎ連れて来ると並べて寝かす、するとヤックルの耳が動く
アシタカはヤックルと同じ方を向くと何かの音を聞き取った。覆面を被ると何も気付いていない
環境庁長官にここで待っているように言うと何かの音の方へと耳を傾けながら音を辿る。

無雑作に積み上げられる大きな岩を超えながら向かうと倒れる大きな大木を横切った時
何かに気付き足を止めて根の間から目を凝らしていると川を挟んだ先の川辺に白い
大きな毛むくじゃらの塊が見えた。すると草むらから普通の野生の狼とは比べる事も出来ない
大きな山犬が姿を現した、おずおずと言った様子で毛むくじゃらの塊に近付く2匹の山犬と背に乗る
人間の姿。近付くと起き上ったのは2匹の山犬よりも大きな二股の山犬だった、何やら良く見ると
首から血が流れている白い毛で赤い血が鮮明に映る、どうやら山犬と来たその少女も気付いたのか
山犬の傷から血を吸いだしては吐き出し何度も繰り返す毒抜きのようだ、山犬は痛みに低い声で唸る。

すると怪我を負っている山犬の唸り方が変わった。牙をむき威嚇するように身を潜めて
遠く離れた所にいたアシタカの方を見ていた、山犬の様子に気付いた少女はばっと振り返った。
アシタカを睨みながら立ち上がり血を吐き出すと両手と口は血で真っ赤になる口を手の甲で拭う。
すでに気付かれているのならこれ以上身を隠しても意味無いと動揺する事も無く木の上に
立ち上がり覆面を取った。

「わが名はアシタカ!
東の果てよりこの地へ来た、そなた達はシシ神の森に住むと聞く古い神かっ」

遠くまで響くような通る声で恐れなど無く獣と少女に問いかける、だが睨み合ったまま
少女は何も答えようとはしなかった。警戒をしているのだろうか膠着状態のように押し黙った
ままだったが倒れていた山犬が静かに立ち上がり山の方に歩き出す。後を追うように動き出して
少女はまた山犬の背に跨る。

「去れ!」

たった一言言うと姿を森の中に隠してしまった。少し唖然とアシタカは何も言わず見送る、
何も答えてはくれなかった、最初の手掛かりはあっさりとどこかに行って終わった。

「ひぁぁぁぁああっ!?」

すると、先程いた場所から男のどこか貧弱そうな情けない悲鳴が聞こえた。
助かった者が意識を取り戻したのだろうが突然の叫び声にアシタカは急いで駆け戻る、
男の悲鳴に交じり微かに環境庁長官の悲鳴も聞こえていた。

起きたのは腕と足が折れている最初に見つけた男の方だった、折れた腕をだらんと力が入らなく
引き摺り立ち上がる事も出来ず何かに怯えているようにその場から逃げようとバタついている。
少しバクバクとなる心臓を押さえるように片手置き腰を抜かす環境庁長官、直ぐに戻って来た
アシタカが何があったか尋ねると少し苦笑いで見つめる先を指さす。

「コダマ・・・?ここにもコダマがいるのか」

そこには石の上にちょこんと座り微動だにしないで人間を観察しているように見つめる
小さい姿の白く光るコダマと呼ばれる聖霊。男は怯えた様子で抜ける息はあっあっと怖がっている
アシタカはその男に近付きしゃがんで静かに声をかけた。

「静かに、動くと傷に障るぞ。」

コダマは頭を回すように動かすとカタカタと音をたてる、歯の根が合っていない様に
怯える男は周りを見渡し警戒している様子だ。

「好きにさせておけば悪さはしない、森が豊かな印だ。」

「コイツ等シシ神を呼ぶんだっ」
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