もののけ姫

□有為転変
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「アシタカ様ー!」

「はっ、環境庁長官!駄目だ、来るな!逃げろ!!」

駆けて来る姿を目にしたアシタカは慌てたように声を上げた。何がどうしたのか分からず
足を止めてその場に立ち止まった。何かただならぬ様子にざわつく気持ちは直ぐに凍りつくほどの
度肝を抜かれる異形の姿のナニかがアシタカの後ろから大きな姿を現した。アシタカはその何かの前を
走り村を襲おうと駆けおりる化け物の前に出て制止させようとしていた。

「あっ・・・!?」

驚きの声を微かに上げた環境庁長官に赤黒い無数の邪蛇がうごめく生物が気付いた。真っ直ぐに里に向かっていた
体を六つの足を使い方向転換する、黒い塊は環境庁長官の方に向かって来る。そのモノが這った後は草は変色し
腐って何処を這って来たのかひと目で分かるほどに簡明だった。カタカタと震える体、
物凄い勢いで迫っているのに気付き直ぐに駆け出す。混乱した頭で里の方に戻った方がいいのか
逃げながら考えるがそうすれば自分を追っている黒い者が里に下りて襲うだろうと里とは反対方向に走る。

「いけない!止まれ!やめろ!」

方向転換したモノをすかさず追いかけ立ち周り前に出て静めようと声をかけるが何も聞こえていない
ようにただ前の人間を襲おうとしていた。

どんなに走ろうとも段々と距離は無くなっていく、坂になっている丘を駆け上がるのは体力が
削られ息は苦しそうに切れていった。肩で息をしているように荒くなる、足は徐々に速さを衰え
少しだけふら付くとその足に縺れ倒れてしまった。もうとてもじゃないが立ち上がりまた走る事は
体が出来なかった体を鍛えていた訳ではない環境庁長官はもう走る事が出来ず向かってくる異形の姿の塊に
覚悟を決めた。

「くっ・・・!もう・・・」

強く瞳を閉じた時、キリキリッと弓を引く音が鳴った。少し目を開き振り返るとアシタカが
黒い塊の方を向きヤックルに騎乗したまま弓を引き赤い目を狙う、矢を放つと片目に命中させた。

《キュィィイイイイイッ!!!》

獣の叫ぶ声を甲高く響かせた。

黒い塊は撃たれた激痛に立ち止まりもごもごと動く邪蛇は針鼠のように毛を逆立てたような
動きをして悶絶しているのか一度動かなくなるがヤックルに乗ったまま近付いたアシタカが来ると
無数に伸びる黒い帯がいっせいに襲う、まだ動いている事に気付いたアシタカは直ぐにそれから
離れるが自由自在に伸縮する赤黒いモノに右腕を掴まれた。その光景に環境庁長官は口を押さえ絶句する、
腕を掴んだモノはまとわり付き取り込もうとした。アシタカはそのモノを引き千切り直ぐに
弓を構えて往復し黒い塊のモノに見定める。

一度射抜かれた影響か、身に纏わり付いていたヌメヌメとした物体が剥がれ落ち
そこにいたのは大きな体のイノシシだった、名のあるどこかの森の主猪神。

右腕に猪神から受けた物体を付けたまま矢を放ち再度に渡り猪の左目を射抜いた。
先程よりも大きな悲鳴を上げアシタカを捕えようとする物体が後を付きまとい背中の矢袋に手をかけ
狙うが追って来ていた物体は力尽きたかのように地に落ちる。

猪神も立ったまま動かなくなり体中の赤黒い物体はドロドロと溶けだした。

「あ・・・アシタカ様っ!」

様子がおかしい事に気付いた環境庁長官は少しだけ息切れが治りアシタカの元に駆け出す。
持っていた矢は手から落ちて野に刺さる、腕は溶かしてでもいるかのように黒い瘴気を放ち
ドロドロと溶け落ちる。全て溶け落ちると猪神はゆっくりと横たわり足が地から離れると大きな体は
重力で地にこだまする音をたてた。

猪神が倒れると里の者達が駆け寄って来る。

「くっ・・・!」

「何これ・・・怪我じゃない・・・?」

ヤックルから崩れるように降りたアシタカは苦しそうに腕を押さえている。
掴まれた所を見るとそれはただの傷ではなかった、今までに見た事がないような症状
赤くなり火傷でもしたような見た目だった。とりあえず、このまま何かがへばり付いた布を
肌に付けていてはいけないと野の土を被せ脆くなっていた布を剥がす。

「皆それ以上近付いてはならぬぞっ」
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