もののけ姫

□隔靴掻痒
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「遊び?」

珍しく周りには村人は居なく一人で鍬を振りかざし畑を耕しているアシタカを見つけた。

少しだけ躊躇するがいつものように声をかけるとアシタカは手を止めてくれる、話を聞いてくれる姿勢に安堵した環境庁長官はある提案を口にした。

「と、言っても本当にちょっとした物です。外してしまったらひとつだけ言うことに従う・・・と、言うものです。」

環境庁長官は足元に落ちているなんの変哲もない小石を拾い上げ両手を前に差し出し手の平を見えやすいように広げる。

「この小石を左右どちらかの手の内に隠します。」

「それを私が当てると言う事か。」

「はい。」

心臓の音を押さえるように手の内に小石を握り込めて胸に押し当てる。

こんなくだらない事に付き合うだろうかと言う不安から手に力が入る、そんな不安とは裏腹にアシタカは顔色ひとつ変えずに頷く。

「わかった。」

その一言に花が咲くように顔がほころぶ。

「でっ、では。隠しますね。」

浮き足立つ、なにも疑うこともないだろうアシタカから見えないように両手を背の方に回してどちらかに隠す真似をする。

見えないようにそっと手を緩ませると小石は環境庁長官の後ろに落下する。

「!」

転がる小さな音に気が付いたアシタカは目線を彼女の足元に向けると持っていた小石が落とされている事に気が付く。

「さぁ!どちらでしょう?」

気付いているとはつゆ知らず謀っている気でいる環境庁長官は、にこにこと笑いながら何もないであろう握り拳を差し出す。

そんな様子にアシタカはふっと微笑んだ。

「ふむ、そうだな。左手でどうだろう。」

知らない振りをしてアシタカは口元に手を当て考える素振りを見せる、そして左手に小石が握られていると言ってみる。

「残念です!アシタカ様こちらではありませんでした!外れですっ。」

勿論、捨ててしまった手の内には小石が握られていることはない。

得意気に選ばれた左手を開いて見せる。

「外してしまったか。では、約束通り私は従わなくてはならないな、何をすればいい?」

何を企んでいるかは知らないがこんな事までして来たことに微笑ましく感じて優しく問い掛ける。

その問い掛けに少しだけもじもじと言いにくそうに口ごもりながらもひと息付いてアシタカに意を決して視線を合わす。

「アシタカ様に、城下まで付き添って頂きたいのですっ!」

その言葉に少しだけ意外そうにするアシタカ。

「城下に?」

この事を思い付いたのもつい先ほどの事だった。何かひとつだけ願いを叶えてくれるとなるとなかなか決まらず今朝の事を思い出し考えなしに口にしていた。

アシタカと話がしたいだけでは変に思われるだろう、山を越えた城下までの道すがら話すことも出きるだろうと考え付く。

「いつもの方々はお忙しいそうで今回は諦めようかと考えておりましたが、アシタカ様がよろしければと・・・。」

「そうだったか。約束だ、私が送ろう。実を言えば頭達に暇を貰ったのだ、都合が良かった。」

そんな事があったのか、環境庁長官もだがアシタカまでこんなに見計らったように休みをくれたり、送迎を辞退したりと都合が合うこともあるのかと感心してしまう。

不意に昨日のトキが不敵に微笑む姿が浮かぶ。

もしかするとこの状況はトキが企てた事なのではと察しが付く。心の中で有難いと手を合わせて感謝をする。

「ありがとうございますっ。」



そんなやり取りをして翌日に城下に向かう支度を整え、二人はエボシのところを寄り出掛ける事を伝える。

既に聞いているよと話すエボシにアシタカは少しだけ疑問に思ったが報告をしたのはおそらくトキが手を回すことを伝えてあったのだろう。

その後二人はなんの問題もなく山を越えて城下に着いたのだった。

「町まで送ることはあったが、通りを行く事は無かったな。」

賑やかな町の通りを歩きながらアシタカは思い出したように話す。何度か町の入り口までは来たことがあった、活気があるとは思っていたが実際歩くのとは違いを感じる。

「そうでしたね!私は何度も通っていますのでここの事はお任せください。」

「あぁ、案内を頼もう。」

楽しそうに横を歩く環境庁長官に付き添ってきて良かったとアシタカは微笑みを見せた。
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