ゼルダの伝説

□ムジュラの仮面
1ページ/2ページ

クロックタウンの西にあるカーブする緩やかな坂には転々と店が綱なった通りに
雑貨屋の前で窓の外から店の中を覗いている町娘の司令官の姿があった。中には入ろうとせず
店員の姿が店のオーナーだと分かると残念そうに溜息を漏らす、ピンク色の耳あてニット帽を
深く被るように引っ張る。雑貨屋は日用品から心惹かれる素敵な小物まで取り扱うので若い子から
支持はあるものの年に一度の刻のカーニバルが近付くにつれて遠い地方からの観光客で
売り上げも上がるが今はまだカーニバルが行われる日まではひと月有余があり人々はまだ疎らだ。
クロックタウンでは若者も多い方でも無く雑貨屋に行く面々は殆んど決まっていたが
その娘は雑貨屋で夜だけ働いているバイトくんに恋をしてしまい店に行け無くなってしまった。

「やっぱり・・・夕方じゃまだ来てないんだ。」

意識してしまった日から大好きだったお店に入る事も出来ず、恋をした相手に話す事も
会う事も出来なくなっていた。会いたいけど会いたくないと言う恋心にほだされては
あの人は今日は来ているのかとついつい店の外から覗いていた。

娘がクロックタウンに移住して来てからまだ1年も経ってはいなかった、働く所を見つけ
僅かばかりの貯金でアパートを借りて暮らしていた。今では安定した暮らしができ
そんな時仕事の帰りに寄った雑貨屋でバイトくんを知る、その日もお店の中を周りながら
商品を見ていると棚に気になった小物が目に入り手を伸ばしたが高い棚に乗っていたので
中々手が届かなかった、そんな時に隣から手が伸びる。司令官が取ろうとしていたもう一つ上の棚から
帽子が取られるとその商品を司令官に差し出した「どうぞ。」ただそれだけの事だったが
渡されたピンク色の耳あてニット帽を握り締め胸は激しく高鳴っていた。

(きっとあの人はあんな些細な事覚えていないだろう)

夜の買い物も幾度もあったがその時にバイトくんの存在に初めて気付き意識したのだから
相手はお客の1人としか認識ていないだろうしもう自分の事なんて忘れているだろう。
見たかった小物の事も忘れて渡された帽子を買って帰ったその日からニット帽は大切な
宝物になり四六時中家以外は絶対に被っている。

顔を見る事が出来なかった事にうな垂れながら仕事場に向かった、クロックタウンにある
クロックレストランは唯一あるレストラン。裏口から小さなバックルームに荷物を置き
私服の上からエプロンを付けただけの格好でジャガイモの皮むきや雑用をこなす。

従業員の数も少なくたまに料理も作ったりするが主に裏仕事をしていた、いつものように
木箱に座り黙々と皮むきをしながら厨房から店内に不意に目を向けると雑貨屋のバイトくんの
姿を見つけた。自分が働いているお店に食べに来ていたのかと言う喜びが胸を高鳴らせ
手元がおろそかになってしまい果物ナイフで指を切ってしまう。

「ぃたっ。」

「何やってんだ!さっさと洗って来いっ。」

「はい、すみません!」

オーナーにどやされて血の流れる指を強く押さえて裏口のすぐ近くにある外の井戸まで走った。
折角お店に来ていたのに不注意で怪我をして戻った頃にはもう帰ってしまっているだろうと
大きく溜息を吐きだした、今日は不運続きだと桶の中に手首まで浸けて止まらない血を眺めていた。

「・・・あ。」

後ろから聞こえた声に振り返って見るとそこには紙袋を持ったバイトくんの姿。
周りに人なんていなく真っ直ぐにこちらに近付いて来る事にバクバクと心臓は鼓動し
顔まで熱がたまって行く事が分かる。

「手、怪我したの?店長に頼まれたやつだけど・・・まぁ、いっかな。これ使って。」

「ぁ・・・ぃや!そっそんな、このくらい大丈夫です!」

持っていた紙袋から薬と包帯を取り出した、しかしそれは雑貨屋の店長がバイトくんに頼んだ
買い物の品と分かり緊張してうまく喋れなかったが断る。

「頼まれモンだけど怪我してるなら今使わなかったら意味無いっスよ。
俺そんなに器用じゃないけど・・・指、かして。」

「・・・は、い。」

押しに負けたような感じでおずおずと手を差し出した、痛みなんて感じる余裕が全くなく
目の前にいる好きな人に目を合わす事も出来ずにじっと自分の傷口だけを見るがバイトくんの
手が触れると激しく胸は高鳴り体が熱くなる、触れた部分から熱が発するようだ。

薬を塗り包帯をくるくると巻いている間何も話す事が出来ず静かな空間で高鳴る鼓動が
聞こえてしまわないかとギュッとエプロンの裾を握り締めた。

「あの・・・あ、ありがとうございました。」

手当が終わり頭を下げる、息も出来ない程に緊張するがそれでももう少しこのまま
一緒にいられたら良いのにと思う。

「いや、・・・きみのそれ・・・」

「おい!早く戻れ!」

「あっ、はい!今すぐ戻ります!」

バイトくんが何かを言いかけるが店の中から聞こえて来たオーナーの大声にかき消された。
まだ仕事の途中で剥かないといけない野菜も残っている、怪我をしたと言っても
指を切っただけなので休む事も出来ない。大きな声で返事を返して慌てて厨房に戻る途中に
立ち止りもう一度軽く頭を下げて駆けて行った。厨房に戻った後でも白い包帯が巻かれた
指を眺めては彼の姿が浮かび心臓が高まる、その日は今までにないくらいの胸の熱が冷めない
興奮が眠りを妨げ長い夜が短く感じた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ