ゼルダの伝説
□ムジュラの仮面
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時計塔を取り囲むように創られた町に時の勇者と勇者の魂に長きに渡り使える使者司令官が旅をしていた。
クロックタウンからタルミナ平原に出た2人は海を目指して進む。
「呪われた仮面の力とは、はかりかねるものがありますね。」
司令官は先ほどゾーラの仮面で変身したリンクを神妙な面持ちで見ていた。
「まぁ・・・最近じゃ馴れてきたよ。」
自身のゾーラの腕を擦りハイリア人との質感の差を感じた。
少しゾーラリンクを見上げて見ていた司令官は昔を懐かしむように微笑んだ。
「このぐらいの身長さだと時を超えた7年後の時の勇者様を思い出します。」
自分の頭の上からリンクの頭に手をかざして楽しそうに話す姿にリンクも少し前の事が思い出される。
キコリの森から巣立ちガノンドロフを倒す使命を課された。
封印された聖剣マスターソードを台座から引抜き7年の時を眠りに付き、幾度と無く時を行き来しては倒す力をつけて旅をした日々。
「出会った頃と見た目はあまり変わらないけど、時の旅で精神年齢が7年以上超えてしまったよ。」
「大変な旅でしたものね。」
闇の力を退くことが出来たがそれは一時の封印でしかない。完全に滅される時まで時の勇者の魂と共にお仕えする使命。
「こうして俺が司令官を見下ろすまで7年もかかるのか、先は長そうだ。」
もっと牛乳飲まないとなとリンクはため息を吐き出して空を仰ぐ。
「急ぐ事はありませんよ、子供の姿の時の勇者様は可愛いですし、私はいつまでも勇者様と共にありますから。」
包み込むような優しい笑みにリンクは複雑そうな表情を浮かべる。
グレイトベイの海辺に立ち止まった。
「子供扱いはよしてくれ。」
海の上に浮かぶ海洋研究所の方向に顔を向けてリンクは不機嫌な声色で言う。
怒らすつもりで言った意味は無くただ思ったことを話した司令官は困ったようにリンクの顔を伺う。
「勇気のトライフォースの魂を受け継ぐ者だから・・・側に居るって言われても俺は納得してないから。」
「時の勇者様・・・。」
少し顔をしかめたリンク、コキリの森で出会った時に何故司令官がリンクに使える使者なのかを話した事があった。
まだ幼かったリンクは共に外の世界に冒険してくれる仲間と認識をしていた。
「私がお仕えするのは迷惑でしたか・・・?」
「そうじゃないよ、ただモヤモヤする。」
海岸をゆっくりと歩きながらリンクは考えているように口元に手を当てる。
岩陰まで行くと石に腰を下ろした。
リンクの前で心配そうに見ている司令官に何か言おうとしては言葉を飲み込むように口をつぐむ。
「・・・名前を呼んでよ。」
「え、どうしたんですか?」
やっと口を開いた言葉に司令官は首をかしげた。
「モヤモヤする原因を少しは軽く出来るから。」
立ち上がったリンクが見下ろす。
どう言った意味があるのかわからないが勇気のトライフォースの魂に忠誠を誓っている司令官は名を呼ぶことでも躊躇いがあった。
「勇者様では・・・ダメでしょうか?」
リンクは衝動的に司令官を抱き寄せて怒りにも似た声を発した。
「俺はっ、俺を見て欲しい!勇者の魂じゃなくてっ。」
ゾーラの体に抱き締められすっぽり収まり肌は濡れているようにヒンヤリとして冷たさが司令官に伝わる。
そんな冷たさとは対照的に司令官は困惑と恥ずかしさで顔から火が出るように熱が上がる。
「えっと・・・っ、私は、どうしたら。」
ワタワタと狼狽えるしか出来ない、勇者の魂に使える司令官は道を踏み外すようなことは出来ない。
「・・・嫌なら抵抗して。」
「っ!」
リンクは司令官の顔を少し上に向けると優しくキスをした。
驚きで司令官は固まってしまうが決して逃げたいとは感じない、無抵抗のまま大人しくしていることにリンクは受け入れてくれた事を感じる。
何度もお互いの唇にキスを落とす。
角度を変えては息もつかない程長く。
「っあ、勇者様っ、もう、・・・リンク様っ。」
長い長いキスに耐えられなくなった司令官はリンクの胸を押すがピクリともしない、名前を呼んだ時にやっと口がゆっくりと離れた。
「リンク様・・・っ」
「やっと呼んでくれた。」
息が上がり顔を赤らめて動揺している司令官に満足そうにリンクは微笑む。
そんなリンクもゾーラの水色の肌が赤らんでいる。
「大丈夫、誰も見てない。賢者も精霊も・・・ここに居るのは俺達だけだ。」
罪の意識を感じている司令官に優しく声をかけて抱き締める。
「この事は俺達だけの秘密だ。」
その言葉に頷く事しか出来ない。
本当なら仮面で姿を変えている時にキスをするつもりは無かったが子供の姿のままでは簡単に受け流される事がわかっている。
7年待てる程リンクは大人でも無かったということだった。