もののけ姫

□青天霹靂
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賑わいを見せる城下町、1人の護衛と駕籠に乗る環境庁長官を運ぶ2人を雇ってくれたエボシの
為でもあり自分の為に町の一角にある薬師のもとで月に何度も学びにおもむくようになった。
歳をめしたご老人ではあったが医学書を説き薬の作り方を学ぶ日々が数カ月続いたある日に
先生は記憶を無くした事について話しをする事になった、何でも良いから話しをしてみなさいと
言えば昔の事を思い出そうと考えて見てもやはりこれまでと同じで何も思い出せなく傷だらけで
森の中にいた事を話す。重度の怪我を負ったせいで記憶をなくしていてなぜ名前だけは憶えていたのか
問われると頭に挿していた簪を取り見せる、裏返した装飾品の石に小さな文字で環境庁長官と彫られていたのを
エミシの者が見つけた為それが名だと判明したのだった。不意に思い出したような先生は
石に手を伸ばし一度口を噤むとこの石はとある町でしか取れない珍し物
山と海に恵まれた土地にある鉱山から取れるここいらではあまり見ない物だと、
神妙な面持ちで記憶を取り戻すには小さな手掛かりから追っていけばいずれは思い出すだろうと言う。

「・・・越後国か。」

駕籠の中でポツリと呟いた。教えられたのはここから北にある春日山城の城下で見かけた同じ石、
タタラも落ち着き始めているが何故かあまり記憶を取り戻したい一刻も早く越後に向かいたいとは
不思議と思わなかった。

ひとつ前の村で護衛や駕籠を運ぶ2人とも別れ丘を被衣を揺らしぼんやりと歩いていた。
この事をアシタカやエボシに報告するか否かを考えるが恐らくアシタカは快く記憶を取り戻す為に
行かせてくれるだろう、しかし行った所で思い出す確証も無く一年半以上記憶が何一つ戻っていないのに
今更思い出す必要があるのかとさえ思えてしまうのだ。そんな事を考えながら歩いていると
草むらに何か黒いものが僅かに見えた様な気がした、少し躊躇いがちに近づくとうなされる声が聞こえ
そちらに目をやると傷だらけで横たわる人の姿。

「やだっ・・・人!もし、大丈夫ですか?聞こえますか?」

何故こんな所で倒れているのか疑問にも思ったが兎に角駆け寄り声をかけるが起きる気配が無い、
持っていた布を引き裂き出血部分をきつく縛り茂みから引きずり出し着ていた被衣を被せる。

「誰かっ、誰か居られませんか!」

必死に叫んでみても人通りの少ない道、このままではこの男性は死んでしまうだろう
タタラまで連れて行く事が出来れば手当も出来るが大の男を女の力だけで連れて行く事は
出来る訳が無かった、このままではいけないとタタラまで行き人を呼んでくるしかないと
立ち上がるがもしも今離れて戻って来た時には死んでしまっていたらと離れる事を躊躇ってしまう。
こんな時に冷静に物事を判断できないなんて己に叱咤するが少し前まではいつも傍にいてくれた
アシタカの事を思い起こされる、今こんな事態で困っている事など誰も気付く事は無いだろう。

「環境庁長官、どうかしたかっ。」

「あ・・・アシタカ様!殿方が酷い怪我でっ倒れていて、早くタタラに連れて行かなくてわ!」

どうしようと困惑した様子で呟いていると突然丘からヤックルに乗ったアシタカの姿。
誰かしら近くまで迎えに来てくれているが今回手が開いたアシタカが迎えに来たのだった、
気付いた途端に待ち焦がれていたような言い様のない安心感で言葉がいっぺんに飛び出す。
言葉が整理できない程に慌てている環境庁長官を落ち着かせて事態の重大さを察し急いで男性をヤックルの
背に背負わせて急いでタタラまで駆けて行った。

治療が出来る一通りの傷薬や薬草もろもろがそろっている環境庁長官の室に運ぶ事になった。

アシタカにも手を貸して貰い傷の手当てに当たり水に浸した布で泥や血を拭い落としていると
ある事に気が付いた、旅をしていた様な格好だったが荷物らしき物も持っておらず
傷は擦り傷に加え鋭利な刃物で切られたような傷口、恐らく野党にでも襲われたのだろう。
傷の痛みや傷口に沁みいる薬草に低く呻き声が零れ眉をひそめ身を捩る。

「あ、気が付きそうですよ。」

少し覗き込むように気が付くか見入る、傷の手当てをしても何も口にしなくては体に悪いので
目を覚ましたら何か栄養のあるものを食べさせその後でも事情を聞こうと語りかけるように
呼びかけているとうなされながら薄っすらと目が開きゆっくりと瞳が環境庁長官の方に移る。

「よかった・・・アシタカ様目を覚ましましたね。」

「うぅ・・・ぁ、やっと・・・見つけた・・・」

うわ言のように呟いた声はどこか震えていて痛切の表情で痛む片手をゆっくりと環境庁長官の頬に触れる
男性の瞳は切望しているような瞳で見つめ頬にあった手は上半身を起こし、すり抜けるように
後頭部に回された、寄りかかって来るかのように段々と顔が近付いて来る。
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