もののけ姫

□酔眼朦朧
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湖はキラキラと火の光を反射し宝石のように輝いている、葉の擦れる音は唄でも奏でているような
穏やかな風景。多くの命を吹き消した争いは森も人も大きな被害を受けシシ神の最期で森と人の戦いは
終わりを告げた、枯れて地に倒れた大きな木々の森も小さな命を萌えらせ新たな生を生み出す。

「これからどう致しますか。」

「タタラに留まろうと思う、これからの復興の手助けとこの地の行く末を見届けたい。
またこの様な事が起こらないように良き方に進む手伝いをしよう。」

人はいつまでも争う事を止める事は出来ないかもしれない、格差があれば妬まれ恨まれる。
手に入らない物は力尽くでも奪い合う、領地を奪い合い幾度も戦を繰り返すだろう
それでも争い以外の方法を見つけ出す事を止めなければ命を奪い合う事は少なくなると
戦では何も解決しない事を多くの犠牲を払いここの者達は学ぶ事が出来た筈だ。

「共にこの場所で力を尽くそう、シシ神が私を生かした意味もそこにあるかもしれない。」

森も人もどちらも欠けてはいけない筈なのだ、人間も自然の一部で均等を崩すのも人の欲からくるが
森を守ろうとする人間もいる。

「はい、これからは忙しくなりますね。怪我人の手当をしたら家屋を建て
木を植え森を元通りに戻せば森の生き物も帰って来ましょう。」

エボシや他の者達の思いもあり2人はこのタタラ場にいる事を決めた。一度全てを失ってしまえば
零からの出発は容易には行かないが失って気付く事も多くあったのだ、もう一度建つこの場所には
タタラ場では無く町に変わる事を皆は誓い山を削り森を侵す事はない。

それからというもの皆は力を合わせて復興に全力を傾けた、骨が折れる思いだったが弱音を吐く者は
いなかったのは自然はいつでも生き物全てを育み恵みを与え無くては生きていけないのに
壊し続けていた報いもあったのだろう。だからこそここから逃げ出す事は出来ない、向き合わなくては
いけないと言う強い思いがあった。しかしここで得られる生活品は限られていたがエボシは何処かの
公達に宛てた文を届けさせれば数日で物資が届けられた、侍との戦もあれっきりに途絶えたのは
タタラ場が跡形も無くなり鉄をつくり出す事が出来なくなった場所には用が無いのかあの戦で
誰1人帰って来ない事で手を引いたかは定かではないが暫しの間攻撃される事も無くなるだろう。

建家が建ち人々が暮らすには困らない程度には整い農耕を栄える事まで出来た頃に
エボシのはからいで酒宴を開く事になった、日々の苦労を慰労の感謝をこめての事だ。
全ての事がひと段落ついた頃を見計らい少し肌寒くなってきたこの季節になってしまったが
皆は喜び宴の準備を始める。全員が集まれる屋敷に料理や酒が運び込まれ農作や大工といった
各々の仕事を終えれば日も沈み夕方に宴が行われている、囲炉裏を囲んだ席で久々に羽でも
伸ばすかのようにどんちゃん騒ぎに賑わっていた。

「さぁ、さぁ!無礼講だ、みんな飲めっ!」

食事に並べられて置かれている杯と大量に積まれている米酒や日本酒が振る舞われる。
牛飼いの男が奇妙奇天烈に踊ればその周りの者達は声を上げて笑いながら音頭の手拍子を加えたり
また別の者達は世間話で盛り上がり他には目もくれないで各自で楽しんでいた。
酒が入ればほろ酔いで絡んでくる者も多くトキを始めとする女達の輪に加わる環境庁長官も例外では無く
お茶を啜り食事を食べていれば女達に絡まれる。

「アンタ何でこんな席で茶なんて飲んでんのさっ、ほぉら!こっち飲みなよ。」

トキにお茶を取られて無理に渡されたのは酒、この場の雰囲気と酒の匂いだけでも酔っ払いそうに
なるのに渡された酒の強い匂いに少し顔を引きつらせる。

「お酒を頂いた事ありませんし・・・私はこっちで。」

「飲んだ事もないのっ?そりゃ人生損してる、ほら、あそこ見てごらんよ。」

お茶を取り戻そうと手を伸ばせどひょいっとかわされ遠くに置かれてしまう、女達は目元が笑いながら
呆れたように信じられないと口を合わせて言うと突然トキは環境庁長官の肩を抱き指さす方向に向かせると
少し離れた所でエボシやゴンザ、頭と言った他面々と共に杯で酒を飲んでいるアシタカの姿が目に入った、
水でも飲んでいるかのように顔色変えず涼しい顔でいつもと変わらなく酒を飲んでいる量も
進められれば断る事無く次々飲んでいた。

「・・・アシタカ様、あんなにお酒に強かったんだ。」

驚いたように呟くがその声は周りのうるさ過ぎる騒音でかき消される。

「酒が飲めなきゃ一緒に飲みかわす事も出来やしない、酒を飲んで話せる事もあるんだ。
いいのかい?アシタカ様が飲めてアンタが飲めないなんておかしいじゃないさっ。」
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