もののけ姫

□生者必滅
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「えぇー、明日行っちゃうの?」

女達の仕事場の前では手の空いている者達が出て行く2人に残念そうに集まっている。
一通りタタラを踏んだアシタカはトキ達と他愛無い話しをしている少女に声をかけた
何か話しがあるようで一端お喋りを終わらせて駆け寄りこの熱さとタタラの仕事で汗を流している
アシタカに裾に入れてある手拭いを渡した。

話しを聞くとどうやら明日にはこのタタラ場から出て行くと言う、今日の所は日も暮れてしまい
外を出歩く事が出来ずこの場所で旅に疲れた体を休めてから出発するようだ。
行こうとしている場所はこのタタラ場の目の前にあるシシ神の森に今一度向かおうと
聞かされた環境庁長官は少し驚いた様子でいたがエボシが言っていたもののけ姫と呼ばれる人が
森に住んでいる事を思い出すと話しをしに行くのだろうと察する。

「もっといればいいのに。」

「ここで働きなよ!」

「ありがとう、どうしても会わなければならない者がいるんです。」

滅多に他の人間が来る事のないタタラ場では珍しくてしょうがないのか良い男と見て
気に入ったのか引き止めようと話しをするが2人には時間が僅かしか残されていなく
いつまでもここで休んでいる事もタタラで働く事も考えられない。そしてやっとの思いで
この地まで辿り着きタタリ神の経緯やシシ神の存在を知る事ができ呪いを解き放つ望みが
見えて来た今一刻でも早くと気持ちが前に進んでいる。すると突然アシタカの表情が変わり
何かに気付いた様子でゆっくりと左を向いた、どこか別の何かを感じ取っているのか遠くに
目を向けて少し黙る。何があるのか分からず首を傾げているとアシタカは呟くように言う。

「・・・来る。」

そう言うと駆け出して行く、良く理解できなかったが環境庁長官は慌てて女達に頭を下げると
急いで後を追い走って行く何かを探しているように小走りだった為に何とか追いつく事が
出来ると突然どこからかけたたましく警報の鉄を叩く音がタタラ中に響き渡った。
その音に人々はどよめき慌ただしくなっていく、人伝いに警報の原因はもののけ姫が
このタタラに現れたと口々に広まった。

入り組んでいる道を走って行くと松明を片手に他にも走り回っている者達とすれ違う
緊迫とした空気が張り詰めていた。よくよく耳を澄ませてみれば雑踏雑音に混じり
石火矢の打つ音が幾つもなっているエボシ自ら自分の命を狙い続けていると言っていた事を
考えればそのもののけ姫はエボシの命を狙って乗り込んで来たのだろう。駆けていたアシタカは
何かに気付き足を止めた、上を見ると屋根の上を人とは思えない疾走で駆けて行く人影が
夜の空に浮かんでいる。赤い仮面を付け仮面に付いている白い毛は髪のように背に垂れている
姿はもののけ姫と呼ばれるのも分かる程に獣のように映る。

「アシタカ様っ!」

もののけ姫が向かっていた場所が石火矢衆の放った弾が屋根の上を壊し目の前を攻撃され
足を踏み外したのか体を丸めくるくると回転をしながら地面に獣のように軽々と着地をした、
目の前にいたアシタカ達を着地すると同時に前屈みに立ち上がり短剣を振り回す。

「やめろっ、そなたと戦いたくない。」

剣を抜き攻撃を防ぐが素早い動きでいきつく暇など与えないもののけ姫は何も答えず
男の1人が松明を振り下ろすと軽々と避け人の動きとは思えない程に簡単に屋根の上に跳ぶ、
屋根に跳び移りながら速度を落とす事無く何処かに向かって行った。

「屋根の上だ!」

「御殿の方に行くぞぉ!!」

松明を持っている男が大きな声で叫んだ、武器を持った男達は何かを叫びながらもののけ姫が
向かった御殿の方向に地上から走って行く。少しだけ唖然とアシタカは止まると直ぐに周りを
見回した、すると家の壁に立て掛けてある材木に気付いたアシタカはばっと駆け出し不安定な
木を土台代わりに踏みつけ屋根の上に飛び乗ったそのままもののけ姫が向かった方向を辿り
屋根を跳び移りながら駆けて行ってしまう、いつもなら気遣い何かしら声を少女にかけて
くれるがまるで気付いていなかったかの様にその場に置いて行かれてしまった。

声もかける暇などなくアッと言う間にもののけ姫を追い、行ってしまったアシタカの瞳には
あの娘しか映っていなかった、こんな状況では猪突猛進のアシタカなので仕方がないが
それでもどこか環境庁長官の胸がざわつくように痛む。この痛みは何なのだろうか、心が泣いているようだ。
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