もののけ姫

□創業守成
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タタラの女達に手を引かれてどこかに連れて行かれている、アシタカの承諾もあり
食事の途中で出て来た事は少し心残りには感じていたか其れよりも浮足立つ気持ちで
駆けて行く。家から出た外は薄暗いが牛飼い達が持って来た米俵が大量に積まれ
その米を貰いに行く者達が袋や桶を手に群がり賑わっている軒先を横目に通り過ぎると
とても大きな高殿建物の前に辿りついた、屋根の上からはもくもくと上がる白い煙がのぼって行く
シシ神の森と言われる丘から見た煙の大半はココからのぼっていたようだ。

大きな門のような戸の前まで来ると中からはむわっと纏わり付く熱気が出ている。
思わず戸の前から逃げてしまいそうになるが他の者達は慣れているのか熱気など気に
していないように中に入って行く、中には皆が布一枚の簡単な服装をしているのは
その熱さ対策の為だったようだ。女達の働く家屋の中に環境庁長官が足を踏み入れて行くと
立っているだけで汗が滲む、少女の服装は十二単のように着込んでいる訳ではないが
それでも肌着に少し厚手の着物に帯をピシッと着ていては汗も出て来る。本当は長い裾を
ひざより上で折り曲げて動きやすくしている為足は上半身よりは熱が逃がされている。

入って見ると最初に目に飛び込むのは大きな筒のような物体だった、その両端には
板を交互に踏んで何かをしている女達の姿。呆然と見上げていると板を踏んでいる者達の
奥から声が飛んでくる。

「アンタそんな所で立ってっとぶっ倒れちまうよ。」

笑われるような口調で呼んだのはトキ、地面に藁を敷き何人もの女達が休憩をとっている
煽いでいた団扇でこっちにおいでと言うように手招かれ休憩している女達の方に歩いて行く。

「おトキさんもここで働いているんですね。」

「あぁそうさ、女達はみんな交代でタタラを踏んでいるんだ。」

タタラはここの収入源。そんな仕事があったのもタタラ場と言うものも見聞きするのは
初めてで働いていると言っても何をしているのか分からなくトキや他の女達に聞いて見ると
分かりやすく大雑把に教えてくれたタタラが出来始めたのはここ最近の事でそれ程流行して
いない為に初めて聞く者も少なくは無い。真ん中にそびえ立つ筒のような物は炉、女達が踏んで
いるのは天秤鞴と言うとても大切な風を送る装置、踏むのを止めてしまえば炉の火が消えて
中にある砂鉄は不完全なまま塊使い物にならなくなり鉄としての価値が失われると言う。

その為に一度砂鉄を作り始めれば火は付けられ四日五晩踏み続けなくてはならない。
とても大変な仕事で重労働の仕事のようだ、それでも交代を繰り返しながら風を送り
支え合いながら火を付ける。

聞き終えるとトキは少し意地悪そうに笑いながらせっかくだからと
タタラを踏んでみないかと背を押す、環境庁長官も少し好奇心で二つ返事で返し一ヶ所場所を
空けてもらい隣の人を見おう見真似で間合いを測り踏んでみると思っていた以上に重く
ずっしりとしている、炉の熱気のせいで数回踏んでいるだけで汗は流れ目眩が起こる
たった十回踏んだだけで音を上げて元の人に変わってもらいトキ達のいる場所に
へばって伏せるとこうなる事が分かっていたように女達は笑っている。この熱さが
無ければまだ出来たと思っていても口にした所で強がりにしか思えずまた笑われるのが
分かり黙ったまま座り込んでいると団扇で煽ぎ風を送ってくれるお陰で体も段々とここの
環境に対応して行き笑い合い他愛ない話をしていた。

他の者達との交流はとても新鮮で打ち解けて話を沢山したのは久々に感じる、
ここの女達は隔たりなど感じさせないから環境庁長官も気軽に話が出来ているのだろう。

「あんた等は夫婦なのかい?」

「え?私とアシタカ様の事・・・ですか?そんな恐れ多い事、滅相もないです。
私はそうですね・・・御付きのようなものです。」

女の1人が気になっていた事を聞くとぶんぶんと違うと手を振りそんな立場の者で無い
事を言った、薬草から薬を作る事が出来る為役に立てるならと旅について来た事を話す。

「あら、そうだったの?男と女が一緒に旅なんてしてっから
てっきり夫婦なのかと思ってたんだけどねぇ。」

そんなまさか、と笑って事実でない事を告げる。しかしおこがましいと分かっていても
そう言われる事は不快ではなかった、話の流れでアシタカの事を聞かれついつい気持ちも
浮上していた為に口滑らかに次々とどんなに素晴らしいお方か環境庁長官がどれ程尊敬しているかを
述べて行く。出会った経緯やそれからのアシタカの事を崇めるように話すが一様はエミシの里の事や
他もろもろのアシタカの迷惑にならないように伏せつつ語りそれでも話す事は尽きる事無く
トキ達相手に永遠とアシタカの事をひたすらに少しだけ自慢げに話している。トキは頬杖をつき
話しの終点が見えない程の尊敬を語る環境庁長官になかば呆れ気味に苦笑いで話を聞いていた。
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