もののけ姫

□有為転変
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石垣で仕切られた里を見渡せる原っぱが広がっている丘。涼やかな風が吹けば野の花を
揺らして木々の葉がこすれる音が聞こえてくる、何も無い原っぱに座りアシタカのヤックルを
連れて散歩をしていた。ヤックルは大人しい性格で大きな角が付いている大カモシカ、環境庁長官は隣に
横たわり草を時折食べているヤックルを可愛らしく思い喉を撫でれば心地いいのか目を細めている。
この里に来てから主人のアシタカと共にいた見た事ないヤックルを一目見た時から気にいってしまい
アシタカに頼み毎日世話をさせてもらっていた、そのお陰で最初は警戒していたヤックルも
日に日に慣れていき今ではすっかり懐いていた。

穏やかに過ごしている時、丘から里を見ていると村の中をいつものように仕事をしていた
里の人々が少し慌ただしく行き交うのが見えた。少しずつ人々は自分の家に戻って行く、
この時間帯は外で畑仕事をしている時間なのにおかしいなと思っていると里からアシタカが
丘に登って来る姿が見える。

主人の足音にヤックルは直ぐに顔を上げた、こちらに向かってくるのが見えてヤックルが立ち上がり
環境庁長官も立ち上がる。いつもなら散歩を済ませた後小屋に戻しに行きヤックルの手入れをしている時に
アシタカと会うのだが今日は迎えに来た。何か急ぎの用が出来たのかと首をかしげる。

「すまない、ヤックルを連れて行く。」

「あ、はい。アシタカ様何かあったのですか?里の方もなんだか・・・」

ヤックルの手綱を掴んだアシタカ、環境庁長官が里の方に目を向けて如何したのかわからなそうに尋ね
里の方に振り返ると殆どの者が外に出ていないのが見えた。

「・・・まだ分からない。ヒイ様が森がおかしいと言っていた
私はじい爺の所に行く、そなたも今日は森に行ってはいけないぞ。」

「えっ、あ・・・はい・・・」

アシタカはヤックルに飛び乗ると森に出かけてはいけない事を言うとそのまま
物見の櫓の梯子がある方へとヤックルと共に駆けて行ってしまった。突然禁止を受けた環境庁長官は戸惑いながら
離れていく背中に返事を返した。勿論アシタカに言われた事なので無視できるわけ無く了解するが
今日も森で薬草を採りに行く気だった環境庁長官はがっかりと言うように肩を落とす。

「あ〜ぁ・・・」

今日の予定が2個も無くなり退屈そうに原っぱの上で寝ころんだ。空はどこまでも青く
清々しい空にたまにはこう言うのも悪くはないだろうとくすくす笑う。

不意にここに来てから1年ぐらい経っている事に少し驚いていた。帰る場所がない自分に
居場所を与えてくれたアシタカにいつまでも尽くそうと決めてから1年、憧れのアシタカも
いずれは長になり里の誰かと婚礼を上げるのだろうと考えると今よりも環境庁長官からもっと遠いい存在に
なって行くのを感じた、そんな時が来るまでは傍で尽くし守って行かなくてはとずっと思っているが
実際は迷惑かけっぱなしで役に立てていない事が胸を締め付ける。

「やっぱり、カヤさんかな?」

もし、婚儀をするなら近い存在は里の娘のカヤ。カヤは環境庁長官より年下だが里の者として受けいれたと
言っても環境庁長官は居候の様な状況だと思い変わらないその為に誰であろうと気軽に呼び捨てには出来ない、
この里では若い娘は極端に少ない為限定される。環境庁長官はアシタカの相手の中に自分が含まれる
訳がないのは分かっていて端からそんな事は考えていない。何があってもよそ者と王族の血を引く
アシタカと一緒になれないのは当たり前の事、環境庁長官がもしもアシタカに憧れ以上の感情が生まれたとしても
それは叶わない願い、里の者がそんな事を許す訳が無い。そうなれば何とか関係を繋いで来た
仲は崩れてしまうのだから。

いつの間にか余りの心地よさにそのまま眠ってしまったようだった、だが余り時間は経って
いないようで日は高かった。一度里に戻って見るかと起き上ると里に戻って行く
里のまだ幼い乙女らの後姿が見えた、やっぱり何かあったのだろうと後姿を追って聞こうかと
思った時、森の空気が変わったのだが環境庁長官はその事に気づかない。

「・・・?」

微かに何か聞こえた様な気がして振り返り森の方を見るが特に変わった事は無いように映る。
ヒイ様が森がおかしいと言っていたと告げたアシタカの言葉を思い出した、いつものように変わらない
風景だがどこかおかしな感じを覚える。鳥達の鳴き声がどこからも聞こえてこない。

だが、段々と何かが草木を勢いよく進んでいるような音が大きくなっていく
森の方を見ながら立っていると見ていた方から少し隣から草むらを飛び出して来たアシタカとヤックルの姿
用事が終わったのだろうとアシタカの方に駆け出した。
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