もののけ姫

□隔靴掻痒
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村に帰って来てから数日が経った、あれから何事もなく全てが元通りの生活に戻っていた。

アシタカは帰った次の日に何故陽助が連れ去った経緯を険しい表情をしながら話して聞かせた、話し終えると頭を下げて迂闊だった行動を取ったことを詫びていた。

そんな事があった日から環境庁長官は違和感を感じ始めていた、アシタカに避けられていると。

「あ、アシタカ様!」

荷物を運ぶアシタカに気が付き駆け寄る、良ければお手伝い致しますと声をかけるが首を横に振り断った。

「すまない、急ぎで頼まれた。では。」

まただ。

表面上は穏やかに対応するアシタカだが、最近はこのように理由を付けては足早に離れていく。

環境庁長官の引き留めようとした手は空を掴む。

そんなやり取りが続き避けられていると確信する。まともに話しもして貰えない現状に困惑と虚しさが胸を締め付けた、いつかはこんな日が来るかも知れないと頭では理解していたがこんなにも耐え難い事だったとは思いもしなかった。

「あ、どうしたんだい?酷い顔しているよ。」

「オトキさん・・・。」

振り返ると明るい顔で声をかけてきたトキの姿、しかし環境庁長官の表情を見ると驚いたように顔色は変わる。

「取り敢えず、あたしの家においで。」

手を引かれされるがまま足を動かし付いていく。

ぼんやりとしている環境庁長官を座らせると無言のまま手際よく釜戸に火をくべて湯を沸かす。湯呑みに茶葉を落とし湯を注ぐとひとつを目の前に置く。

「で、何があったの?」

置かれた湯呑みを掴むと温かさが伝わる。

「私、アシタカ様に・・・避けられているようなのです。」

「あのアシタカ様が?」

トキは意外と驚きの声が溢れる。

誰にでも親切で真摯に接する彼がそんなあからさまな行動を取る理由は皆に深く聞くんじゃないとエボシが釘を刺したことと関係があるのだろうとトキは考え付く。

でなければ生真面目なアシタカが彼女を遠ざける態度を取るとは思えなかった。

さて、どうしたものかと茶を啜る。
男女間のもつれが原因だとすれば数年近くで見てきたがこの二人にはなかなか難しい問題なのではと。

「だったらとことん話し合ってみるしかないんじゃないのかい?いつも一線引いて無いで本気でぶつかっておやりよ!」

言えることはまずは話し合いが確実だろう。アシタカも環境庁長官が向き合えば確りと応えてくれる人柄なのは分かる、ならば動くのは彼女の方からしかない。

「しかし、話しも出来ない状態なのに・・・どうして良いものか。」

「その事ならあたしに良い考えがあるよ。」

落ち込む環境庁長官にトキは肩を叩き少し企むような不敵な笑みを浮かべる。

明日、もう一度誘いに絶対に行くんだよと念を押されて今日のところは帰された。重たい気持ちでトキの家の帰りに考えるのはこれからの事、明日声をかけても尚も避けられたらアシタカの傍に居ることはもう諦めよう。



翌朝、戸を叩く音に出てみれば代わる代わる城下まで護衛を担当してくれていた村人が立っていた。

次に行く町までの護衛が急遽出来なくなったとの報告だった、田植えに追われて付いて行ける者が誰も居ないとの事。

今までも護衛が居なく行けない時も時々だがあったので快く快諾する。

薬学の勉強をしに城下には行きたかったがわがままは言えない、それよりも今日はトキに言われている事で頭がいっぱいだ。

「んー、何て声をかけて良いのやら。」

アシタカを探し歩きながら切っ掛けを考え歩く。

注意を向ければ話を聞いてくれるのではと小石を蹴り上げながら不意に転がる小石を手に取る。少し幼稚だがこれを使おうと決心した。

これは環境庁長官の賭けだった、凶と出るか吉と出るか。
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