もののけ姫

□一言半句
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実りの季節も刻々と過ぎ、葉は青々とした緑色から紅葉を深めて行く。
いつの間にか道中で倒れていた陽助を助けた日から季節が変わろうとしていた、忙しい日々に時が経つのは早いものだと感じさせる。


「・・・おい、環境庁長官どうしたんだよ?」

「え?あ、陽助さん。」

遠くで何か言っているようにぼんやり感じていたが思いの外近くで何度も声をかけられて
漸く自分に言っている事にはっと気が付き顔を上げれば訝しげに見ている陽助の姿。
そう言えば傷の経過を見に来ていたのだと思い出す。

「ご免なさい、何でもないです。すっかり傷も良くなっていて安心しました。」

いけない、いけないと心の中で呟いた。陽助を見つけた当時は命に関わる程の重症者だったが
献身的な介抱と患者の体力で今では順調に回復して1人で出歩けるほど治り切っている、
もう頻繁に様子伺いも往診も必要無くなっていた。環境庁長官は持って来た薬一切を風呂敷に終う、
着物を着ながら陽助はもの問いたげな表情で見つめたが何を聞いても話さないでひとり抱え込む
性格だと言う事を前から知っている為問い掛けても無駄だなっと乱暴に自分の頭を掻きため息を付く。

「ほんに、そこんとこも変わらねぇな・・・。」

「え?」

「頭が今晩人少なながらに俺の快気祝いを開くそうだ、勿論あんたも行くよな。」

聞き返そうかと顔を上げるが陽助は今晩開く祝宴に肯定前提で話す、勿論回復祝いなので
断る事は無い。しかし陽助の全快祝いと言うよりは楽しく酒を飲みたいだけの口実だろうと
呆れた様子で話した。

「ならばアシタカ様もお誘いかけときますね。」

頭が筆頭ならアシタカにも既に話しがつけてある筈だが一様声を掛けておくと環境庁長官の
口からアシタカの名が出た瞬間、陽助の表情が変わったように思えた。



夕方になりアシタカに宴が開かれる事を話せば少し間を置いたアシタカは分かったと頷く。
しかしまだ仕事がある為に開かれる時刻よりも遅れていく事を伝えてほしいと環境庁長官に
言付けて仕事場に戻ってしまう、仕方が無いとその場を後にし一様陽助の元まで迎えに行くと
丁度これから向かう所だと2人は会場まで行くと何やら戸の外まで零れる声に戸を開く。

「おい、おい、主役差し置いてもう出来上がってんのかよ。」

男衆は酒肴を囲い面白おかしく呑み交わしている姿に待たずに始めている者達見ながら
呆れかえった様子で言葉を漏らした、苦笑いで空いている席につけば何時来たんだと
驚く者や怪我が治って良かったじゃないかとわらわらと寄り集まって来る。

余り馴染めていないのではないかと心配をよそに陽助はこの場に溶け込んでいる事に
環境庁長官は安堵する、男だらけの宴会では食事を食べ酒を飲んでは騒いでいるばかりで
片す者も運ぶ者も居なく結局環境庁長官は放って於けず宴に参加するより女房役に収まる。

しかし、酒の席での賑わいと独特の雰囲気に町の復興祝いでの事が随分と昔の事に感じられた。
あの時の事はいまだに二日酔いの記憶しかなく、何があったのかはアシタカすら話してはくれなっかのだ。
早々と宴を切り上げ帰った事は聞いていたので、酒を勧められるまま飲んでいたアシタカもさすがに堪えたのだろうと環境庁長官は解釈した。
食事を運びながら今度はしっかり程々に止めるよう見ていなくてはと、くすりと笑う。

「環境庁長官、動き回ってないで折角の全快祝いなんだ、酌を頼めるか」

陽助は騒々しい男達の声をものともしない低音で杯を軽く上げて見せ声をかける、
環境庁長官はいったん持っていた空の器を端に置くと足早に駆け寄りそっと隣に腰を下ろして
銚子を手に取った。

「勿論です、陽助さんの回復には目を見張りました。もう心配もありません、どうぞ宴を楽しんでください」

良い薬のお蔭だなと笑い杯に入れられた酒を一口飲むと辺境の地にこんないい酒があるなと感心しながら
味わうように酒を飲んでいる。まだ飲みなれていない環境庁長官は酒の味には疎く、風味を理解し美味しいと
言って飲める事が羨ましいとお酌をしながら周りを見ていると戸が開くのが見えた。
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