短編
□【愛慾】
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暖かくなってくると虫や動物達は行動が活発になり繁殖期を向かえるそして人間も例外ではないと、当たり前の事がその時までよく考えたことも無かった。
転々と建っている家屋、ひとつの家屋の前を横切ろうとした時に不意に聞こえてきた聞き慣れない音に官房長官は足を止める。
誰の家かも分からないが家の裏側から奇妙な物音に何の気なしに見てみようと足を向けた、角からそっと顔を覗かせて見るとその瞬間官房長官は息が止まった。
「は、は、ぁっ。」
男と女が艶めいた声を溢しながら体をお互いに打ち付け合って欲を満たしている姿。
二人は行為に夢中な上に後ろから見られている事には気が付く様子がない。
動物の繁殖行為だとなんの感情もいだかなかったが人間同士だとこうも生々しく淫らな姿に官房長官は目を背けることが出来ず冷や汗が頬をつたい落ち、心臓がバクバクと脈打つ。
その光景をどれ程動けずに盗み見ていたかも分からず後ろから口を塞がれビクリッと驚く。
「しっ、付いておいで。」
口を塞がれたまま見てみると人差し指を口に当てて声を出さないように指示するアシタカの姿、この時にアシタカと会う約束をしていた事を思い出した。
コクコクと頷いた官房長官は足音を出さないように静かにその場から離れる。
「ああいった所は他者が見てはいけない。」
声が聞こえない程まで歩いてくるとアシタカが言った。
中々現れない官房長官を迎えに行ってみれば家の角から目を奪われ動けない姿を見付けたのだ。角度的にアシタカは見えてはいないだろう、しかし聞こえてくる声と音で何が起きているのか察していた。
盗み見るつもりなんて無かったが彼女にとってあまりにも衝撃的な光景で目が離せなかった、道中も何か話をしていたがなんと話していたかも思い出せない程官房長官はぼんやり生返事しか返せない。
「官房長官?」
「あっ、えと何でしたっけ?」
声をかけられハッと意識が戻る。
せっかくのアシタカとの逢瀬をぼんやりしているなんて失礼な事と慌てて目を合わすとアシタカは黙って彼女の瞳をじっと見つめている、その意味にドキッと胸が鳴る。
何度かのアシタカとの接吻で瞳を見つめるこの意味が口吸いの合図だと分かっていた。
「んっ。」
顔を赤らめながらもそっと瞳を閉じるとアシタカは優しく口を押し当てる。
毎回の事ながら心臓が高鳴る、柔らかい唇の感触に先程見た男女の行為が頭の中に浮かんでしまった。
その瞬間、体に初めて感じる変化があった。下半身はもどかしいと言っているようなキュウッと締め付ける感覚、全速力で走った後のような息の上がり。
「はぁ・・・ぁっ。」
呼吸が乱れてきた官房長官にアシタカが気が付くと口を離す、彼女の顔は赤みが増し目がとろんとぼんやりしている事にひと目で発情しているとわかった。
「官房長官、体が辛いのか。」
「わ、私、何だか・・・おかしいです。」
もどかしそうに左右の太ももを擦り合わせている、瞳は潤んで吐息を漏らす姿は男を惹き付けるには充分な程。
先程の一件が原因だという事は直ぐに察しが付く。
「んっぁ、アシタカ様ぁ。」
もう一度アシタカは少し深く口吸いをすると難なく受け入れる官房長官に何度も繰り返し口を塞ぐ。
接吻をしながら背中に手を回し愛おしそうにしがみ付く官房長官にアシタカは心音が速くなる。
うっすらと開いている口に己の舌を口内に侵入させるとビクリと肩を揺らす、だがアシタカの舌を遠慮がちに受け入れると同じように舌同士を這い合わせているとクチャクチャとした音に下半身に欲が膨れた。
「ふぅ、・・・情けないが辛抱できそうにない。不快なら止めるように努力する。」
「ぁあっ。」
切羽詰まったような真剣な瞳で話すアシタカは彼女の着物を少し強引に開くとはだけた胸元に顔を埋めて舌を這わす。
くすぐったさや恥ずかしさを感じていると自身の陰部がキュウッと締め付ける感覚から外に生暖かいものが太ももをつたうのを感じてそっと指で拭い見てみると半透明な液体がベットリと付いていた。
「・・・これは?」
汗よりは粘着質で嗅いだことの無い匂い。
「ずいぶん、濡れているようだな。」
「濡れ・・・?あっ。」
液体を指で摘まんで糸を引いているのを見ていたアシタカは官房長官の指を舐めはじめ体液を飲み込む。
その光景に止めないといけないと思っているのに体が余計に熱を持つ。指を舐められているのをはぁはぁと息を荒く見ているだけで舐められた体液がまた溢れているのを感じる。